05.封魔の書
様子のおかしいルーカスを見て、アイザックが心配そうに声をかける。
「ルカ様、その本は?」
「封魔の書だよ。さっき魔族の兄上に頂いたんだ」
「魔族の兄上?初めてお聞きしますが、信用できるんですか?」
「イザヤ兄上は少し変わってるけど、僕に危害を与えることはないよ」
言葉を選びながら言い切ると、アイザックが片方の眉を僅かに持ち上げる。
「魔界のご家族とはあまり関わりがなかったとお聞きしていましたが」
「フリードリヒ兄上とイザヤ兄上だけは違うんだ。特にイザヤ兄上は、僕にだけブラコンだったから」
「ブラコン……?」
「幼い頃に一度だけ兄上の部屋にお邪魔したんだけど、僕の隠し撮りやぬいぐるみが沢山あって怖かった」
「それはブラコンではなく過激なストーカーでは?」
「うん、そうかもしれない」
魔王城にいた頃はアーデルハイドに取り入るための演技だと思っていたが、フリードリヒの話を聞く限り違ったようだ。
だから危険なものならプレゼントしないはずなのだが。
先程のページを訝しげに眺めていると、アイザックが覗き込んできた。
「何も書かれていませんね」
不思議そうなアイザックの言葉に驚きの声を上げて振り返った。
「この文字、見えないの?」
「逆にルカ様には何か見えているんですか?」
「僕を主として認めるって」
そう言った途端、次のページに再び文字が浮かび上がった。
[ルカなぞいう勇者の弟子は知らん。我の主は魔王の後継者であるアーデルハイド様、ただお一人である]
…………なるほど、
最早驚きを通り越して冷静になってきた。
「アーデルハイドの名に於いて命じる。封魔の力による代償を示せ」
意識的に低い声を出すと、見開きのページに次々と文章が記された。
(勝ったな……)
誇らしげに笑っていると、アイザックがわざとらしく明後日の方向を見ていることに気がついた。
「アイク?」
「いえ、お構いなく」
声をかけると、お得意のアルカイックスマイルを返された。
「俺は空気の読める男ですから。例え主が厨二病に目覚めても見て見ぬふりしますよ」
「違うよ?これが封魔の書の適切な使い方なんだって」
「そうなんですね、相変わらず何も書かれていませんが」
「分かった、そこまで言うなら読みあげるよ」
顔が赤くなっているのを感じながら、本に視線を落とす。
「『ご存知の通り、封魔の力は全ての魔法を無効化したり、二倍にして反撃したりできる特別な力であります。一方で、その力の行使にあたり代償があるのもまた事実。以下に、二つの項目で纏めさせて頂きます』」
「二倍にして反撃できるとか、チートすぎません?」
「それは僕も思ったけど、今いいところだから黙ってて!」
──やっぱりアイザックは元気な方が似合うな。
すっかり元通りの専属護衛にルーカスは満足気に頷いた。




