33.アーデルハイドは知らない
※本話は残酷な描写があります。ご注意ください。
リアに再会できた上、フリードリヒたちが助けに来てくれたおかげで、アイザックと無事に魔界から脱出することができる。
全てが異様なほど順調に進んでいた。
彼らと一緒なら、魔界をぶっ潰すという野望も本当に叶えられるかもしれない──────
「これだから、お前は愚弟なのだ」
突然聞こえた低い声に驚いて振り向くと、そこには無表情で佇むシャルルがいた。
「心から信頼する専属護衛に、自分を愛してくれる婚約者と、いつでも助けてくれる優しい兄たち。ルーカスという少年は実に恵まれているようだな」
「何が言いたいんですか……?」
「専属護衛は魔王の後継者を暗殺するよう元勇者から指示を受けているし、婚約者やフリードリヒたちは黒髪黒眼のお前にしか価値を感じていない」
淡々と告げられる内容に強く拳を握った。
以前のアーデルハイドなら多少は揺さぶられたかもしれないが、今は自信をもって否定できる。
アイザックに合図をしようと視線をやると、
「バレてしまったのなら、仕方ありませんね」
胸元に迫ったナイフを反射的に避けるが、鼓動が嫌な高まり方をしていた。
信じられない思いでアイザックを見ると、普段と変わらない笑みを返される。
「アイク、どうして……?」
「俺は人間ですが、貴方は黒い瞳をもつ魔族です。これ以上の理由がいりますか?」
「僕は、アイクやフェリクスのことを信じて」
「…………本当に俺たちに愛されていたと胸を張って言えるんですか?実の親にも捨てられたのに」
感情のない瞳に見つめられて、無意識に息を呑んだ。
(きっと、悪夢を見ているんだ…………)
全てを否定したいのに、言葉が喉元に引っかかって出てこない。
「この六年間のアイクは、全部演技だったの……?」
震える声で尋ねると、アイザックの顔が不快そうに歪められた。
「当然でしょう。むしろ誰が好きこのんでルカ様の傍にいたがると思うんですか?」
「………………うん、そうだね」
強い衝撃を受けると同時に、頭が冷静になっていくのを感じた。
あのアイザックがルーカスを裏切ることなんてありえない。
これはおそらく、シャルルの幻覚魔法だ。
ルーカスから大きな負の感情を引き出して、黒魔法を覚醒させようとしているのだろうが。
(魔王たちの策略にハマってやるもんか……!)
あらゆる感情を抑え込んで、完璧な笑みを浮かべる。
偽物になら何を言われても気にする必要はない。
────ルーカスは、本物の彼らから愛されていることを知っているから。
「…………この手だけは使わないでおこうと思っていたのだが」
大袈裟に溜息をつくシャルルに思わず身構えると、
「全て、虚構だ」
なんてことないように発せられた言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。
"全て"というのは勿論、この魔界に連れてこられてからの出来事だろう。
それ以外なんて、心当たりが全くないのだから。
次第に呼吸が浅くなっていくのを感じながら、そう自分に言い聞かせた。
「魔力量ゼロで転移ゲートを開けないお前が、人間界の森に迷い込んだことを疑問に思わなかったのか?」
「……………………………………嘘だ、そんなの」
「アーデルハイドはあの日から俺の幻覚魔法にかかっていただけで、魔界からは一歩も出ていない」
「違う!僕はフェリクスにルーカスという名前をもらって生まれ変わったんだ!……………………お願いだから、嘘だって言ってよ」
「悔しかったら、早く黒魔法に目覚めて俺を殺してみろ」
こちらを見下ろす赤い瞳に向かって、自然と手を伸ばす。
視界は滲み、瞬くたびに熱いものが頬を伝っていく。
胸の内で渦巻いている黒い感情をこぼすように、小さく震える声で呟いた。
「死ね」
「アーデルハイドは知らない─黒髪黒眼なのに期待はずれと追放された魔族は、痛みを以て魔界をぶっ潰します─」はこれにて完結です。
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
私は基本的にハピエン主義なので、彼の物語をこれで終わらせるつもりはありません。
しかしここまでの全三十四話とこの先の話は全く違うものと思っていただきたいほど明確に分けたい気持ちがあったので、一旦完結とさせていただきました。
初の連載投稿で不安になることもありましたが、どうにか無事に完結まで辿り着けました。
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またご縁がありましたら、何卒よろしくお願い致します。
続編はこちら↓↓↓
死にたがり魔族の逃避行
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