12.襲来
「熱い……痛い……痛い……痛い……痛、くない」
すっと起き上がりアイザックたちの元へ駆け寄ると、ワーグナーがぎょっとしてルーカスを見た。
「なんで無傷なんだ?」
「魔族だからね」
「いや魔族にしても異常な気が」
「ワーグナーは僕以外の魔族を見たことがあるの?」
「ないけど」
「じゃあ偉そうな口聞かないで」
ぴしゃりと言うと、ワーグナーがアイザックにそっと耳打ちをした。
「ルカってこんな刺々しいキャラだっけ?」
「最上級魔法に撃たれるとストレスゲージが限界突破して、口が悪くなっちゃうんですよ」
「あんた、イケメンなのに苦労してるんだな」
「そうなんですよ。でも俺はルカ様の兄弟兼親友ですから」
ね、とこちらに話を振ってくるアイザック。
それじゃコソコソ話の意味がないだろう。
この三年で少し丸くなったが、それ以上に神経が図太くなっているアイザックに呆れる。
「ワーグナー、あと三日間頼むよ。約束通りあの人に話はしておくから」
「おー、よろしくな」
「……もう一度聞くけど、本当にいいんだね?確実に遊んで捨てられるよ」
「あんな美女に遊ばれるなら本望だ」
「あのね、あの人は女じゃ」
突如禍々しい気配を察知して口を噤んだ。
アイザックが前に出た瞬間、ルーカスの背後に魔族が現れる。
「相変わらず憎たらしい顔をしているな、愚弟」
「っ、ライオネル?」
彼はアーデルハイドの三番目の兄で、昔から何かと張り合ってきた。
理由は僕の顔が気に食わないかららしい。
無表情で剣を振り下ろしてくるライオネル。
それに対してルーカスは最上級魔法に撃たれた直後のため、帯剣していなかった。
アイザックはギリギリ間に合いそうにない。
(詰んだ……)
そう思った瞬間、ライオネルが派手に吹っ飛ばされた。
「私のアーデルハイドに手を出したら許さない。そう言っておいたはずだが」
しんと静まり返った訓練場に低い男の声が響く。
二階の観客席を見上げると、いつの間にか教師や生徒の姿はなく、代わりに銀髪の魔族が赤い瞳を優しげに細めて、ルカたちを見下ろしていた。
「ルカ様のお知り合いですか?」
「……イザヤ兄上だよ」
「え、あの俺を敵対視しているというブラコンの方ですか?」
小さく頷くと、アイザックはそそくさとルーカスの後ろに隠れた。
おい、専属護衛がそれでいいのか。
「アイク、イザヤ兄上を返り討ちにするんじゃなかったの?」
「お話を聞く限りではただのヤバいストーカーだったので侮っていました。見たことないくらいカッコいいし、めっちゃ強いし、ルカ様のウソつき!」
「確かに兄上は魔界随一の美貌で有名だったし、兄弟の中でも二番目に強いけど」
「なんでそんな人がルカ様の厄介オタクになるんですか?自信過剰もいい加減にしてくださいよ」
「誤解を招くような発言しないでよ。僕は自己肯定感が低いキャラで通ってるんだから」
「仲がいいんだな。妬いてしまいそうだ」
気がつくと、イザヤがルーカスたちの目の前にいた。
先程とは打って代わり、恋人にでも話しかけるような甘い声だ。
これには流石のアイザックも口を閉じ、息を呑んだ。




