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王都決戦

夜の王都に、低い震動が響いていた。


内郭城門。


王都を守る最後の門が、ゆっくりと軋んでいる。


石と鉄で作られた巨大な扉。その中央には、ひび割れが蜘蛛の巣のように広がっていた。


門の前に並ぶ兵士たちは、誰一人として声を上げなかった。


盾を構え、槍を握り、ただ門を見つめている。


その背後には王都の街が広がっていた。


石畳の大通り。

商人の店。

民家の屋根。


いつもなら人の声と灯りに満ちているはずの街は、今は静まり返っている。


代わりに並んでいるのは兵だった。


騎士。

弓兵。

魔導兵。

そして徴集された民兵。


鎧が足りない者は、革の胸当てを付けているだけだった。

槍の代わりに農具を握る者もいる。


だが誰も逃げてはいない。


城門の前に立つ男が、静かに言った。


「……来る」


その言葉と同時に。


轟音が響いた。


――ドォン!!


城門が大きく揺れる。


石片が崩れ落ちる。


兵士たちの間に緊張が走る。


王都守備軍の指揮を執る老将が剣を抜いた。


「持ち場を離れるな」


声は静かだった。


だがよく通る。


「城門が破れても慌てるな」


ゆっくりと大通りを指す。


「ここからが本当の戦場だ」


兵たちは黙って頷いた。


二度目の衝撃。


――ゴォォン!!


鉄の留め具が弾け飛ぶ。


三度目。


――ドォン!!


巨大な亀裂が門の中央を走った。


そして。


四度目の衝撃で――


城門は崩壊した。


石と木片が吹き飛び、夜の空気に土煙が広がる。


兵たちは思わず目を細めた。


煙の向こう。


そこに影が現れる。


最初は一体。


次に十体。


そして――


無数。


骸骨兵。


腐敗兵。


黒い鎧を着た死霊騎士。


アンデッドの群れが、城門の残骸を踏み越えて王都へ流れ込んできた。


民兵の一人が震える声で言う。


「……多すぎる」


だが老将は叫んだ。


「矢を放て!」


次の瞬間。


弓兵たちが一斉に弦を引いた。


「放て!!」


矢の雨が夜空を埋めた。


無数の矢がアンデッドの群れに突き刺さる。


骸骨兵が砕ける。

腐敗兵が倒れる。


だが死者の軍勢は止まらない。


「第二列、準備!」


魔導兵が前に出る。


杖が光る。


「火球!」


赤い光が夜を裂いた。


爆炎が城門前で炸裂する。


アンデッドが吹き飛び、炎に包まれる。


だがその後ろから、また別の死体が歩いてくる。


止まらない。


止まらない。


死者の波が王都へ流れ込んでくる。


老将が剣を振り上げた。


「槍隊!」


兵士たちが一斉に構える。


「突撃準備!」


アンデッドが街路へ踏み込んだ瞬間――


「今だ!」


槍兵が突進した。


鉄の穂先が骸骨を砕く。

腐敗兵の胸を貫く。


だが数が違う。


すぐに乱戦になった。


剣がぶつかる。

槍が折れる。

悲鳴が上がる。


市街戦が始まった。


石畳の大通りは、瞬く間に戦場へ変わる。


騎士が剣を振るい、骸骨を叩き割る。

魔導兵が雷撃を放つ。

民兵が必死に槍を突き出す。


その時。


兵士の一人が叫んだ。


「……あれは」


全員の視線が城門へ向く。


煙の奥から、一人の影が歩いてきた。


ゆっくりと。


静かに。


アンデッドの軍勢が、道を開ける。


その中央を歩く影。


黒い外套。


白い骨の顔。


空洞の眼窩の奥で、蒼い光が揺れている。


誰かが呟いた。


「……アレイン」


かつての王国英雄。


今は死霊王。


アレインは戦場を見渡した。


兵士たち。


燃える街路。


倒れたアンデッド。


そして。


王都の奥に広がる光の結界。


蒼い炎が、わずかに揺れる。


(勇者の結界か)


アレインは一歩踏み出した。


その瞬間。


王都軍の騎士団長が叫ぶ。


「奴を止めろ!」


騎士たちが突進する。


十人。


二十人。


王国精鋭の騎士団。


剣が一斉に振り下ろされた。


だが。


アレインの指がわずかに動いた。


次の瞬間。


空気が歪む。


黒い魔力が渦を巻いた。


――轟!!


衝撃波が街路を走る。


騎士たちは弾き飛ばされた。


石畳に叩きつけられる。


兵士たちの間に恐怖が走る。


だが老将は叫んだ。


「怯むな!」


剣を掲げる。


「アンデッドは復活しない!」


兵士たちの目が変わる。


そうだ。


勇者が残した結界がある。


今なら倒せる。


今なら――終わらせられる。


老将が前へ踏み出した。


「王都守備軍!」


剣を振り上げる。


「総攻撃だ!!」


兵士たちが一斉に突撃した。


槍。


剣。


魔法。


すべてがアレイン軍へ叩き込まれる。


夜の王都は、完全な戦場になった。


炎が街を照らし、


鋼がぶつかり、


死者と生者が入り乱れる。


その中心で、


アレインは静かに歩いていた。


王都の奥――


王城へ向かって。


決戦は、まだ始まったばかりだった。

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