13.喧嘩
「ご無沙汰しております、兄上」
にこっと微笑むと、イザヤがはっとして真顔になった。
そしてそのまま無言で、伸びているライオネルの足を掴むと、二人とも闇のゲート消えた。
「今何が起こったんですか?」
「興奮して思わずアーデルハイドに声をかけたはいいものの、可愛い笑顔で話しかけられたことで自分の愚行に気がつき、パニックになって姿を消したっていうところかな」
アイザックの疑問に答えたのは、突如現れたフリードリヒだ。
「……魔族の皆様はどうして急に現れたり消えたりするんです?自分勝手すぎません?」
「本当にね。魔力がない僕に対する配慮とかないのかな」
「そのような配慮があれば、ルカ様が魔界を追放されることはなかったかと」
「それもそうだね」
あははと笑うルーカスとアイザックに、フリードリヒが降参のポーズをする。
「悪かったよ。でも緊急事態でな」
いつでも余裕のある笑みを浮かべている彼が緊張感の帯びた表情をしたことで、ルカたちは顔を見合わせた。
「端的に言うと、今朝魔王がアーデルハイドを後継者として正式に任命したんだ」
「え……?」
「戴冠式はお前の十八の誕生日に執り行うらしい」
「正気ですか?」
「聞くまでもないと思うが、アーデルハイドは魔王になる気は」
「ありません、全く」
即答すると、フリードリヒは安心したように小さく頷いた。
「何があろうと僕とイザヤはお前の味方だ。それだけは覚えていてほしい」
「はい、分かり」
ました、と言葉を続けることは出来なかった。
アイザックが二人の間に割って入ったからだ。
「信用できません」
芯のある声でアイザックが言った。
「これまで助けていただいたことは大いに感謝していますが、……それではなぜルカ様が魔界から追放された時何もなさらなかったんですか?」
「アイク、やめて」
「かつてルカ様を傷つけておきながら、今更味方だと言われても信じられないんですよ」
アイザックの言葉にフリードリヒの赤い瞳が大きく見開かれた。
「アーデルハイドを、傷つけた……?」
「違う、違うよ。僕は傷つけられていないから」
慌てて否定すると、アイザックが声を荒らげた。
「どうして嘘をつくんです?兄と呼ぶなら、正直に言えば」
「フリードリヒ兄上とイザヤ兄上はずっと優しかったし、傷つけられたことは一度もないよ」
アルカイックスマイルを浮かべるルーカスを見て、アイザックは眉根を寄せる。
「……いつまでそうやって、過去から目を背け続けるんですか?」
「アイクにそこまで口出しされたくない!」
思わず口から出た、突き放すような言葉。
彼の顔が見られなくて、その場から逃げ出した。




