第1話:最低評価の少年、ギルドに挑む
王都の広場を抜け、古びた冒険者ギルドの扉を押し開く。
「ふぅ……ここが噂のギルドか」
15歳の少年カインは、小さなため息をつきながら、木製の扉を勢いよく押した。しかし、その勇ましい入口の演出も、ギルド内の視線を集めるには至らなかった。なぜなら、カインのステータスが表示されるパネルに、驚くべき数字が浮かんでいたからだ。
――攻撃力:測定不能
――表示:0
「……0?」
カインは自分のステータスを見下ろして、思わず眉をひそめた。数字がゼロ。いや、正確には測定不能なのに0だ。世間の常識では考えられない異常事態だが、カイン本人はいたって冷静だった。
「まあ、そうだよな」
つぶやきながら、カインはステータス表示に肩をすくめる。何しろ、本人にとってはそれが日常。強いのに誰からも評価されない――それがカインの宿命だった。
「おい、そこのガキ……ゴミか?」
低く響く声に振り向くと、ギルド長ギレン(38歳)が腕を組み、冷ややかに睨んでいた。鋭い目つきに、ギルドの常連冒険者たちも思わず身をすくめる。
「ええっと……はい、まあ、そうですけど」
カインはにこやかに答えたが、その口調はどこか素直で、突き放された印象はほとんどない。むしろ、どじっ子っぽい愛嬌が漂っている。
「あんた、Fランクだろ? しかも攻撃力0だって?」
ギルド内にいたAランク冒険者アランとランド、Bランクのマークが顔を寄せ合い、囁く。
「こいつ、本当に戦えるのか?」
「いや、どう見てもゴミだろ」
そんな会話が飛び交う中、案内嬢マリン(18歳)が優しく笑いかけた。
「初めての登録ですね。大丈夫ですよ、カインさん」
マリンの柔らかい声に、カインは軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。たぶん……大丈夫だと思います」
しかし、その「たぶん」が示すように、カインは天然のどじっ子。ギルド内の規則も、冒険の危険も、まだよく理解していない。
ギレンはため息をつき、登録手続きを進める。
「まあ……試しにダンジョンの依頼でもやらせてみるか」
依頼掲示板には低ランクの森の迷宮が掲示されていた。モンスターは弱く、罠も少ない。初心者向けの安全な依頼だが、カインのFランク表示にギルドの冒険者たちは半信半疑だ。
「お、おい……Fランクの奴を連れて行くのか?」
アランが小声でランドに言う。
「見てな、きっと何もできずに死ぬさ」
しかし、カインは笑顔で手を挙げた。
「大丈夫ですよ。……たぶん」
そのどじっぷりが逆に、周囲の冒険者たちの眉をひそめさせる。
ギルドを出て、森の迷宮へ向かう途中。
カインは偶然に転んで石につまずき、森の茂みに顔を突っ込む。
「……いてっ!」
他の冒険者は呆れ顔。だが、次の瞬間、茂みの中から小型モンスターが飛び出してくる。カインは思わず手を振るだけで、モンスターは宙を舞い、地面に倒れた。
「えっ……今の何?」
マークは目を丸くし、アランもランドも口を開けたまま固まる。
「……いや、あいつ、本当にゴミじゃないかも」
ギルド内で0評価だった少年が、森の迷宮の入り口で既に小さな奇跡を起こしていたのだ。
そして、カインは笑顔で立ち上がり、仲間たちに向かって言った。
「さ、行きましょう。……たぶん大丈夫です」
森の迷宮に響く足音は、Fランク少年のどじっ子最強伝説の始まりを告げていた。




