王都の決意
外郭は、静まり返っていた。
二万のアンデッドは市民を襲わず、整然と布陣している。
それが、かえって王都を揺らしていた。
内郭城壁上。
勇者、剣聖、聖女、王、軍務卿が並ぶ。
眼下には、取り残された市民。
そしてその向こうに、黒い軍勢。
王が低く問う。
「……門を開ければ、市民は救える」
だが言葉の続きは、誰もが理解している。
門を開ければ、アンデッドも入る。
軍務卿が即答する。
「開ければ終わります」
剣聖が短く言う。
「外郭はすでに落ちた」
切り捨てる言葉。
だが感情は込めない。
戦の現実。
聖女が目を閉じる。
祈るように、しかし逃げない声で言う。
「教会の浄化結界は、内郭三重に展開済みです」
完全ではない。
だが発動は可能。
「神聖剣の封印も解かれました」
大聖堂より運び出されたそれは、古の魔王を斬ったと伝わる聖遺物。
そして。
「神聖玉も、起動準備が整っております」
聖獣を封じた宝珠。
最後の切り札。
王が問う。
「勝てるか」
沈黙。
勇者が前に出る。
外郭に立つアレインを見る。
かつての仲間。
だが今は敵。
「勝てます」
断言だった。
「ここは王都です」
魔導砲十二基。
内郭三重城壁。
聖女の浄化結界。
神聖剣。
神聖玉。
そして勇者。
「不完全でも、重ねれば覆せる」
理屈は通る。
アンデッドは聖属性に弱い。
結界下では力を削がれる。
城門は二重鉄扉、さらに内側に補強済み。
距離がある限り、魔導砲は有利。
軍務卿が強く言う。
「外郭を盾にするつもりはない。だが門は開けぬ」
王は目を閉じる。
外郭で泣き叫ぶ民の姿が脳裏に浮かぶ。
だが――
王は王である。
「門は閉ざす」
静かな宣言。
「徹底抗戦とする」
鐘が鳴る。
決断の音。
内郭の兵が持ち場につく。
魔導砲に魔力が充填される。
弓兵が並び、油壺が運ばれる。
聖女が結界の中央に立つ。
足元に広がる巨大な紋様。
光が灯る。
白い膜が、城壁を包む。
外郭にいる市民は、それを見上げる。
救いの光ではない。
壁の光。
内と外を隔てる輝き。
ルカは、門を見上げる。
開かない。
父はいない。
だが――
アンデッドも襲ってこない。
黒衣のアレインは、城壁上を見上げている。
勇者と視線が合う。
遠い距離。
言葉はない。
だが理解はある。
門は開かない。
ならば。
アレインが杖を上げる。
地に描かれた黒い紋様が脈動する。
攻城の準備。
内郭城壁上、勇者は神聖剣を抜く。
白光が走る。
剣聖が隣に立つ。
聖女の結界が強まる。
王都は信じている。
神の加護を。
聖遺物を。
勇者を。
勝てる、と。
たとえ七日を失っても。
たとえ外郭を切り捨てても。
ここで止める。
ここで終わらせる。
門は閉ざされた。
光の結界が輝く。
黒と白が、対峙する。
王都決戦が、始まる。




