王城門前の戦い
炎は遠くでまだ燃えていた。
だが、王城前だけは妙に静かだった。
王都の大通りを歩き続けたアレインは、ついに王城の正門へと辿り着いた。
巨大な石造りの門。
かつて王国の威光を象徴した門は、今や半ば崩れ、黒い煙に包まれている。
城門前の石畳には血が乾き、戦いの痕跡がいくつも残っていた。
だが、そこに並ぶ兵はほとんどいない。
王都軍はすでに壊滅していた。
アレインの背後には、わずかなアンデッドが従っていた。
百もいない。
二万の軍勢で王都へ進軍したはずだった。
だが王都の戦いは苛烈だった。
ガルディア要塞。
王都外郭。
市街戦。
勇者。
剣聖。
王国の将軍たち。
すべてが命を削る戦いだった。
その結果、残ったのはこの数だった。
それでも。
アレインは歩いていた。
静かに。
王城へ向かって。
石畳を踏むたびに、記憶が蘇る。
この道は、何度も歩いた。
まだ生きていた頃。
王都に呼ばれた日。
初めて王城へ向かった時のことを覚えている。
若かった。
戦場で功績を上げ、王に謁見するために呼ばれた。
緊張していた。
だが誇らしかった。
王城の門は威厳に満ちていた。
兵士たちは整然と並び、王国の栄光を象徴していた。
あの日。
アレインは騎士の称号を与えられた。
その後も何度もこの道を通った。
魔族討伐。
国境防衛。
魔王軍との戦い。
戦果を挙げるたびに王都へ呼ばれた。
叙爵。
そして陞爵。
ついには伯爵。
王国の英雄。
そう呼ばれた。
市民は歓声を上げ、子供たちは彼の名を叫んだ。
王国を守る剣。
それがアレインだった。
だが。
その王国が。
グランデールを滅ぼした。
石畳の上でアレインの歩みが止まる。
城門の前。
そこに三人の人影が立っていた。
蒼い光が静かに揺れる。
三人。
それだけだった。
中央に立つ男は重厚な鎧を着ている。
王家の紋章。
王の近衛騎士団長。
王を守る最後の盾。
王国最強の騎士の一人。
その隣には副隊長。
まだ若いが、鋭い眼をしている。
そしてもう一人。
白髪の老騎士。
王城の古参兵だ。
三人とも剣を抜いていた。
逃げる気はない。
近衛隊長が静かに口を開いた。
「……久しいな」
低い声だった。
疲労は隠せない。
それでも威厳は残っている。
彼はアレインを見据えた。
「アレイン」
その名を呼ぶ。
副隊長がわずかに息を呑む。
王国の英雄だった男。
そして今は死霊王。
近衛隊長は続けた。
「お前がこの門を潜る時」
剣をゆっくり構える。
「王国は終わる」
静かな言葉だった。
だが、その意味は重い。
副隊長も剣を構える。
老騎士も前へ出た。
三人だけ。
それでも誰も退かない。
近衛隊長が言った。
「ここから先は」
剣先をアレインへ向ける。
「王の御前だ」
そして言った。
「通すわけにはいかぬ」
静寂が落ちる。
炎の音だけが遠くで聞こえる。
アレインは三人を見ていた。
かつて何度も見た顔だった。
王城で。
謁見の間で。
戦勝の報告をした時。
近衛隊長はそこに立っていた。
あの頃と同じ目だった。
誇りを失っていない。
アレインはゆっくりと剣を構えた。
死霊王の剣。
静かに刃が光る。
その瞬間。
近衛隊長が踏み込んだ。
「来い!」
鋭い踏み込み。
剣が振り下ろされる。
速い。
王国最強クラスの剣技。
だが。
アレインの剣がそれを受け止めた。
火花が散る。
金属音が響く。
副隊長が横から斬り込む。
連携。
完璧だった。
アレインは後退する。
剣を弾く。
老騎士が突きを放つ。
三方向からの攻撃。
王国最高の連携だった。
だが。
アレインの剣が動く。
一閃。
副隊長の剣が弾かれる。
二閃。
老騎士の槍が折れる。
三閃。
近衛隊長の鎧が裂ける。
血が流れた。
近衛隊長は後退する。
だが笑った。
「さすがだ」
息を吐く。
「英雄殿」
副隊長が叫ぶ。
「団長!」
近衛隊長は言った。
「恐れるな」
剣を構える。
「我らは」
静かな声。
「王の盾だ」
三人が再び踏み込む。
剣が交差する。
火花が舞う。
王城の門前で。
王国最後の騎士たちと。
死霊王アレインの戦いが始まった。




