26.あの日の夢
「俺に、お前の復讐を手伝わせてくれ」
片膝をついたフェリクスに手を差し伸べられ、アーデルハイドは僅かに眉を寄せた。
「復讐なんてしない。僕は今すぐ死にたいんだ」
「俺もお前もどうせいつかは死ぬ。それならとんでもないことやらかして派手に死のうぜ」
先程まで飛び降り自殺しようとしていた人間のセリフとは思えない。
アーデルハイドはわざとらしく腕組みをした。
「じゃあ貴方は魔王を倒して勝手に死んだら?」
「……もし本気で魔王に復讐したいなら、俺が全力でサポートする」
フェリクスの真剣な眼差しに、無意識に息を呑んだ。
復讐したい気持ちが全くないといえば嘘になる。
『アーデルハイド。僕とイザヤはずっとお前の味方だって覚えてろよ』
そう言って笑っていた桃色の髪をした兄の姿を思い出す。
孤独だったアーデルハイドにとって彼らはとても大切な存在だった。
でも魔王の言葉を信じたせいで、兄たちを拒絶して傷つけてしまったのだ。
もしアーデルハイドが黒髪黒眼でなければ、彼らと普通の兄弟になれたのだろうか。
「もし魔王を倒したら、魔族のきもい価値観ってなくなるのかな……」
「きもい価値観?」
「何色が偉くて何色が卑しいとか、そういうおかしな考え方だよ」
「…………それこそお前の出番じゃないか?」
フェリクスの柔らかい笑みに、アーデルハイドは瞬きした。
「尊いはずの存在が魔界に反旗を翻したとなれば、そのきもい価値観はひっくり返るだろうよ」
その言葉はアーデルハイドの心に小さな明かりを灯した。
「魔力がなくても、魔王は倒せるの……?」
「俺も魔法は苦手だが、それ以外を極めて勇者になった。やる気と根性があればどうにでもなる」
「なんか急に適当じゃない?」
「いいから黙ってついてこい。……お前の名前なんだっけ?」
「んー、…………忘れたからフェリクスの好きなように呼んでいいよ」
「なんだそれ」
この出会いからアーデルハイドはルーカス・カディオと名乗り、フェリクスのもとで鍛錬に勤しむようになったのだ。
「………………なんか、懐かしい夢だったな」
日の出から間もない時間帯に目が覚めたルーカスはゆっくりと起き上がった。
部屋を見渡すと、あらゆるものが散乱しており酷い状態だった。
昨日までの己の荒れ様に苦笑しながら、それらを片付けていく。
「ルカ様、お目覚めになられたんですか?」
物音がしたからか、扉越しにアイザックの声がした。
おそるおそるドアを開けると、彼の目が大きく見開かれる。
「おはよう、アイク。長い間心配と迷惑かけてごめんなさい」
「……本当ですよ、バカ主」
安心したように微笑まれて、気まずさに視線を外した。
「とっとと最上級魔法にでも撃たれて禊をしてきたらいかがです?」
「うん、そうする」
アイザックの煽りにルーカスは素直に頷いた。
僕の名前はルーカス・カディオ。
正真正銘の落ちこぼれ魔族だ。
でもそんな自分だからこそ、歪んだ魔界をぶっ潰すことを使命にして生きている。
だから過去を嘆き悲しみ、立ち止まっている暇はないのだ。




