02.魔界からの使者
目を覚ますと、見慣れた部屋のベッドで横たわっていた。
そして何故かフェリクスがルーカスの右手を握り、静かに眠っている。
「フェリクス?」
何かあったのかと思い呼びかけると、フェリクスがはっとして起き上がった。
「ルカ、目が覚めたのか。良かった……」
そう言ってフェリクスがルーカスを抱きしめて額に口付ける。
一方でルーカスは色々と思い出し、顔を青ざめさせた。
「アイクは無事なの?」
フェリクスの腕を掴んで尋ねると、落ち着かせるように頭を撫でられた。
「あぁ。ひどい火傷を負っていたが、今は治療して安静にさせている」
「そうなんだ、良かった……」
「良くないのはお前だ。一晩中高熱にうなされ、その後三日間目を覚まさなかった。どれだけ心配したことか」
「それは、ごめんなさい。あの時はとにかく必死だったから」
火球を無効化した話をすると、フェリクスはとても驚いたような顔をしていた。
「ルカは魔力がなかったよな?」
「うん。八歳の時の魔力量測定で0っていう数字が出てたから、それは確かだよ」
「分かった、色々調べてみるよ。ルカはしばらく安静にしていてくれ」
「じゃあ、アイクと大人しく遊ぶね」
「アイザックもかなりお前を心配してたぞ。……今から呼んでこようか?」
無意識に何度も頷くと、フェリクスが柔らかく微笑んだ。
あの奇妙な出会いから一年間、彼は自分を実の子どものように扱ってくれている。
きっと目覚めていない間もずっと看病してくれていたのだろう。
「フェリクス、心配かけてごめんなさい。あと、いつも本当にありがとう」
突然のことだったからか、フェリクスは驚いた表情をした後、甘い微笑みを浮かべた。
「そろそろ父様と呼ばれたいな」
「それは調子に乗りすぎ」
思わず顔を顰めると、フェリクスが声を上げて笑った。
フェリクスが部屋を出た後、ルーカスは自身の掌を見つめていた。
「魔法を無効化って、もしかして最強じゃない?」
そんな独り言をこぼしてニヤついていた時だった。
「アーデルハイド」
とっくに捨てた名前を呼ばれ、強烈な悪寒が走った。
聞き間違いでなければ、この声は五番目の兄にあたるフリードリヒのものだ。
おそるおそる顔を上げると、案の定そこにはフリードリヒの姿があった。
濃い桃色の髪に赤い瞳をもつ魔族。
彼は比較的温厚な性格で、かつてのアーデルハイドにとって一番頼れる存在だった。
「久しぶり。元気そうだな、可愛いアーデルハイド」
そう言ってフリードリヒは美しい笑みを浮かべた。




