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神話への反証


(これが噂に聞いていた王都の聖獣……)


白光の奔流の中、アレインは空を見上げた。


大聖堂上空に顕現したそれは、まさしく神話だった。


白銀の鬣を揺らし、黄金の瞳を輝かせる巨大な獣。

四肢には雷が絡み、翼が空気を裂くたびに浄化の波動が戦場を洗う。


咆哮。


音そのものが聖属性。


外郭一帯に広がったアンデッドの群れが、その一声で数百単位で崩れ落ちる。


白雷が落ちる。


屍巨人が蒸発する。


黒騎士が灰になる。


再構成は起きない。


結界と聖獣が共鳴し、聖域は拡張していた。


勇者が踏み込む。


神聖剣が白炎をまとい、アレインへと迫る。


斬撃。


骨が砕ける。


聖獣の雷撃が続けざまに落ちる。


アレインの外套が焼け、肋骨が露出する。


確かに、当たっている。


確かに、削れている。


王都兵が歓声を上げる。


「神の獣だ!」


「終わった!」


剣聖が高位アンデッドを切り伏せる。


勇者がさらに踏み込む。


連撃。


白光が視界を埋める。


聖獣が翼を広げ、戦場全域へと浄化の波を放つ。


アンデッド軍の前列が消し飛ぶ。


二万の軍勢が、目に見えて削られていく。


王は城壁上で立ち上がる。


軍務卿が拳を握る。


聖女は祈りながら涙を流す。


勝利の予感が、王都を満たす。


だが。


アレインは、倒れない。


揺らぎながらも立っている。


聖獣の雷撃が直撃する。


骨が砕ける。


外套が燃える。


だが魂は散らない。


空洞の眼窩が、聖獣を見上げる。


計算。


観察。


(……神聖玉。器は媒介。顕現は依存型)


聖獣は顕現している。


だが完全な実体ではない。


王都の大聖堂を核とし、神聖玉を媒体に、聖女の祈りを通して現世に縛られている存在。


つまり。


依存している。


アレインの杖が、ゆっくりと地を打つ。


勇者が叫ぶ。


「逃がすか!」


神聖剣が振り下ろされる。


その直前。


黒い魔法陣が足元に広がる。


勇者は跳ぶ。


聖獣が雷を落とす。


だが魔法陣は攻撃ではない。


地脈干渉。


外郭地下に刻んでいた術式が、王都中央へと繋がる。


見えない線が、大聖堂へ。


聖女が息を呑む。


「……干渉?」


神聖玉が、わずかに揺らぐ。


聖獣の輪郭が、瞬間的に薄れる。


ほんの刹那。


だが、揺らいだ。


アレインはその隙に後退する。


聖獣が再び雷撃を放つ。


直撃。


アレインの左腕が砕け散る。


骨片が飛び、黒煙が上がる。


城壁上に歓声。


だがアレインは冷静だった。


(聖域は強い。だが閉じている)


結界は内郭のみ。


外郭は焦土。


死が染み込んだ地。


アレインの本領は、死霊術。


死の蓄積がある場所こそ、力の源。


杖が再び地を打つ。


今度は強く。


外郭全域に刻んだ術式が共鳴する。


焦土に散った骨片が震える。


浄化されきらなかった残滓が、黒い霧となって立ち上る。


聖獣が吠える。


白光がそれを焼く。


だが霧は消えない。


消えながら、集まる。


アレインの背後に、巨大な影が形成される。


骨でも肉でもない。


死そのものの凝集。


勇者が息を呑む。


「……なんだ」


アレインの声が、初めて戦場に響く。


「神話は、繰り返される」


聖獣が翼を打ち、突進する。


白雷が影を貫く。


影は裂ける。


だが消えない。


むしろ雷を吸収するように、濃くなる。


依存型顕現に対する、対抗位相。


聖獣の存在基盤を削るための術。


大聖堂の神聖玉が軋む。


聖女が叫ぶ。


「負荷が……!」


聖獣が再び吠える。


勇者がアレインへと斬り込む。


神聖剣が胸骨を砕く。


深く。


だが――


魂核に届かない。


アレインの背後の影が、勇者を弾く。


衝撃。


勇者が後退する。


剣聖が援護に入る。


斬撃。


影が揺らぐ。


だが消えない。


聖獣が最大出力で雷を落とす。


戦場が白一色に染まる。


アンデッド軍が数千単位で消える。


だが影は残る。


そして。


聖獣の輪郭が、再び薄くなる。


聖女が膝をつく。


「媒体の耐久が……!」


神聖玉に亀裂が入る。


聖獣は強い。


圧倒的に。


だが永遠ではない。


アレインは片腕を失いながら、静かに立つ。


骨が再構成される。


ゆっくりと。


結界内で速度は遅い。


それでも、戻る。


「神の獣」


アレインは呟く。


「確かに強い」


勇者が再び踏み込む。


だが疲労が見える。


聖獣の出力は落ち始めている。


王都の歓声が、ざわめきに変わる。


優勢は維持している。


だが、決定打がない。


アレインの背後の影が、さらに膨れ上がる。


聖獣と同じ高さに達する。


白と黒。


神話と反証。


王都はまだ勝っている。


だが。


アレインは、崩れていない。


聖獣の光が戦場を照らす。


その中心で、リッチは静かに次の一手を準備している。


神話を、否定するために。

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