14.フリードリヒの後悔
フリードリヒは魔王の五男として生まれた。
他の兄弟と違い髪が淫魔特有の桃色だったため、昔はかなり苦労した。
ヤリチンだのビッチだの、そこまで言うなら本当になってやろうと自棄になった時期もあった。
けれどそれも百歳になる前の話で、最近では何とも思わなくなっていた。
黒髪に黒い瞳をもつ弟が誕生したと聞いたのはそんな頃だ。
魔王の指示でアーデルハイドのために城を増築し、そこで蝶よ花よと育てられているという。
当時は大して興味も湧かなかったので、他人事のように弟の噂を聞いていた。
ある時兄弟で唯一仲のいいイザヤが熱心に水晶玉を見つめていた。
ド派手な見た目に反して、どこまでも根暗な兄だ。
どうせ禄でもないことに決まっている、と思っていたのだが。
「フリード、頼みたいことがある」
「フィギュアは買いに行かないからな」
反射的にそう返すと、イザヤは首を振った。
「アーデルハイドが心配だから、何かしてやりたいんだ」
「冗談だろ。魔王の後継者になることが内定してる上、僕たち兄弟の中で一番良い環境で育ってるらしいじゃねえか」
「これを見てもか?」
イザヤに促され、フリードリヒは仕方なく水晶玉を覗き込む。
そこに映っていたのはだだっ広い部屋の隅っこで幼児が一人遊びをしている姿だった。
髪と目の色から、この幼児がアーデルハイドのはずだが。
「……乳母や使用人は?」
「いない。魔王が孤独に育てるよう命令したらしい」
「まさか、生まれてからずっとか?」
「少なくともこの一週間、使用人がアーデルハイドに話しかけているのを見たことはない」
相変わらず、魔王のすることは狂っている。
イザヤも同じ考えなのか、苦い顔をしていた。
「会いに行ってみる?」
ほんの少しの同情と好奇心からの提案だった。
魔王からどんなお叱りを受けようと、かつての自分と同じ目をした弟が放っておけなかったのだ。
率直に言うと、二歳の弟はとてつもなく可愛かった。
「天使はここにいたのか……!」
なお、イザヤのブラコンはこの日に発症した。
普段は彼に苦言を呈しているが、正直その気持ちは分からなくもない。
幼いアーデルハイドは初めて見るフリードリヒたちに、花が咲いたような満面の笑みを浮かべたのだ。
生い立ち上卑しい視線や軽蔑される言動には慣れていたが、純粋な好意を向けられるのは新鮮だった。
「僕たちはアーデルハイドの兄だ。兄様って呼んでごらん」
「あに、にいしゃま?……あにしゃま!」
純真無垢な笑顔を向けられ、この時ばかりは弟のあまりの可愛さに、イザヤと一緒に悶えてしまった。
それ以降、可能な限り毎日アーデルハイドの顔を見に行くようになった。
しかし、アーデルハイドが六歳になった時、
「兄上、迷惑なのでもうここには来ないでください」
可愛い弟の言葉に強い衝撃を受けた。
部屋には鍵をかけられ、全力で拒絶された。
誰かになにか吹き込まれたのかと考えて問いかけたが、答えてくれることはなかった。
結果的にアーデルハイドと顔を合わせることがなくなり、城の異変に気づくのがだいぶ遅れてしまったのだ。




