最後の砦
王都の夜は、炎に染まっていた。
崩れた城門から続く大通り。
石造りの建物のいくつかが燃え、赤い火の粉が空へ舞っている。
瓦礫に倒れる兵士。
折れた槍。
砕けた盾。
街路のあちこちに、骸骨と人間の死体が混ざって転がっていた。
それでも戦いは終わらない。
「押し返せ!」
王都軍の怒号が響く。
槍兵が前へ出る。
騎士が剣を振るう。
魔導兵が炎を放つ。
アンデッドの群れは確かに減っていた。
勇者が残した結界の影響は絶大だった。
倒れた骸骨は再び立たない。
腐敗兵も復活しない。
それは王都軍にとって、何よりの救いだった。
若い兵士が必死に槍を突き出す。
骨の胸を貫く。
骸骨兵が崩れた。
「やった……」
息を切らしながら呟く。
だが次の瞬間。
横から別のアンデッドが襲いかかった。
剣が振り下ろされる。
兵士はとっさに盾を上げた。
金属が激しく鳴る。
腕が痺れる。
恐怖で喉が乾く。
(怖い)
正直な感情だった。
足が震えている。
逃げ出したい。
だが背後には、王都の街がある。
家がある。
家族がいる。
兵士は歯を食いしばった。
「来いよ……化け物」
槍を構え直す。
その時だった。
戦場の奥から爆音が響いた。
――ドォン!!
衝撃波が石畳を揺らす。
兵士たちが振り向く。
そこでは、王都軍の精鋭が吹き飛ばされていた。
街路の中央。
黒い外套の男が立っている。
リッチ。
アレイン。
その手には剣が握られていた。
騎士が突撃する。
王都騎士団の精鋭。
三人。
四人。
同時に剣を振り下ろす。
だが。
アレインの剣が閃いた。
一瞬だった。
鋼がぶつかる音。
そして。
騎士の一人の首が宙を舞った。
次の瞬間には、二人目の胸が裂けている。
三人目は衝撃波で吹き飛ばされた。
兵士たちが凍りつく。
(強い)
あまりにも。
その光景を見て、王都軍の将軍たちは前へ出た。
老将が低く言う。
「……やはり奴が来たか」
王都守備軍の将軍たち。
騎士団長。
魔導師長。
近衛将軍。
王国の主力が、街路の中央へ集まる。
騎士団長が剣を抜く。
「聞け」
低い声で言う。
兵士たちの視線が集まる。
遠くでは炎が建物を焼いている。
市民の叫び声も聞こえていた。
逃げ遅れた者たちだ。
瓦礫の中から、泣き声が響く。
「助けて……」
誰かの母親の声だった。
騎士団長が目を閉じる。
そして剣を構えた。
「ここで止める」
静かな声。
「勇者殿は倒れた」
兵士たちの顔が強張る。
誰も口には出さないが、皆知っていた。
勇者はもう戦えない。
騎士団長が続ける。
「ならば」
剣をアレインへ向ける。
「我らが最後の砦だ」
将軍たちが並ぶ。
老将が大剣を担ぐ。
魔導師長が杖を掲げる。
近衛将軍が盾を構える。
王国の主力。
その全員が、アレインへ向き合っていた。
騎士団長が叫ぶ。
「王都軍!」
兵士たちが顔を上げる。
「我らの後ろには王城がある!」
遠くに見える王城の塔。
王国の象徴。
「ここを突破されれば、王都は終わる!」
剣を振り上げる。
「ならば!」
声が夜に響く。
「ここで終わらせる!!」
将軍たちが一斉に突撃した。
まず魔導師長が詠唱する。
巨大な魔法陣が展開された。
「雷撃陣――解放!」
雷が落ちる。
閃光が戦場を染める。
その瞬間。
騎士団長が踏み込んだ。
剣が振り下ろされる。
だが。
アレインの剣が受け止めた。
火花が散る。
衝撃が石畳を震わせる。
老将が横から大剣を振るう。
「喰らえ!」
重い一撃。
だがアレインは半歩下がり、刃を受け流す。
そして反撃。
剣が閃いた。
老将の鎧が裂ける。
血が飛び散る。
近衛将軍が盾で体当たりする。
「止まれ!」
アレインの体がわずかに揺れる。
その隙を、騎士団長が逃さない。
剣が突き出される。
だが。
アレインの口元がわずかに動いた。
「――爆裂」
魔法が発動する。
黒い炎が噴き上がる。
将軍たちが吹き飛ばされた。
石畳を転がる。
兵士たちの間に絶望が走る。
それでも。
騎士団長は立ち上がった。
血を吐きながら。
剣を握り直す。
「まだだ……!」
将軍たちも立ち上がる。
満身創痍。
だが誰一人退かない。
その姿を見て、兵士の一人が震えながら言った。
「……将軍たちが」
隣の兵士が答える。
「戦ってる」
炎の中で。
王国の将軍たちが、死霊王と戦っている。
若い兵士が槍を握り直した。
「俺たちも行くぞ!」
別の兵士が叫ぶ。
「将軍を一人にするな!」
兵たちが再び突撃する。
王都の街路は、完全な乱戦になった。
炎が建物を焼き、
瓦礫が崩れ、
市民の泣き声が遠くに響く。
その中央で。
王国の将軍たちは、最後の砦として剣を振るっていた。
相手は。
かつて王国が誇った英雄。
そして今、
王都を滅ぼしに来た死霊王。
アレイン。
剣と魔法が激突するたび、
戦場はさらに激しさを増していった。




