王都炎上
王都南門は、最初から突破される前提で存在していなかった。
それは結果論ではない。
配置、兵力、指揮系統――
すべてが、「通常の魔族侵攻」を想定したものだった。
だからこそ、
最初の一刻で、戦いは終わっていた。
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魔族軍を率いていたのは、
上位魔族《焔侯ヴァル=グラディオ》。
魔王直属の軍団長ではない。
だが、複数の都市侵攻を成功させてきた、
**「王国崩し専門」**とも言われる実務指揮官だった。
巨大な角は持たない。
派手な魔力の放出もしない。
外見は、むしろ冷静な軍人に近い。
彼の武器は、
圧倒的な魔力でも、狂気でもない。
徹底した情報把握と、人的弱点の利用だった。
ヴァルは、王都防衛配置を知っていた。
勇者が不在であることも。
聖女が前線に出ていることも。
そして何より――
「王都は、守りを外へ出しすぎている」
という事実を、正確に掴んでいた。
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■ 魔族軍の規模
侵攻軍は三個中隊。
・重装魔族歩兵:約600
・魔導支援部隊:約120
・飛行魔族斥候:約40
・下位魔族・獣魔混成:約800
合計、およそ 1600。
数字だけを見れば、
王都防衛軍(常備軍+近衛+動員)
約4200 に比べれば少ない。
だが――
戦力は、数字ではなかった。
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防衛を指揮していたのは、
王都守備総監《マルセル・ローデン卿》。
老練な将ではある。
だが、彼の経験はすべて、
**「人間同士の戦争」か「散発的魔族襲撃」**だった。
彼は、正しい判断を下している。
南門に主力を配置。
予備兵力を市街に温存。
魔導士団を後方支援に置く。
――だが、それは
**“敵が常識的であれば”**の話だった。
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戦闘開始は、夜明け前。
飛行魔族が、
王都南区の倉庫街に魔導焼夷弾を投下。
同時に、
魔導支援部隊が、王都防壁の一部を
**「崩すのではなく、無力化」**した。
破壊ではない。
結界の再構築を不可能にする魔術。
これにより、
防壁は“存在しているが機能しない”状態になる。
混乱の中、
重装魔族歩兵が、整然と侵入。
秩序だった進軍だった。
略奪もない。
無駄な殺戮もない。
“軍事目標だけを潰す”侵攻。
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王都側は、対応が遅れた。
倉庫街の火災を
「陽動」と判断するまでに、
すでに魔族は三方向に分散。
・魔導士団詰所
・通信塔
・兵站集積所
これらが、
ほぼ同時に制圧された。
通信は寸断。
命令は届かない。
マルセル卿は、
近衛兵力を投入する決断を下す。
だが、その時には――
魔族の目的は、すでに果たされていた。
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戦闘時間:約三刻(約3時間)
・王都防衛軍
戦死:約1100
重傷・戦闘不能:約900
・近衛兵
戦死:約200
・民間人
死亡:約400
負傷者:不明(推定1500以上)
・魔族側損害
戦死:約150
負傷:不明(だが撤退可能規模)
王都南区――
事実上の壊滅。
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ヴァル=グラディオは、
勝利を誇示しなかった。
目標を破壊し、
被害を最大化し、
勇者帰還を強制した時点で――
命令を出した。
「撤退」
それは、
王都を“落とす”ためではない。
王国を“揺らす”ための一撃だった。
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マルセル卿は、瓦礫の中で立ち尽くしていた。
勝ったのか。
負けたのか。
判断すら、つかない。
ただ一つ、
確信していることがある。
「……これは……前触れだ……」
勇者が戻る。
だが――
王都は、もう安全ではない。




