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待ち構える

は深く、黒く、厚かった。


瓦礫の上に立つアレインの足元に、微かな振動が伝わる。

周囲のアンデッドが、音もなく、幽霊のように動く。

言葉はない。意思表示も、声もない。

ただ、感覚としての圧が伝わる。

その波の一つ一つを、アレインは読み取る。


(……来るか)


胸の奥で、血でも魂でもない、何かが熱くうねる。

怒り、憎悪、復讐心、後悔――

それらが溶け合い、塊となり、目の前の空間に重力のように降り注ぐ。

感情が、空気に沈む。

地面に落ちた瓦礫や骨を、微かに揺らす。


(……遅すぎた)


思考ではない。理性ではない。

感情の塊として、自分でも止められない衝動が、体中を駆け巡る。

かつて守ろうとした民、かつて信じた王国、かつて名を消された自分――

すべてが、怒りと怨念に塗り替えられ、彼を動かしている。


周囲のアンデッドが、微かに首を傾げ、視線を向ける。

言葉はなくとも、意思の存在だけが鮮明に伝わる。

彼らもまた、かつて切り捨てられ、不要とされ、世界に存在を認められなかった者たちだ。

その圧を、アレインは完全に理解することはできない。

だが、体が知っている。

感じ取るのだ。


(……奴らも、俺と同じだ)


怒りの矛先が、さらに鋭利になる。

魔力が、身体の奥で濁り、空気に小さな波紋を作る。

周囲のアンデッドはその波紋を感じ取り、中心のアレインの意志に従う。

だが、言葉の交わりはない。

理解も、共感も、同意もない。


(……奴は、まだ人間だ)


視界の奥、遠くに、微かに光る存在。

勇者レオンの姿が、魔力の波動と共に浮かぶ。

言葉は不要。

目に見えない会話など、ここには存在しない。

だが、全身に刻まれた記憶が告げる――

あの存在が、自分を理解しようとしていることを。


(……理解しようとしている……だと?)


怒りが沸き上がる。

理解されることすら、許せない。

許せない怒りが、魔力と共に体を震わせる。

過去の裏切り、処刑台、王国の裁定――

全てが蘇り、今、この瞬間の感覚と融合する。


(……王国……俺を殺したのは……)


吐き捨てるように呟く。

声は、風に消える。

だが、魔力の震えが、空間に意味を与える。

アンデッドたちは、それに反応して、ゆっくりと周囲を囲む。

攻撃ではない。待機だ。

中心で圧を放つアレインを守り、また、その意思に従う。


(……奴は……まだ届かない……)


一歩、一呼吸、一瞬。

勇者は、まだ手の届かない距離にいる。

だが、それがどうしたというのか。

アレインの体は、全ての感覚が“怨念”に変わり、それだけで世界を動かせるような錯覚を覚える。

視線が、夜を貫く。

感情が、闇を切り裂く。


(……待つ……奴が来るまで……)


待つのではない。

監視でも、準備でもない。

執着が、衝動が、ただそこにあるだけだ。

王国を、世界を、そして自分を殺したもの――

それが近づく瞬間まで、止まれない。


アレインの瞳は、赤く光る。

魔力の濁りが、身体の周囲に渦巻き、空間を歪める。

言葉は交わらない。

理解も交わらない。

だが、全ての意思が一点に集中する瞬間。

それこそが、破滅の予兆だ。


(……来い……)


再び呟く。

声ではない。

魔力の震えと怨念の波として、

勇者に届くものだ。


夜は、静かだった。

瓦礫も、骨も、空気も、全てが止まったかのように見える。

だが、動かないのは世界ではなく、

すでに中心となったアレインの意思だけ。


勇者がどのように動こうと、

もはや、

理解されることはない。

ただ、怨念と執着が渦巻く視線の先で、

アレインは、待ち構えているのだ。


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