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ソーハンの気持ちと無謀な計画

 自分の為に危険を冒してまで首都に出てきたソフィアが愛おしくてたまらない。

 つい、抱きしめる腕に力が入ってしまって反省した。

 

 馬に乗った俺の後ろには、横乗りになったソフィアが落ちないようにと腹に手を回してきつく抱き着いている。

 子どもの頃は前に乗っていたのに、本当に大きくなったと感慨深い。

 このまま俺の住む部屋へと向かうことになった。


 俺の住む部屋はソフィアが攫われた通り沿いの酒場の二階にある。

 ベッドと小さなテーブル、タンスがあるだけの質素な部屋だ。

 部屋に入ると、ソフィアは真剣な顔をして慎重に部屋を見回した。

 女の形跡でも探しているんだろう。

 いっぱしの女のような事をして、だがソフィアがするとなんとも可愛らしく感じてしまう。

 何もないとわかって安心したのか、彼女の顔が晴れやかになった。


「ほら、座れ」


 一つしかない丸椅子に座るように言って、水を出した。


「ありがとう」

「水しかねーが勘弁してくれ」

「十分過ぎるわ」


 ソフィアは俺を逃がさないとでも言うかのように見つめながらコクコクと美味しそうに飲み干した。

 その碧色の瞳から目を逸らすことができず、吸い込まれてしまいそうになる。


 薄暗く何もない部屋の中に舞い降りた天使。

 凛と咲く一輪のバラ。

 誰よりも美しく品のある佇まい。

 眩しいほどに美しく成長したソフィア。


 離れて正解だった。

 彼女と会えて嬉しいが、一線を引くことを忘れてはいけない。

 ソフィアが俺から離れないと言う前に今からでもランシアへ行くように言わなければ……。

 

 ……反対だ。俺の方が……。

 胸に鈍い痛みが走る。


 ソフィアがコップをテーブルに置く音がして、考えが途切れた。

 そして彼女はにっこり笑っていたずらっぽく言った。


「私、王城で仕事をしているの」

「何だって!? どうしてそんな危ない真似をするんだ!」

「だって、仕事がそれしかなかったのよ」

「金なら置いていっただろう」

「だからって何もしないなんて嫌だったのよ。あれはソーハンが稼いだお金でしょう。私が住んでいる所は寮だから家賃だっていらないし、食費もただなのよ。こんないい条件の仕事はそうそう無いわ」


 その金は盗んだ金だとは言えず、俺は何も言い返せない。

 しかしあまりにも危険ではないか。

 なんとかしてそこから出させたいと思っていたら、再びびっくりすることが彼女の口から発せられた。


「そこでお兄様に会ったの」

「! 今、何て言った」

「だから行方不明だったお兄様に――」

「――それは本当か!」

「え、ええ」

「王城のどこで!?」

「奴隷棟よ。私はそこに食事を運ぶ仕事をしてるんだけど、そこにお兄様がいたの」


 

 ***


 昔俺の家まで訪ねて来た仕事仲間の男は、ある仕事の協力の依頼が来たがどうするか、という相談をしにやってきたのだ。


 依頼したのは滅亡したティリティアのエリオポール公爵の息子アーロンという男だ。

 父親は処刑されてしまったが、自分だけ生き残ってしまったという。

 その後、彼はティリティアの王子と王女を連れて逃げた護衛の騎士たちと合流することができた。

 彼らは皇子と王女の捜索活動を水面下で行い、マクガイア王国を倒す機会を窺っている。

 (おも)だった貴族や騎士たちは捕まって処刑されたため仲間が欲しかった彼らは、マクガイア王国に不満を持つ俺の盗賊団に目をつけて仲間に誘い入れようとしたのだ。


 王子の事はどうでもいいが、マクガイアが倒れてティリティアが再興したらソフィアが王女として幸せに暮らせる。

 そう思った俺は、アーロンの誘いに乗った。

 盗賊団の仲間には、成功した暁には報酬がたんまりもらえるが成功するとは限らないからついて来たい者だけついて来いと言ったら、全員がついてくることになった。


 そして、腕に覚えのある俺でも万が一ということもあることを考えれば、ソフィアが悲しい思いをする前に消えた方がいいと思った。

 それにマクガイアとの戦いに勝利して生き残ったとしても、彼女が王女の地位を取り戻せば自分は側にいることはできない。

 

 アーロンの誘いはちょうど彼女と距離を置くべきと思っていた時期と重なっていたこともあって、何もかもがソフィアと離れた方がいいという道を指し示していたのだ。


 ソフィアにアーロンとの計画の事、そしてフィルベールを捜していた話をすると、彼女はマクガイアを倒すなどあまりにも無謀だと、それに俺が協力することを大反対した。


 

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