表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

記憶を封印された私が魔法学園に転校したら、なぜか最強の魔法使いだった件について

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/09/19

記憶を封印された私が魔法学園に転校したら、なぜか最強の魔法使いだった件について



「えーっと、聖桜学園の二年A組は……」


私、桃田さくらは新しい制服に袖を通しながら、配布されたプリントを見返していた。

今日から転校する学校の名前は聖桜学園。都内にある私立の進学校らしい。


でも、なんで急に転校なんだろう。


両親からは「さくらちゃんに特別な才能があることが分かったのよ」なんて言われたけど、私のどこに特別な才能があるっていうの?

成績は普通だし、運動も普通、取り柄なんて何もない平凡な女子高生なのに。


「まあ、とりあえず頑張ろうかな」


重いため息と一緒に独り言を呟いて、聖桜学園の門をくぐった。


校舎は思っていたより立派で、まるでお城みたいに美しい建物だった。

石造りの壁には蔦が絡まっていて、どこか外国の学校みたい。

普通の高校とは明らかに雰囲気が違う。


「桃田さくらさんですね」


受付で名前を告げると、事務の女性が優しく微笑んでくれた。

でも、その目の奥に何か特別な光があるような気がして、少し緊張してしまう。


「こちらが時間割と校内マップです。分からないことがあったら、いつでも聞いてくださいね」


時間割を受け取って見てみると、普通の科目に混じって「魔法基礎」「魔力制御」「召喚学」なんて変わった授業名が並んでいる。


「あの、これって……」


「あら、説明を受けていませんでしたか?」

事務の女性が驚いたような顔をする。

「聖桜学園は、特別な才能を持つ生徒のための学校なんです」


特別な才能?私が?


「魔法、という言葉に聞き覚えはありませんか?」


「まほう……?」


私が首をかしげていると、背後から声をかけられた。


「新入生は君だね」


振り返ると、品のある初老の男性が立っていた。

白いひげを生やした、まるで映画に出てくる魔法使いみたいな人。


「私は校長の白石です。さくらさん、ようこそ聖桜学園へ」


「あの、魔法って……」


「ああ、そうですね。まずは実際に見てもらった方が早いでしょう」


校長先生は軽く手を振った。

すると、宙に小さな光の玉が現れて、ふわふわと踊るように浮かんでいる。


「うわっ!」


思わず声を上げてしまった。だって、本当に漫画の中みたいな魔法だもん!


「驚くのも無理はありません。でも、さくらさんも同じことができるんですよ」


「私が?そんな、無理ですよ」


「試してみましょう。手のひらを上に向けて、『光よ』と唱えてみてください」


言われるままに手のひらを向けて、恥ずかしながら呟いてみる。


「ひかり、よ……」


その瞬間、手のひらに小さな光が現れた。

でも校長先生のとは違って、なんだかすごく温かくて、ふわふわしていて、見ているだけで心が落ち着くような光だった。


「やっぱり」校長先生が満足そうに頷く。


「素晴らしい才能をお持ちです」


でも私には、自分が魔法を使ったという実感や興奮がまったくなかった。

まるで、昔から知っていることを思い出しただけみたい。


「それでは、クラスにご案内しましょう」


教室に向かう廊下で、校長先生が説明してくれた。

聖桜学園は表向きは普通の進学校だけど、実際は魔法の才能を持つ生徒を育成する特別な学校らしい。

一般の人には魔法のことは秘密で、ごく限られた人だけが通っている。


「でも、どうして私が?」


「それは……」校長先生が言いかけた時、教室の扉が開いた。


「おはようございます」


現れたのは、息を呑むほど美しい女の子だった。

長い黒髪に透き通るような白い肌、そして深い青色の瞳。

背筋をピンと伸ばして立つ姿は、まるでお人形みたい。


「こちらは岩井碧さん。同じクラスで、さくらさんの学園生活をサポートしてくれます」


碧さんは軽く会釈をしてくれたけど、その表情はどこか冷たくて近寄りがたい雰囲気があった。


「よろしくお願いします、桃田さん」


「あ、はい。こちらこそ」


教室に入ると、他の生徒たちがざわめき始めた。


「新入生だって」

「転校生珍しいね」

「碧先輩が案内してる」


みんなの視線が私に注がれて、なんだか居心地が悪い。

普通の高校よりも生徒数が少ないみたいで、クラスも20人程度しかいない。


「それでは皆さん、今日から桃田さくらさんが仲間に加わります」


担任の先生に紹介されて、簡単な自己紹介をした。

みんな普通に接してくれたけど、時々「魔法はどのくらい使えるの?」なんて質問をされて困ってしまう。


最初の授業は「魔法基礎」だった。


「今日は光魔法の初歩を学びましょう」


若い女性の先生が教壇に立って、手のひらに光を作って見せてくれる。

クラスメイトたちも真似をして、みんな上手に光を作っている。


私も朝と同じように光を作ってみると、また温かい光が現れた。

でも、何だろう。他の人の光とは明らかに違う。

私のは金色に近くて、見ているだけで心が安らぐような、不思議な光だった。


「桃田さん、素晴らしいですね」

先生が驚いたような声を上げる。

「とても綺麗な光です」


周りのクラスメイトたちも、私の光を見て小さくどよめいている。


「すごいね、桃田さん」

「私の光とは全然違う」

「なんか特別な感じがする」


特別、特別って、みんなそう言うけれど、私には何が特別なのかさっぱり分からない。


昼休みになって、一人で中庭のベンチに座ってお弁当を食べていると、碧さんがやってきた。


「隣、いいですか?」


「あ、はい」


碧さんは私の隣に座って、持参したお弁当を開いた。

手作りにみえるのにとても綺麗なお弁当で、やっぱりこの人は何をやっても完璧なんだろうな。


「学園生活はいかがですか?」


「まだよく分からなくて……魔法なんて、今朝初めて知ったばかりで」


「そうですね」

碧さんが少し考え込むような表情をする。

「桃田さんは、昔のことを覚えていますか?」


「昔のこと?」


「小学生の頃とか」


「うーん、普通に覚えてますけど……なんで?」


碧さんは何かを言いかけて、でも結局口をつぐんでしまった。


「いえ、何でもありません」


でも、その時の碧さんの表情は、まるで何か大切なことを隠しているみたいだった。


午後の授業は「魔力制御」。これも初めて聞く授業だった。

「魔力というのは、魔法の源となるエネルギーです。今日は自分の魔力を感じ取る練習をしましょう」


先生の指導で、目を閉じて自分の内側に意識を向けてみる。

最初は何も感じなかったけれど、だんだん体の奥の方に温かいものが流れているのが分かってきた。


それは川の流れみたいに静かで、でもとても力強くて。まるで生きているみたい。


「桃田さん.」


先生の声で目を開けると、私の周りに薄っすらと金色の光が漂っていた。


「え?」


慌てて立ち上がると、光はすぐに消えてしまった。

でも、クラス全体がシーンと静まり返っている。


「すごい……」

誰かが小さく呟いた。


「桃田さん、少し保健室で休みませんか?」

先生が心配そうに声をかけてくれる。


保健室に向かう途中、碧さんが付き添ってくれた。


「大丈夫ですか?」


「はい、でも……私、何かおかしいんでしょうか?」


碧さんは立ち止まって、真剣な表情で私を見つめた。


「桃田さん、もしかしたら近いうちに、色々なことを思い出すかもしれません」


「思い出す?」


「その時は、一人で抱え込まないでください。私があなたを……」


「碧さん?」


でも碧さんは、また途中で言葉を止めてしまった。

まるで、言ってはいけないことがあるみたい。


保健室で少し休んで、最後の授業を受けた後、放課後になった。


「お疲れ様でした」

碧さんが声をかけてくれる。


「ありがとうございました。今日は色々とお世話になって」


「いえ」碧さんが小さく微笑む。

初めて見る、本当の笑顔だった。

「また明日」


学校からの帰り道、今日起きたことを振り返ってみた。

魔法、魔力、特別な才能。どれも正直信じられないようなことばかり。


でも不思議と、魔法を使った時の感覚は懐かしかった。

まるで、昔から知っていたことを思い出しただけみたい。


碧さんの言葉も気になる。

私が思い出すかもしれないこととは何だろう?

そして、なんで彼女はそんなことを知っているんだろう?


家に帰って、両親に今日のことを話そうとしたけれど、「魔法のことは秘密」と言われているのを思い出した。


「学校はどうだった?」

お母さんが聞いてくる。


「うん、まあまあかな」


とりあえず当たり障りのない返事をしておいた。


部屋に戻って制服を着替えながら、手のひらに小さな光を作ってみる。

相変わらず温かくて、金色の綺麗な光。


この光は一体何なんだろう?

そして、私の「特別な才能」って何なんだろう?


明日からの学園生活が、なんだかとても楽しみになってきた。



転校してから一週間が経った。

最初はとまどっていた魔法の授業にも、だんだん慣れてきた。


「今日は属性魔法について学びましょう」


魔法基礎の時間、田中先生が黒板に図を描いている。

火、水、土、風、光、闇の六つの属性があるらしい。


「一般的に、魔法使いは一つか二つの属性に特化します。桃田さんは光属性のようですね」


私の席に近づいて、先生が優しく微笑んでくれる。

でも、その目には少し困惑したような色があった。


「あの、何か問題でも?」


「いえいえ、問題ではありません。ただ……桃田さんの光は、普通の光魔法とは少し違うようで」


違う?普通の人たちとどう違うんだろう?


「今日は実際に魔法を使って、自分の属性を確認してみましょう」


クラスメイトたちが次々と魔法を披露していく。

山田くんは手のひらから小さな炎を出し、佐藤さんは空気中の水分を集めて水玉を作った。


「桃田さん、お願いします」


私の番がきて、いつものように手のひらに光を作った。

金色の温かい光が、ふわりと浮かび上がる。


その瞬間、教室全体がざわめいた。


「うわあ、なんか気持ちいい」

「疲れが取れた感じがする」

「すごく落ち着く」


え?みんなの反応がいつもと違う。

私の光を見ているクラスメイトたちの表情が、なんだかとても穏やかになっている。


「これは……」田中先生が驚いたような声を上げる。

「治癒系の光魔法ですね」


「治癒系?」


「見る人の心を癒し、疲労を回復させる特別な光です。とても珍しい能力ですよ」


特別、また特別扱い。

どうして私ばかり特別なんだろう?


その時、教室の扉がノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは生徒会長の高橋先輩だった。

三年生で、学園でも有名な優秀な生徒らしい。


「桃田さんはいらっしゃいますか?」


「あ、はい」


「校長先生がお呼びです。すぐに校長室へ」


え?何で校長先生が?


校長室に向かう途中、碧さんも一緒についてきてくれた。

「大丈夫ですよ」碧さんが優しく声をかけてくれる。

「きっと良いお話です」


でも、碧さんの表情はどこか緊張しているように見えた。


校長室の扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。

「さくらさん、お疲れ様です」


校長先生が温かく迎えてくれた。

でも、今日は一人じゃなかった。

隣に座っているのは、見たことのない女性。

長い銀髪に紫色の瞳をした、とても美しい人だった。


「こちらは魔法庁の月島さんです」


「魔法庁?」


「魔法使いを統括する政府機関です」

月島さんが説明してくれる。


「さくらさんについて、少しお聞きしたいことがあって」


魔法使いの政府機関?何で私なんかに?


「ご両親から聞いていると思いますが、さくらさんは幼い頃に大きな事故に遭われましたね」


「はい。でも、もう体もよくなって、今は大丈夫です」


「その事故の後、記憶に曖昧な部分はありませんか?」


言われてみれば、小学校低学年の頃の記憶がちょっと曖昧かも。

でも、事故の影響だと思っていた。


「少しあるかもしれませんが……なんでですか?」


月島さんと校長先生が意味深な視線を交わした。


「実は、さくらさんの魔力について調べていたのですが、とても興味深いことが分かりました」

月島さんが手に持っていた書類を見せてくれる。

魔力測定の結果らしいけど、数値がすごく高い。


「一般的な魔法使いの魔力値は100~500程度です。優秀な生徒でも1000を超えることは稀なのですが……」


「さくらさんの数値は?」


「測定不能でした」


え?


「機械の上限を超えてしまったんです。つまり、大体5000以上の魔力をお持ちということになります」


5000?それってすごいの?


「でも、不思議なのは、その魔力のほとんどが封印されているということです」


「封印?」


「人為的に魔力にブロックがかけられています。恐らく、幼い頃に何らかの理由で封印されたのでしょう」

頭の中が混乱してきた。封印って何?私の魔法を?誰が?なんで?


「大丈夫ですよ」校長先生が優しく声をかけてくれる。

「今すぐ何かが起こるわけではありません。ただ、少しずつ封印が弱くなっているようで」


「弱く?」


「さくらさんの魔法が日に日に強くなっているのは、皆さんもお気づきでしょう?」


確かに、最初の日よりも魔法を使うのが楽になってきている。

でも、それは単純に魔法を使うのに慣れただけだと思っていた。


「もし封印が完全に解けた場合、どうなるのでしょうか?」

碧さんが心配そうに尋ねた。


「それは……」月島さんが口ごもる。

「正直、分かりません。これほど強力な魔力が封印された例は、過去に記録がないのです」


記録がない?それって、つまり前例がないってこと?


「でも、心配は無用です」校長先生が続ける。


「碧さんにお願いして、さくらさんの様子を見守ってもらっています」


「え?」


碧さんの方を見ると、彼女は少し申し訳なさそうな表情をしていた。

「すみません、桃田さん。実は最初から、あなたの監視というか……保護を任されていたんです」


監視?保護?


「でも、今はもう違います」碧さんが慌てたように付け加える。

「最初は任務だったけど、今は本当に友達として……」


なんだか、頭がぐちゃぐちゃになってきた。

封印された魔力、監視、過去の記録にない事例。私って一体何者なの?


「さくらさん、無理をしないでくださいね」月島さんが心配そうに言う。

「もし体調に変化があったり、変わったことが起きたら、すぐに報告してください」


校長室を出た後、碧さんと一緒に中庭のベンチに座った。


「怒ってますか?」碧さんが小さな声で尋ねる。


「怒ってない……と思う。ただ、ちょっと混乱してて」


「そうですよね。急にこんなこと言われても」


夕日が校舎を赤く染めている。

なんだか現実離れした一日だった。


「碧さん」


「はい」


「私のこと、最初から知ってたの?」


碧さんは少し迷うような表情をして、でも結局頷いた。


「はい。でも、詳しいことは私も知らないんです。ただ、あなたがとても大切な人だということだけ」


大切な人?


「なんで大切なの?」


「それは……」碧さんが言いかけて、また口をつぐんでしまう。


どうして碧さんはいつも途中で話を止めてしまうんだろう?

まるで、言ってはいけない秘密があるみたい。


「でも、一つだけ確実に言えることがあります」


「何?」


「桃田さんは、とても優しくて、強い人です。どんなことが起きても、きっと大丈夫」

碧さんの言葉に、なんだか少しだけ安心した。

確かに不安はいっぱいあるけれど、一人じゃないんだから、なんとかなるかもしれない。


「ありがとう、碧さん」


「いえ」碧さんが微笑む。

「私こそ、ありがとうございます」


家に帰る途中、ふと空を見上げた。

もうすっかり暗くなって、星がいくつか見えている。


封印された魔力、測定不能な数値、過去に例のない事例。

確かに不安だけれど、なんだかワクワクする気持ちもある。


私の本当の力って、一体どんなものなんだろう?


それから数日後、魔力制御の授業中に事件が起きた。


「今日は魔力を物質に込める練習をしましょう」


藤原先生が説明しながら、手のひらの光を小さな水晶に込めて見せてくれる。

水晶がぼんやりと光って、とても綺麗だった。


「皆さんも試してみてください」


クラスメイトたちが配られた水晶に魔力を込めていく。

私も同じようにやってみようと、水晶に手を向けた。


「光よ、宿れ」


その瞬間だった。


ピキッ!


水晶にひびが入った。

いや、ひびどころじゃない。バラバラに砕けてしまった。


「きゃあ!」


近くにいた女子が悲鳴を上げる。

私の魔力が暴走して、周りの水晶まで次々と砕けていく。


「みんな、下がって!」藤原先生が慌てて指示を出す。


でも、私の魔力の暴走は止まらない。

教室中の魔法具が光って、壊れて、大変なことになっている。


「桃田さん、落ち着いて!」


碧さんが私の肩を掴んでくれたけど、私にはどうしていいか分からない。

魔力が勝手に溢れ出して、コントロールできない。


私には何もできないの?


その時、教室の扉が勢いよく開いた。


「さくら!」


駆け込んできたのは校長先生と、もう一人見知らぬ男性だった。

年配の人で、白い髪に深いしわ。

でも、その瞳にはとてもなにか、強い意志の光があった。


「始まったな」男性が呟く。


「お願いします、竹田先生」校長先生が頭を下げる。


竹田先生と呼ばれた男性が私に近づいてきて、額にそっと手を当てた。


「封印、鎮まれ」


低い声で呪文を唱えると、暴走していた魔力がスーッと収まっていく。

まるで嵐が急に止んだみたい。


「大丈夫ですか?」竹田先生と呼ばれていた人が優しく尋ねる。


「はい……すみません、私がみんなに迷惑を」


「いえいえ、あなたが悪いわけではありません」


教室の惨状を見回しながら、竹田先生がため息をつく。


「予想より早いな。もう封印が限界に近づいている」


「封印が?」


「さくらさん、少しお話があります。校長室にいらしてください」

校長室で、竹田先生から驚くべき話を聞かされた。


「私は竹田です。魔法封印術の専門家で、実はあなたの封印を施した張本人でもあります」


「え?」


「10年前、あなたが7歳の時でした」


竹田先生が昔の写真を見せてくれる。

小さな女の子が写っているけれど、それが私だとは思えない。

だって、その子の周りは金色の光で満ちていて、まるで天使みたい。


「これが私?」


「はい。あなたは生まれつき、とてつもない魔力を持っていました。でも、当時はまだ幼くて、その力をコントロールできなかった」


「それで?」


「ある日、あなたの魔力が暴走して、大変な事故が起きました」

竹田先生の表情が暗くなる。


「あなたの魔力は治癒の力でもありますが、同時に破壊の力でもあるのです。その日、暴走した魔力で街の一部が……」


「街が?」


「幸い、怪我人は出ませんでした。でも、建物がいくつか倒壊して、大騒ぎになったのです」


私が?街を?そんなことが?


「ご両親と相談して、あなたの記憶を一部消去し、魔力を封印することにしました。普通の子として育ってもらうために」


頭がくらくらしてきた。

私の魔力で街が壊れた?そんな大変なことをしていたなんて。


「でも、封印は永続的なものではありません。成長とともに魔力も強くなり、いずれは封印が破れる時が来ます」


「それで、最近おかしなことが?」


「はい。恐らく、あと数日で完全に封印が解けるでしょう」


数日?そんなに早く?


「大丈夫です」校長先生が慰めるように言う。

「今度は一人ではありません。私たちがサポートします」


「でも、また街を壊したりしたら……」


「それは大丈夫」竹田先生が微笑む。

「この学園は特別な結界で守られています。どんなに強い魔力でも、外に漏れることはありません」


それでも不安だった。

もし暴走したら、さっきのように


「桃田さん」碧さんが私の手を握ってくれる。

「一人で抱え込まないでください。私たちがついています」


その時、校長室の窓の外で光が見えた。


「あれは?」


外を見ると、学園の周りに薄っすらと光の壁が立ち上がっている。

「結界が反応していますね」竹田先生が確認する。

「封印の破れが加速しているようです」


え?もう?


その瞬間、私の体の奥から熱いものが湧き上がってきた。

まるで川の堤防が決壊するみたいに、封印されていた魔力が一気に溢れ出してくる。


「きゃあ!」


思わず悲鳴を上げた。

体中が光に包まれて、コントロールできない。


「始まった!」竹田先生が立ち上がる。

「皆さん、下がってください!」


校長室の中が金色の光で満たされていく。

でも、不思議と怖くはなかった。むしろ、とても懐かしい感じがする。


「さくら、大丈夫よ」


どこからか声が聞こえる。優しい女性の声。

でも、誰の声かは分からない。

光の中で、色々な映像が浮かんでくる。小さな頃の私。両親。そして……


「碧?」


光の中に、小さな女の子が見えた。

泣いている女の子。私と同じくらいの年の子。


『さくらちゃん、助けて』


その子が手を伸ばしている。私も手を伸ばして……


「あ!」


思い出した。碧は昔の友達だ。

幼稚園の時、一緒によく遊んでいた。そして、あの事故の日……


『碧を助けなきゃ』


そう思った瞬間、私の魔力が暴走したんだ。

碧が危険な目に遭って、必死に助けようとして、それで……


「思い出しましたね」竹田先生の声が遠くから聞こえる。


光がだんだん収まってきて、校長室の様子が見えてくる。

私は床に座り込んでいて、碧さんが心配そうに覗き込んでいた。


「碧さん……覚えてる。昔のこと、全部思い出した」


「桃田さん」碧さんの目に涙が浮かんでいる。


「川に落ちちゃって、溺れそうになって。私が必死に助けようとして、それで魔力が……」


「はい」碧さんが頷く。

「でも、おかげで助かりました。さくらさんが助けてくれたんです」


「でも、街を壊しちゃって」


「それは事故です」竹田先生が優しく言う。

「あなたは友達を救おうとしただけ。その気持ちは素晴らしいものです」


立ち上がってみると、体がとても軽い。

まるで重いものを背負っていたのが、急になくなったみたい。


「封印は完全に解けました」竹田先生が確認してくれる。

「でも、魔力は安定しています。もう暴走の心配はないでしょう」


「本当ですか?」


「はい。10年間の経験で、あなたは魔力をコントロールする術を自然と身につけたのです」


手のひらに光を作ってみる。

今度の光は前よりもずっと明るくて、でもとても安定している。

見ているだけで、心が温かくなるような光。


「綺麗」碧さんが呟く。


「ありがとう」私も碧さんに微笑みかける。

「ずっと見守っていてくれて」


「こちらこそ、ありがとうございます。あなたに助けてもらったのに、その記憶を奪ってしまって……ごめんなさい」


「謝らないで。もう全部思い出したから」


夕日が校長室の窓から差し込んで、私たちを優しく照らしている。

長い間忘れていた記憶が戻って、封印も解けて、なんだかやっと本当の自分に戻れた気がする。


「それでは、明日からはより高度な魔法を学んでもらいましょう」校長先生が嬉しそうに言う。


「はい!」


碧さんと一緒に校長室を出ながら、これからのことを考えた。

確かに大変なこともあるかもしれないけれど、もう一人じゃない。碧さんもいるし、クラスメイトたちもいる。


「桃田さん」


「何?」


「これからも、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


二人で並んで帰り道を歩きながら、私は心の底から思った。


聖桜学園に転校してきて、碧さんと出会えて、本当に良かった。


封印が解けてから一週間が過ぎた。


「うわあ、すごい!」


魔法基礎の授業で、私が作った光の花を見て、クラスメイトたちが歓声を上げている。

封印が解けてから、魔法の幅がぐんと広がった。

ただの光を作るだけじゃなくて、色々な形に変えることもできるようになった。


「桃田さん、素晴らしい上達ぶりですね」田中先生が感心してくれる。


「ありがとうございます」


でも、一番嬉しいのは、もう魔力を恐れなくて良くなったこと。

暴走の心配がないから、安心して魔法を使える。


「次は私がやる!」


隣の席の美咲ちゃんが張り切って炎の魔法を披露してくれる。

小さなドラゴンの形をした炎で、とても可愛い。


「美咲ちゃん、上手!」


「えへへ、ありがと!」


クラスメイトたちとも、すっかり打ち解けることができた。

最初は「特別扱い」されているみたいで居心地が悪かったけど、今は本当の友達って感じがする。


昼休みに、碧さんと一緒に屋上でお弁当を食べていた。

「最近、楽しそうですね」碧さんが微笑みながら言う。


「うん、とっても楽しい」


「良かった」


「碧さんは?楽しい?」


「私も楽しいです。こんなに自然に友達と話せるなんて、思ってもみませんでした」


「え?碧さん、友達少ないの?」


「というか、今まで任務ばかりで……」碧さんが少し恥ずかしそうに言う。

「普通の学園生活って、初めてなんです」


そうか、碧さんも色々大変だったんだ。


「じゃあ、これからいっぱい楽しいことしようね」


「はい!」


その時、屋上の扉が開いて、美咲ちゃんと他のクラスメイトたちがやってきた。


「さくらちゃーん、碧さーん!」


「どうしたの?」


「今度の文化祭で、クラス出し物の相談があるの」美咲ちゃんが興奮気味に言う。


「魔法を使った出し物をやろうって話になったんだけど、何がいいかな?」


「魔法の出し物?」


「そう!お客さんは一般の人だから、魔法って分からないようにするんだけど、でも楽しんでもらえるような」


みんなでワイワイ話し合って、結局「光と音のファンタジーショー」をやることになった。

私の光魔法と、音魔法が得意な山田くんが中心になって、幻想的なショーを作る予定。


「さくらちゃんの光、すっごく綺麗だから、きっと大成功だよ!」


「頑張ろう!」


放課後、文化祭の準備でみんなで残って練習した。

私が光で色々な形を作って、山田くんが音楽をつける。

碧さんは演出のアドバイスをしてくれて、他のみんなも照明や舞台装置を担当してくれる。


「もうちょっと右に光を移動できる?」


「こんな感じ?」


「そうそう、それで今度は花びらみたいに散らして」


「わあ、きれい!」


みんなで協力して作り上げていくショーは、想像以上に素晴らしいものになりそう。


「今日はここまでにしましょう」


片付けをしながら、美咲ちゃんが嬉しそうに言う。

「文化祭まであと二週間。絶対に成功させようね!」


「うん!」


帰り道、碧さんと二人で歩きながら話していた。

「楽しかったですね、今日」


「うん。みんなで何かを作るって、こんなに楽しいんだね」


「さくらさんは、昔からそうでした」


「え?」


「幼稚園の時も、みんなで遊ぶのが好きで。いつもみんなを楽しませてくれていました」


昔のことを思い出しながら、碧さんが懐かしそうに微笑む。


「でも、事故の後はずっと一人でいることが多くて……心配でした」


「今は大丈夫。碧さんもみんなもいるから」


「はい」


家に着いて、今日のことを振り返ってみた。

封印が解けて、記憶も戻って、本当の友達もできて。

一ヶ月前の自分には想像もできない毎日。


「ただいまー」


「お帰りなさい、さくら」お母さんが笑顔で迎えてくれる。

「学校はどうだった?」


「すごく楽しかった!文化祭の準備をみんなでやったの」


「そう、良かったわね」


両親も、私が魔法学園に通って魔法を学んでいることを知っている。

最初は心配していたけど、今は応援してくれている。


夜、宿題をしながら手のひらに小さな光を作ってみる。

もう暴走の心配はないから、こうして気軽に魔法を使えるのが嬉しい。


光を見つめていると、色々なことを思い出す。

封印されていた10年間。忘れていた記憶。


そして、今の幸せな毎日。


確かに大変なこともあったけれど、全部含めて今の私なんだと思う。


明日はどんな一日になるかな?きっと、また楽しいことが待っている。


「おやすみ」


光を消して、ベッドに入る。

窓の外では星がキラキラと輝いていて、まるで私の気持ちを表しているみたい。


聖桜学園での新しい生活は、まだ始まったばかり。

これからもっと色々な魔法を覚えて、もっと色々な友達を作って、もっと色々な思い出を作っていこう。


碧さんと一緒に。クラスメイトたちと一緒に。


私の本当の物語は、今、始まったばかりなのだから。


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ