表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/101

対戦

森は、異様なほど静かだった。

風は吹いているはずなのに、枝葉の擦れる音がしない。

虫の声も、獣の気配もない。


まるで、この場所そのものが、

何かを拒んでいるかのようだった。


レオン・アルヴァンは、足を止めた。

視界の先――瓦礫と崩れた地面の中央に、

アレインは立っている。


前と同じ場所。

前と同じ姿勢。

だが、決定的に違うのは、

こちらが剣を抜く覚悟を持っていることだった。


(……行くしかない)


剣の柄に指をかける。

一瞬、ためらいが走る。

だが、それはもう、引き返すための躊躇ではない。


剣が、静かに抜かれた。


金属音は、驚くほど小さかった。

だが、その瞬間、空気が変わる。


アンデッドたちが、同時に動いた。

包囲ではない。

攻撃陣形でもない。

ただ、中心を守るための配置。


(……来る……)


アレインは、動かない。

それでも、圧が増す。

魔力の濁りが、視界を歪め、距離感を狂わせる。


レオンは、一歩踏み出した。


次の瞬間――

視界が反転した。


衝撃。

剣と剣が打ち合った感触はない。

それなのに、身体が吹き飛ばされる。


「っ――!」


地面を転がり、体勢を立て直す。

何が起きたのか、即座に理解できない。


(……今のは……)


アレインが、立っている。

距離は詰まっている。

だが、剣を振るった様子はない。


――否。

振るったのだ。


人間の動体視力では、

“剣を振った”と認識できない速度で。


(……速い……いや……違う……)


速さではない。

動きそのものが、人間の理解の外にある。


レオンは、剣を構え直す。

今度は、防御を意識する。


踏み込む。

剣を振る。


確かな手応え。

だが、切った感触がない。


剣先が、

アレインに触れた瞬間、弾かれた。


(……硬い……?)


違う。

硬さではない。


まるで、

「切る」という行為そのものを拒絶されたような感覚。


アレインが、初めて一歩踏み出した。


その一歩だけで、

空気が軋む。


怨念が、

形を持って押し寄せてくる。


(……これは……戦いじゃない……)


レオンは、理解し始めていた。


これは、

技の勝負でも、

力量の比較でもない。


存在の差だ。


剣を交えるたび、

自分が「人間」であることを突きつけられる。


アレインの剣は、

殺意を帯びていない。


それなのに、

逃げ場がない。


一太刀。

二太刀。


受けるたびに、

身体の奥が削られていく。


魔力でも、体力でもない。

心そのものが摩耗していく感覚。


(……こいつは……俺を殺すつもりがない……)


その事実が、

何よりも恐ろしかった。


では、何のために剣を振るっている?


答えは、明白だった。


――確認しているのだ。

勇者という存在を。

王国の正義を。

そして、

「まだ人間であるかどうか」を。


レオンは、歯を食いしばる。


「……っ……!」


叫びたくなる。

だが、叫んでも届かない。


言葉は、

この場では、

何の意味も持たない。


アレインの剣が、

レオンの剣を弾き、

肩口をかすめる。


痛みはない。

だが、

冷たい感覚だけが残る。


(……当たれば……終わる……)


それが分かる。


そして同時に、

自分が勝てないことも、理解してしまった。


この戦いに、

勝敗は存在しない。


あるのは、

“どこまで耐えられるか”だけだ。


レオンは、後退する。

一歩。

また一歩。


アレインは、追わない。

だが、距離は縮まらない。


常に、

逃げ場がない位置にいる。


(……これ以上は……)


限界が近い。


その瞬間――

空気が、変わった。


遠く。

極めて遠く。


だが、

はっきりと感じる。


異質な魔力の爆発。


(……王都……?)


胸が、凍りつく。


次の瞬間、

通信の魔導具が、震えた。


戦いは、

まだ終わっていない。


だが――

世界が、別の悲鳴を上げ始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ