王城の門
炎はまだ街のあちこちで燃えていた。
王都は、もはや戦場ですらない。
瓦礫の街だった。
崩れた屋根。
倒れた塔。
砕けた石畳。
そして、その上に横たわる無数の死体。
兵士。
市民。
アンデッド。
すべてが混ざり合い、王都は静まり返っていた。
戦いの音は、もうほとんど聞こえない。
ただ風が煙を運び、火の粉が舞うだけだった。
その中を。
一人の影が歩いていた。
アレイン。
死霊王。
黒い外套は焼け落ち、骨の身体はあちこち砕けている。
それでも歩みは止まらない。
その背後に続く影は、わずかだった。
アンデッド兵。
百もいない。
かつて二万を率いた軍勢は、ほとんどこの王都で失われていた。
それでも。
彼は進む。
ゆっくりと。
王城へ向かって。
石畳の道。
その道は、アレインにとって懐かしいものだった。
蒼い眼窩が静かに揺れる。
記憶が蘇る。
まだ、生きていた頃。
王都に呼ばれた日。
王城へ続くこの道を、初めて歩いた。
若かった。
戦場で功績を上げ、王に謁見するために呼ばれた。
緊張していた。
だが誇らしかった。
王城の門は高く、兵士たちは整然と並び、王国の威厳を示していた。
その日。
彼は叙爵された。
王国の騎士として。
その後も、この道を何度も通った。
魔族討伐。
国境防衛。
魔王軍との戦い。
功績を重ねるたびに呼ばれた。
陞爵。
そして――
ついには伯爵位。
王国の英雄。
誰もがそう呼んだ。
市民は歓声を上げ、子供たちは彼に憧れた。
王国を守る剣。
それが、アレインだった。
だが。
蒼い光が静かに揺れる。
思い出はそこで止まらない。
グランデール。
あの街。
自分が守るべき領地。
自分が愛した人々。
王国はそれを――
滅ぼした。
魔導砲。
討伐軍。
疑念。
裏切り。
王都が下した決断は、すべてを焼き尽くした。
街も。
民も。
未来も。
石畳の上で、アレインの足が止まる。
視線の先。
王城が見えた。
巨大な城門。
王国の象徴。
高い城壁が空へそびえている。
かつては威厳に満ちていたその門も、今は静まり返っていた。
門は半ば破壊されている。
戦いの痕跡が残っていた。
だが。
そこに――
人影があった。
三人。
門の前に立っている。
アレインの歩みが止まる。
蒼い眼窩が静かに彼らを見る。
中央に立つ男。
重厚な鎧。
王家の紋章。
その顔を見た瞬間、アレインの記憶が揺れた。
国王近衛隊長。
王を守る最後の盾。
王国最強の騎士の一人。
その隣に立つのは、副隊長。
まだ若いが、腕は確かだ。
そしてもう一人。
年老いた騎士。
かつて王城で何度も顔を見た男だった。
三人だけだった。
王城を守る兵は、もうほとんど残っていない。
それでも。
三人は逃げていない。
門の前に立ち、剣を抜いていた。
近衛隊長がゆっくりと口を開く。
「……久しいな」
声は低く、疲れていた。
それでも威厳は失われていない。
彼はアレインを見つめた。
「英雄殿」
その言葉に、わずかな沈黙が落ちる。
副隊長が一歩前へ出る。
目には恐怖があった。
だが退かない。
剣を握る手も震えていない。
近衛隊長は静かに言った。
「ここから先は」
剣を構える。
「王の御前だ」
その声は、はっきりしていた。
「通すわけにはいかぬ」
アレインは何も言わない。
ただ三人を見ている。
かつて守った王城。
かつて仲間だった騎士たち。
その門の前で。
静かな対峙が始まっていた。




