死力
炎はさらに広がっていた。
王都の大通りは、もはや火の川だった。
崩れた屋根が燃え落ち、瓦礫が道を塞ぐ。
煙が立ち込め、視界は赤く霞んでいる。
その中で、王都軍はまだ戦っていた。
「押せぇぇぇ!!」
兵士たちが槍を突き出す。
骸骨兵の胸を貫く。
骨が砕け、地面に崩れる。
「次!」
別の兵士が剣を振り下ろす。
腐敗兵の腕を斬り落とす。
倒れたアンデッドは、もう動かない。
勇者の結界が確かに効いていた。
若い兵士が息を切らしながら叫ぶ。
「いける……!」
血まみれの顔で笑う。
「いけるぞ!」
周囲の兵士たちも叫ぶ。
「押してる!」
「このまま行け!」
恐怖の中で、わずかな希望が芽生えていた。
だが。
戦場の中心だけは、違う。
そこでは――
人の力ではどうにもならない戦いが続いていた。
騎士団長が踏み込む。
「はああああ!」
剣が閃く。
連撃。
突き。
斬り上げ。
王国最高峰の剣技。
だが。
アレインの剣が、それをすべて受け止める。
鋼が激しくぶつかる。
火花が散る。
一歩。
また一歩。
騎士団長は押し込む。
だが。
アレインの剣が静かに返された。
次の瞬間。
騎士団長の肩が裂けた。
血が飛ぶ。
彼は膝をつきかけた。
そこへ近衛将軍が突撃する。
「団長!」
盾を構えたまま体当たり。
鈍い衝撃。
アレインの体がわずかに揺れる。
その隙を、魔導師長が逃さない。
「炎獄!」
巨大な火柱が立ち上がる。
爆炎がアレインを包んだ。
轟音。
炎が周囲の建物へ広がる。
屋根が崩れた。
兵士たちが叫ぶ。
「やったか!?」
だが。
炎の中から、黒い影が歩み出た。
外套が燃えている。
骨の腕が一部砕けている。
だが。
蒼い光は消えていない。
魔導師長が呟く。
「……馬鹿な」
アレインが剣を振るった。
一閃。
近衛将軍の盾が割れる。
二閃。
胸甲が裂ける。
三閃。
血が噴き出す。
近衛将軍が倒れた。
「将軍!!」
兵士たちの叫び。
騎士団長が歯を食いしばる。
「退くな!!」
剣を構える。
その声を聞き、兵士たちも再び前へ出た。
若い兵士が震えながら槍を握る。
「くそ……!」
隣の兵士が言う。
「怖いか」
若い兵士はうなずいた。
「当たり前だ」
声が震えている。
だが。
槍を握る手は離さない。
「でもな」
前を見る。
炎の向こう。
王国の将軍たちが戦っている。
「将軍が戦ってるのに」
息を吸う。
「逃げられるかよ」
彼は叫んだ。
「行くぞ!」
兵士たちが突撃する。
槍兵。
弓兵。
民兵。
次々とアレインへ向かう。
だが。
その瞬間。
アレインの剣が動いた。
目にも止まらない速度。
兵士が一人、胴を断たれる。
もう一人の首が飛ぶ。
三人目は衝撃波で吹き飛ばされた。
血が石畳を染める。
若い兵士は立ち尽くした。
目の前で仲間が死んだ。
一瞬だった。
あまりにも簡単に。
彼は震えた。
(勝てない)
頭の中で声が響く。
(こんなのに)
(勝てるわけがない)
その時だった。
騎士団長が叫んだ。
「見るな!」
兵士たちが顔を上げる。
騎士団長は血だらけだった。
鎧は裂けている。
それでも剣を構えている。
「敵を見るな!」
低い声。
「俺たちを見ろ」
兵士たちが息を呑む。
騎士団長が言う。
「俺たちは」
血を吐きながら笑った。
「まだ立ってる」
確かにそうだった。
近衛将軍は倒れた。
老将も死んだ。
だが。
騎士団長と魔導師長はまだ立っている。
騎士団長が剣を構えた。
「王都軍」
兵士たちを見る。
「俺たちが倒れるまで」
声が響く。
「王都は落ちん」
その言葉に。
兵士たちの震えが止まった。
若い兵士が槍を握り直す。
「……ああ」
呟く。
「そうだな」
剣を構える。
炎の中。
兵士たちが並ぶ。
王国の将軍と兵士たち。
その全員が。
死霊王アレインへ向き合った。
アレインは静かに彼らを見ていた。
蒼い光の眼窩。
その奥に、わずかな記憶が揺らぐ。
この街。
この兵士たち。
かつて守った王都。
だが。
剣は止まらない。
死霊王の刃が静かに構えられる。
次の瞬間。
王都最後の防衛線が、再び激突した。




