25.幸せ
「アーデルハイド様、私…………」
クリスを抱えたアイザックが部屋を出た途端、リアの大きな瞳から涙が溢れた。
ハンカチを両目に当てたまま俯くリアの頭を優しく抱きしめる。
「心配かけて、ごめんね。あと、あの時弱気になってた僕に発破をかけてくれてありがとう」
「………………見損なう、ところでしたわ」
「……僕はね、リアが思ってるより何も持ってないし、後ろ向きで陰湿な男なんだ」
「え……?」
身体を離すと、リアは驚きというより戸惑っているようだった。
予想通りの反応に思わず苦笑する。
でも目覚めてからずっと彼女に伝えようと思っていたのだ。
高鳴る心臓を抑えながら、おそるおそるリアの手を握った。
「もし本当に、そんな僕でもいいのなら…………真剣に、付き合ってほしい」
紫色の瞳を見つめてそう言うと、リアの白い肌が一気に紅潮した。
「そ、それって、つまり」
「リアが、…………好きなんだ」
無意識に自分の顔が赤くなっているのを感じる。
生まれて初めての告白だった。
今まではフェリクスが酒に酔って話す愛妻の惚気話を聞いて羨ましく思っていた。
自分も誰かにとっての唯一になって、愛し愛されたい。
そういう意味でリアからの好意は意識せずにはいられなかった。
『私はアーデルハイド様をお慕い、申し、………………』
『私と婚約しているのですから、余所見は程々になさって下さい』
『魔王をはっ倒して、魔界をぶっ潰す夢を語る貴方に惚れた私を、失望させないでくださいませ!』
好意を口にして照れた顔や嫉妬して拗ねたような表情、ルーカスのためにカツを入れてくれた姿勢。
意識が戻ってからリアのことばかり考えていた。
長い沈黙に耐えかねて、リアから視線を外す。
すると彼女の手がルカの耳元に添えられ、そっと唇の端に柔らかい感触が当たった。
「嬉しいですわ、ありがとうございます」
感極まった声で告げられ、ルーカスは彼女の瞳から流れる涙を優しく拭った。
その翌日。
恋人からキスを送られ幸せそうな表情で屋敷を出たリアは魔法学園に退学届を提出し、ルーカスたちの前から姿を消した。




