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騎士の誇り

剣戟の音が、王城門前に鋭く響いた。


火花が散る。


鋼と鋼がぶつかる音が、静まり返った王都にこだまする。


近衛隊長の剣が振るわれる。


鋭い斬撃。


王国騎士団の頂点に立つ剣。


その一撃を、アレインは受け止めた。


金属音が鳴り響く。


刃が噛み合い、火花が舞う。


副隊長が横から斬り込む。


老騎士が突きを放つ。


三人の連携。


王城を守る騎士団が長年鍛え上げてきた戦い方だった。


一人では届かない。


だが三人ならば。


王国最強の騎士団長が中心となり、二人が隙を埋める。


それは戦場で幾度も魔族を討ち取ってきた戦術だった。


だが。


アレインの剣が動く。


一閃。


副隊長の剣が弾き飛ばされる。


次の瞬間。


二閃。


老騎士の槍が砕けた。


折れた穂先が石畳に転がる。


近衛隊長が踏み込む。


「まだだ!」


剣を振り下ろす。


全力の一撃。


だが。


アレインの剣がそれを受け止めた。


そして。


静かに押し返す。


力の差ではない。


技の差でもない。


それは――


経験の差だった。


生前のアレインは、数え切れない戦場を生き抜いてきた。


魔族との戦い。


魔王軍との戦争。


王国最前線。


死線を何度も越えた男だった。


近衛隊長が後退する。


鎧の隙間から血が流れていた。


副隊長が叫ぶ。


「団長!」


近衛隊長は手で制した。


呼吸は荒い。


それでも、目は鋭かった。


彼はゆっくりとアレインを見る。


その顔には、不思議な静けさがあった。


「……やはり」


息を吐く。


「強いな」


副隊長が歯を食いしばる。


「団長、まだ戦えます!」


老騎士も言った。


「三人で押し切れば――」


近衛隊長は首を振った。


「いや」


静かな声。


「分かる」


彼は長年剣を振るってきた。


強者を見れば分かる。


この相手には届かない。


それでも。


彼は剣を構えた。


背後には王城がある。


王がいる。


王国がある。


それだけで十分だった。


近衛隊長は副隊長へ言った。


「下がれ」


副隊長が驚く。


「団長?」


老騎士も目を見開いた。


近衛隊長は続けた。


「ここは」


剣を握り直す。


「俺がやる」


副隊長が叫ぶ。


「無茶です!」


近衛隊長は笑った。


「無茶?」


静かな笑み。


「今さらだ」


そして言った。


「王の盾とは」


ゆっくり前へ出る。


「最後まで立つものだ」


副隊長の声が震える。


「団長……」


近衛隊長は振り返らない。


ただ一歩、前へ出る。


アレインの前へ。


二人の距離が縮まる。


静寂。


炎の音だけが聞こえる。


近衛隊長が剣を構える。


そして言った。


「アレイン」


その名を呼ぶ。


「お前が王城に入れば」


息を吐く。


「王国は終わる」


だが。


彼は笑った。


「だがな」


剣を構える。


「終わるとしても」


その目は誇りに満ちていた。


「騎士は最後まで剣を振るう」


次の瞬間。


近衛隊長が突撃した。


最後の突撃だった。


剣が振るわれる。


速い。


先ほどより速い。


限界を超えた剣だった。


アレインの剣がそれを受け止める。


だが。


近衛隊長は止まらない。


二撃。


三撃。


四撃。


剣が嵐のように振るわれる。


血が流れる。


体は限界だった。


それでも剣は止まらない。


副隊長が叫ぶ。


「団長!!」


そして。


五撃目。


近衛隊長の剣が、アレインの肩を裂いた。


骨が砕ける音がした。


蒼い光が揺れる。


近衛隊長が笑った。


「……届いた」


その瞬間。


アレインの剣が動いた。


静かな一閃。


近衛隊長の胸を貫いた。


剣が深く突き刺さる。


時間が止まったようだった。


副隊長が絶叫する。


「団長ッ!!」


近衛隊長は驚いた顔をした。


そして、ゆっくり笑った。


「……やはり」


息を吐く。


アレインを見る。


その目は穏やかだった。


「お前は」


最後の言葉。


「王国最強の騎士だった」


剣が抜かれる。


近衛隊長の体が崩れ落ちた。


石畳に倒れる。


副隊長が駆け寄る。


「団長……」


だが。


もう動かない。


老騎士が剣を握りしめる。


震える声で言った。


「……見事だった」


王城門前。


王国最後の騎士が倒れた。


炎が静かに揺れていた。


アレインはしばらく動かなかった。


やがて。


ゆっくりと剣を下ろす。


そして。


近衛隊長の亡骸を見た。


蒼い眼窩が静かに揺れる。


かつての仲間。


王国の騎士。


最後まで誇りを失わなかった男。


アレインは剣を鞘に収めた。


王城の門は、すぐそこだった。


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