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王の決断

玉座の間には、炎の赤い光が差し込んでいた。


王都はまだ燃えている。


窓の外では、煙が空へと立ち上り、時折、崩れ落ちる建物の音が響いていた。


その光の中で。


アレインは立っていた。


玉座の前。


骨の身体を包む黒い外套が、静かに揺れている。


その背後で、聖女が膝をつき、必死に体を起こそうとしていた。


しかし立てない。


先ほどの風魔法の衝撃が体を打ち砕いていた。


それでも彼女は叫ぶ。


「陛下……逃げてください……!」


だが。


王は動かなかった。


黄金の玉座に座ったまま、静かにアレインを見ている。


恐怖の色はない。


逃げる様子もない。


ただ、静かに見つめている。


長い沈黙のあと。


王が口を開いた。


「……久しいな」


その声は穏やかだった。


「アレイン」


その名が玉座の間に響く。


かつて王国の英雄と呼ばれた男の名。


アレインは何も言わない。


ただ蒼い光の眼窩で王を見ている。


王はゆっくりと息を吐いた。


「ここまで来たか」


静かな言葉だった。


「王都の兵も、勇者も、将軍たちも」


炎が揺れる。


「よく戦った」


そして王は言った。


「だが結局」


「お前がここへ来た」


沈黙。


玉座の間の空気が重くなる。


王は続けた。


「お前は」


「なぜグランデールが滅んだのか」


視線を細める。


「ずっと考えていたのだろう」


蒼い光がわずかに揺れる。


王はゆっくり立ち上がった。


玉座を降りる。


赤い絨毯の上を歩き、アレインの前へと近づく。


そして言った。


「答えは簡単だ」


静かな声。


「命じたのは」


炎の光が揺れる。


「私だ」


聖女が叫んだ。


「……陛下!?」


王は振り返らない。


ただアレインを見ている。


「評議会でもない」


「教会でもない」


「貴族でもない」


王は言った。


「王命だ」


玉座の間に沈黙が落ちる。


聖女の声が震える。


「なぜ……!」


王は少しだけ目を細めた。


そして静かに言った。


「お前だ」


蒼い光が揺れる。


王は続けた。


「アレイン」


「王国の英雄」


「戦場で無敗」


「民衆の支持」


「軍の信頼」


ゆっくり歩く。


「それだけなら問題はない」


王は言った。


「だが」


その声が少し低くなる。


「お前は」


「グランデールを優先しすぎた」


玉座の間の空気が変わる。


王は続けた。


「王命よりも」


「領地を優先する」


「王都の召集より」


「民を守ることを選ぶ」


静かな声。


「それが何度あった」


聖女が言う。


「それは……領主として当然では……」


王は答える。


「もちろんだ」


そして続ける。


「だが」


その目が鋭くなる。


「限度がある」


王はゆっくり言った。


「私は戦場を知っている」


炎が揺れる。


「反乱とは」


「ある日突然起きるものではない」


静かな声だった。


「最初は小さな違和感だ」


「王命より民を優先する」


「中央より領地を優先する」


「やがて」


王は言った。


「王を軽んじる」


蒼い光が揺れる。


王は続ける。


「そして」


低い声。


「気付いた時には」


「反乱軍になっている」


聖女が首を振る。


「ですが……!」


「アレイン様がそんなことを……!」


王は静かに答えた。


「分からん」


玉座の間は静まり返る。


「だが」


王は続けた。


「王とは」


「分からないものを放置してはならない」


炎が揺れる。


「お前は強すぎた」


「人望もありすぎた」


「そして」


王は言った。


「辺境にいた」


遠い地。


軍も民も、お前を慕う。


王都から遠い。


その条件が揃えば。


王はゆっくり言う。


「経験が言っていた」


「直感が言っていた」


静かな声。


「これは」


「反乱者の条件だ」


玉座の間の空気が重くなる。


王は続けた。


「だから私は決断した」


「反乱が起きる前に」


「芽を摘む」


蒼い光が揺れる。


王は言った。


「グランデールごと」


長い沈黙。


炎が揺れている。


聖女の目から涙がこぼれる。


「そんな……」


王は静かだった。


「王とは」


「国家を守るものだ」


ゆっくり言う。


「たとえ」


「間違っていたとしてもな」


その言葉が落ちる。


玉座の間は静まり返っていた。


王は剣を抜いた。


王家の剣。


黄金の刃が炎を映す。


王は剣を構える。


そして言った。


「さあ」


その声は落ち着いていた。


「アレイン」


王の目は揺れていない。


「私の判断が」


炎が揺れる。


「間違っていたか」


剣を向ける。


「証明してみろ」


王都最後の戦いが、始まろうとしていた。


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