包囲開始
――ローデリック将軍の全面攻撃
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夜明け前。
グランデールの空気は、重く澱んでいた。
霧が低く垂れ込み、
城壁の下は見通せない。
その静けさを――
角笛が引き裂いた。
低く、長く、三度。
「……来るぞ」
見張りの声が、
震えを含んで落ちる。
次の瞬間、
霧の向こうで地鳴りが起きた。
歩兵の行進音。
数千、いや――
万を超える足音。
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「包囲開始だ!」
鐘が鳴る。
警鐘ではない。
戦鐘。
城壁に兵が駆け上がり、
弓兵が並び、
魔導兵が詠唱位置につく。
町の中では、
家々の扉が閉ざされ、
地下倉庫へ人が流れ込む。
子どもが泣き、
母親が口を塞ぐ。
戦争が、
ついに始まった。
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王国軍の動きは、
無駄がなかった。
北。
東。
南。
同時に、
陣地が前進する。
盾壁が展開され、
その背後で魔導兵が陣取る。
「……綺麗すぎる」
城壁の上で、
古参兵が呟いた。
「訓練通り。
いや……教本通りだ」
つまり――
人を殺すための動き。
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「来ます!」
魔力反応。
空気が震え、
次の瞬間、
火球が放たれた。
ドォン――!
城壁に直撃。
石が砕け、
破片が飛び散る。
「負傷者!
南壁!」
すぐさま、
矢の雨が返される。
だが――
届かない。
距離を、
正確に測られている。
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「伯爵様!」
副官が叫ぶ。
「補給路が断たれました!」
地図の赤線が、
次々と引かれていく。
北街道。
川沿いの旧道。
森の抜け道。
すべて、
塞がれた。
「……完全包囲か」
アレインは、
ゆっくりと息を吐いた。
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王国軍本陣。
幕舎の中で、
ローデリック将軍は地図を見下ろしていた。
「予定通りだな」
淡々とした声。
「はい。
敵の反撃は限定的」
副官が答える。
「魔導反応は?」
「高位が一つ。
伯爵本人でしょう」
ローデリックは、
鼻で笑った。
「個の力に頼る反乱軍か」
視線が冷たくなる。
「……潰せ」
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正午。
全面攻撃が、
始まった。
太鼓。
角笛。
進軍号。
盾壁が前進し、
弓兵が射撃を開始。
空が、
矢で覆われる。
城壁に叩きつけられ、
悲鳴が上がる。
「押し返せ!」
「退くな!」
町兵たちは、
必死に踏みとどまる。
だが――
数が違う。
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「魔導兵、前へ!」
王国側の号令。
詠唱。
次の瞬間、
雷が落ちた。
南壁の一角が、
崩れ落ちる。
瓦礫の下から、
兵の腕が伸び、
すぐに動かなくなる。
「……くそ……!」
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その時。
城門前に、
一人が立った。
黒い外套。
白い手袋。
アレイン。
「……伯爵様?」
誰かが、
呆然と呟く。
次の瞬間、
空気が歪んだ。
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「――《重力収束》」
低い声。
魔力が、
地面に集まる。
そして――
爆ぜた。
ドンッ!
前進していた盾壁が、
まとめて吹き飛ぶ。
兵が宙を舞い、
地面に叩きつけられる。
「な……!」
王国軍の前列が、
一瞬で崩れた。
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「……魔法一発で?」
ローデリックの副官が、
息を呑む。
「慌てるな」
将軍は、
冷静だった。
「弾切れになる」
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だが、
アレインは止まらない。
詠唱。
間を置かず。
「――《氷獄》」
地面が凍り、
兵の足を奪う。
「――《断空》」
風刃が、
隊列を切り裂く。
次々と、
兵が倒れていく。
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「伯爵様……!」
町兵たちが、
息を呑む。
あれほどの魔法を、
連続で――。
だが、
アレインの肩が揺れた。
口元に、
血が滲む。
「……まだだ」
小さく呟き、
魔力回復薬を煽る。
喉が焼ける感覚。
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ローデリック将軍の表情が、
初めて歪んだ。
「……被害報告」
「前衛、千五百損耗!」
「魔導兵も、
三割が戦闘不能!」
「……想定外、です」
将軍は、
拳を握りしめた。
「……全面攻撃を継続」
歯を食いしばり、
命じる。
「引くな。
数で押し潰せ」
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夕刻。
戦場は、
地獄だった。
血。
瓦礫。
呻き声。
グランデール側も、
被害が出ている。
城壁の一部が崩れ、
町兵が次々と倒れる。
それでも――
退かない。
「伯爵が、
前にいる!」
「俺たちも、
行くぞ!」
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アレインの視界が、
揺れる。
魔力が、
底を突き始めている。
身体が、
鉛のように重い。
「……まだ、
時間が足りない」
その時。
一人の町兵が、
彼の前に立った。
「伯爵様……
下がって下さい」
血まみれの顔。
それでも、
笑おうとする。
「……俺が、
守りますから」
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その瞬間。
アレインは、
はっきりと理解した。
この町は、
もう引けない。
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夜。
攻撃は、
一時中断された。
王国軍も、
損耗が大きい。
だが――
包囲は、
解けていない。
焚き火が、
再び灯る。
数は、
減っていない。
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城内。
アレインは、
椅子に崩れ落ちた。
手が、
震えている。
「……明日も、
来る」
副官が、
唇を噛む。
「……はい」
外で、
子どもの泣き声がした。
それは、
祈りのようでもあり、
呪いのようでもあった。
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その夜。
ローデリック将軍は、
王都へ急報を送った。
――反乱軍、想定以上の抵抗。
――伯爵アレイン、高位魔法を連発。
――損耗、看過できず。
彼自身、
気づき始めていた。
これは、
討伐ではない。
戦争だ。
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グランデールの夜は、
明けない。
そして――
次の日、
さらに苛烈な消耗戦が始まる。
勇者が到着する、
その前夜に。




