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削られる支援、芽吹く不安

 グランデールの朝は、変わらず霧が深かった。


 城壁の外では、畑を耕す鍬の音が聞こえ、通りではパン屋の煙が立ち上る。

 表面だけ見れば、いつもと同じ一日だった。


 「……物資が、減っています」


 執務室で、補給担当のマルコが静かに報告した。


 机の上に置かれた帳簿を、アレインは指でなぞる。

 数字は正確で、誤記はない。


 「鉄材が三割減。矢羽は半分以下。回復薬の補充も――遅延」


 「遅延?」


 「はい。理由は……書かれていません」


 理由が書かれていない。

 それが、理由だった。


 アレインは深く息を吸い、吐いた。


 「王都からの通達は?」


 「……形式的なものだけです」


 マルコは言いにくそうに続ける。


 「“戦況安定につき、優先配分を見直す”と」


 安定。


 その言葉に、アレインは一瞬だけ目を伏せた。


 ここ数週間、魔族の斥候は確かに減っている。

 だが、それは“いなくなった”のではない。


 「削られたのは、どこだ?」


 「防衛用資材です。

  町兵の装備更新も、次回以降に回されました」


 アレインは黙って頷いた。


 「分かった。ありがとう」


 それ以上、何も言わなかった。


 マルコが退出した後、執務室には静寂が落ちる。


 窓の外では、子どもたちの笑い声が響いていた。

 木剣を振り回し、「領主さまごっこ」をしているのだろう。


 ――守るべきものは、何も変わっていない。


 だが、支えは確実に減っている。


 *


 午後、評議会。


 町の代表者たちが集まる円卓で、空気はどこか硬かった。


 「王都からの物資が減ったと聞いたが……」


 最初に口を開いたのは、鍛冶師ギルドの長だった。


 「一時的な調整だ」


 アレインは即答する。


 「戦況が落ち着いている以上、他戦線に回す判断は理解できる」


 嘘ではない。

 だが、全てでもない。


 「……しかし」


 今度は町兵隊長のロイスが声を落とした。


 「現場では、不安が出始めています。

  “なぜ、今なのか”と」


 「町は、王国に見捨てられたのではないか、と」


 アレインは、ロイスの視線を正面から受け止めた。


 「見捨てられていない」


 断言する。


 「少なくとも、今は」


 その言葉に、誰も反論しなかった。

 だが、誰も完全には納得していない。


 「俺がいる」


 アレインは、ゆっくりと続けた。


 「グランデールは、俺が守る。

  それは変わらない」


 その言葉は、場をわずかに和らげた。


 だが同時に――

 “王国ではなく、アレインが守る”という認識を、強めてもいた。


 *


 夜。


 城壁の上で、アレインは一人、松明の列を見下ろしていた。


 巡回する町兵たちの背中。

 その一人一人の名前が、自然と浮かぶ。


 ――彼らは、俺を信じている。


 それが、重い。


 遠くで、狼の遠吠えが聞こえた。

 魔族ではない。ただの獣だ。


 それでも、胸の奥に小さな棘が刺さる。


 「……始まったか」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


 王都は、何も言ってこない。

 命令も、叱責も、称賛もない。


 沈黙。


 それは、見放された者に与えられる前兆に、よく似ていた。


 アレインは夜空を見上げる。


 星は、今日も変わらず瞬いている。


 この町の平穏が、

 まだ“続いている”だけなのだと――

 彼だけが、気づいていた。


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