アレイン対策
王都はまだ傷を抱えていた。
城壁は継ぎ足され、瓦礫は片付けられ、広場には仮設の診療所が並ぶ。
魔王軍を退けたばかりの都は、勝利よりも消耗の色が濃かった。
そこへ、北より早馬が駆け込む。
「リッチ、アレイン。二万のアンデッドを率い南下!」
玉座の間に緊急招集がかかる。
王、宰相、軍務卿。
やがて勇者、剣聖、聖女も入室する。
報告は冷徹だった。
「進路、王都方面。略奪行為なし。街道を直進」
勇者が低く言う。
「目的は王都だけだ」
その一言で、空気が変わる。
⸻
緊急軍議が開かれた。
有力貴族、将軍、教会関係者が列席する。
軍務卿が地図を広げる。
「王都到達まで五日。野戦を挑めば、兵力は互角。しかし消耗は避けられません」
ざわめき。
老将軍が指で北を叩く。
「ならば――ガルディア要塞で迎撃する案はどうか」
空気が止まる。
ガルディア要塞。
それは、北方公爵家が魔王軍に突破された“最悪の事態”を想定し築かれた防衛拠点。
王都への最後の楔。
軍務卿が頷く。
「現在、守備兵二千。堅牢だが兵は少ない」
若い侯爵が声を上げる。
「二千で二万を止められるわけがない!」
「止めるのではない。稼ぐのだ」
老将軍が静かに言う。
「時間を」
王が問う。
「どれほど」
「七日」
ざわめきが走る。
「七日もあれば、城壁修復は完了する」
「王都直轄軍の再編も整う」
「教会の浄化陣も完成する」
しかし反対意見も出る。
「兵を割けば王都が薄くなる!」
「いっそ引き込んで全兵力で迎え撃つべきだ!」
「城壁戦に徹すれば勝機はある!」
議場は割れた。
勇者が前に出る。
「王都での決戦は最終手段です」
静まる。
「今の王都は、勝てても壊れる」
その現実を、誰も否定できない。
聖女が続ける。
「七日あれば、浄化結界は完全になります」
剣聖が腕を組む。
「時間を買えるなら買うべきだ」
王は目を閉じる。
決断の重み。
「……よかろう。時間を稼ぐ」
軍務卿が即座に命を発する。
「周辺領へ緊急徴兵。要塞兵力を一万へ増強せよ」
伝令が駆け出す。
だが、問題は指揮官だった。
「誰を置く」
忠誠と覚悟を兼ね備え、捨て石になれる者。
一人の名が挙がる。
「ディアルド伯爵」
ノルディア派の重鎮。
王都への忠誠は厚く、北方公爵家とも距離を置いてきた男。
王は頷く。
「召集せよ」
⸻
その日の夕刻。
ディアルド伯爵は王城に到着した。
深い礼。
王が直に告げる。
「ガルディア要塞を任せる」
一瞬の沈黙。
伯爵は顔を上げる。
「七日、でございますか」
「七日稼げば撤退を許す」
軍務卿が続ける。
「成功すれば侯爵に陞爵する」
褒賞。
だが、その裏にある意味を伯爵は理解していた。
七日稼ぐとは、七日間死地に立つということ。
伯爵は静かに答える。
「王都が存続するならば、本望」
その目に迷いはなかった。
勇者が伯爵を見る。
二人の視線が交差する。
言葉はない。
覚悟だけが共有された。
⸻
軍議はさらに続く。
王都への避難開始。
食糧統制。
神聖剣の封印解除準備。
神聖玉の警戒強化。
そして夜半。
追加の急報が入る。
「アレイン軍、進軍速度上昇」
静まり返る。
勇者が呟く。
「急いでいる」
老貴族が震える声で言う。
「……間に合うのか」
王が立ち上がる。
「間に合わせる」
それしかない。
ガルディア要塞へ向け、兵が動き始める。
二千は一万へ。
急ごしらえの兵。
震える若者。
老兵の覚悟。
王都は静かに戦支度へ入った。
北の空は、まだ青い。
だが、その向こうで復讐者は歩みを止めていない。
七日。
それが王都に与えられた猶予。
時間を買う戦いが、始まろうとしていた。




