表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/143

南方諸侯の反応

南方、温暖で穀倉地帯として知られる地方。

王都から見れば、豊かで、従順で、使いやすい土地だった。


その夜、各地の諸侯の館に、同じ封蝋の命令書が届けられた。


王都印。

非常時動員令。


ラグルス子爵は、書斎でそれを開き、

読み終えたあと、しばらく動けずにいた。


「……軍の、供出」


声が、かすれる。


「規模、全兵力の七割。

 即時集結。

 南部国境防衛に当たれ……」


側にいた家宰が、言葉を失った。


「殿……それは……」


「分かっている」


ラグルスは、震える手で書簡を机に置く。


「逃げ場がない、という意味だ」


南部国境。

魔王軍が、三大将を伴って侵攻してきているという噂は、

すでに商人たちの間で広がっていた。


「王都防衛軍は?」


「……動かない、と」


家宰が、報告を続ける。


「親衛隊も、留置」


沈黙。


「……我々が、盾か」


それは、問いではなかった。


同じ頃、別の館では、伯爵が怒号を上げていた。


「ふざけるな!!

 三大将だぞ!?

 我々の兵でどうにかなる相手か!!」


だが、怒りは誰にも届かない。


「拒否すれば?」


側近が、恐る恐る問う。


「反逆だ」


伯爵は、即答した。


「拒否すれば、魔王軍の前に、王国に殺される」


それが、現実だった。


南方諸侯は、理解していた。

自分たちが、時間稼ぎとして切られたことを。


「……勇者は?」


「南部防衛に回されるそうです」


その言葉に、わずかな希望が灯る。


「勇者が……」


だが、すぐに消えた。


「勇者が来るからといって、

 我々の兵が減らされない理由にはならない」


勇者は“要”。

諸侯軍は“消耗品”。


「王都は……本気で、

 我々が全滅する前提で組んだな」


夜が更けるにつれ、

各地の館で、同じ会話が繰り返された。


「兵の数は?」


「槍兵三百、弓兵百。

 騎士は、二十」


「……足りない」


「だが、出さねばならん」


若い当主の中には、顔を青くする者もいた。


「父上……戻れますよね?」


その問いに、父は答えなかった。


答えを、知っているからだ。


南方諸侯は、戦争を知らないわけではない。

だが、これは“戦”ではない。


消費だ。


兵を集め、武具を配り、

家族に別れを告げる。


「……なぜ、北は動いているのに、

 我々だけが……」


その疑問に、答えはある。


北は、王国の盾。

南は、王国の余白。


そう扱われてきた。


夜明け前、各地で太鼓が鳴った。

動員の合図だ。


農民が、商人が、

訓練の足りない兵が、武器を取る。


「殿……」


家宰が、静かに言う。


「この戦、

 勝てると思われますか」


ラグルス子爵は、窓の外を見た。


夜空は、静かだった。


「……勝つ必要は、ない」


苦い笑みを浮かべる。


「生き残れるかどうか、だ」


そして、その可能性が、

限りなく低いことを、彼は理解していた。


王都から見れば、

それは一枚の命令書に過ぎない。


だが、南方諸侯にとっては――

領地と血筋と未来を差し出す宣告だった。


夜は、重く、長かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ