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王都の評価会議

 王都ルミナスの中枢、白亜の王城。その奥深く――

 高位貴族と王の側近のみが入室を許される評議室では、重厚な扉が静かに閉じられた。


 円卓を囲む者たちの顔は、誰一人として緩んでいない。


 「――では、辺境伯……いや、伯爵アレイン・フォン・グランデールについて、報告を」


 王の第一側近が、淡々と口火を切った。


 机上に並べられた書類には、戦況報告、補給状況、人的損耗、魔族の動向が簡潔にまとめられている。

 どれも数字は正確で、判断材料としては申し分ない。


 「魔族侵攻への対応、極めて迅速。

  王命以前に迎撃を開始し、町と街道を防衛。被害を最小限に抑えています」


 別の側近が読み上げる。


 「功績は明白ですな」


 年配の侯爵が頷いた。


 「魔族の被害がここまで抑えられているのは、彼の判断と行動力によるものだ」


 「異論はありません」


 数名が同意する。


 ここまでが、“表”だ。


 王は黙って聞いていた。

 指先で椅子の肘掛けをなぞりながら、感情を表に出さない。


 「――ただし」


 第一側近が、声の調子を変えた。


 「問題もあります」


 空気が、わずかに張り詰める。


 「彼の行動は、あまりに独断的です。

  王命を待たず、戦を始め、兵を動かし、資源を消費している」


 「結果は出ているではないか」


 侯爵が眉をひそめる。


 「結果論です」


 側近は即座に返した。


 「彼は“勝った”。だから正しく見える。

  しかし、もし敗れていたら? 誰が責任を取るのです?」


 沈黙。


 「それに――」


 今度は別の声が続いた。


 「伯爵アレインは、教会との距離が近くありません。

  勇者誕生に対する反応も、抑制的すぎる」


 勇者、という言葉が出た瞬間、王の視線がわずかに動いた。


 「信仰を軽んじているわけではないが、熱意が足りない。

  民衆の象徴となる存在としては、やや危うい」


 「英雄は一人で足りる、という考えもある」


 若い伯爵がそう口にする。


 「勇者が現れた今、辺境の武断的な英雄は――重複する」


 その言葉に、誰も即座には反論しなかった。


 「……魔族の戦力も、明らかに削れている」


 王が、初めて口を開いた。


 低く、落ち着いた声。


 「勇者一行の戦果は、想定を上回っている。

  正規軍の損耗も少ない」


 「はい」


 側近が深く頷く。


 「今後は、戦争の形が変わります。

  防衛よりも、攻勢。

  一点突破で魔王国の中枢を叩く段階に入る」


 王は、ゆっくりと頷いた。


 「――ならば」


 その言葉に、全員の視線が集まる。


 「辺境に、過剰な戦力は不要だな」


 誰も声を上げなかった。


 「伯爵アレインは、能力が高すぎる。

  だからこそ、扱いが難しい」


 王の言葉は、断罪でも称賛でもない。


 ただの評価だった。


 「忠誠はある。だが、国家よりも“町”を優先する男だ」


 それは、正確な分析だった。


 「ならば、こうしよう」


 王は結論を口にする。


 「当面、彼への直接支援は控える。

  命令も最小限とし、動向を見極める」


 「もし、問題行動が見られた場合は?」


 「その時は――公式に対応する」


 その一言で、全てが決まった。


 会議は、形式上は穏便に終わった。

 議事録にはこう記される。


 《辺境伯爵アレイン・フォン・グランデール、功績を認める。

  ただし、今後は状況を注視する》


 だが、記されなかった“裏”がある。


 王は、会議室を出た後、側近にだけ告げた。


 「勇者が育てば、彼は不要になる」


 その言葉は、誰にも聞かれなかった。


 王都の夜は、今日も静かだ。


 辺境で積み重なっている沈黙と不安など、

 この都の灯りは、まだ照らしていない。


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