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救出

 馬車はスピードを上げる。

 どんどん街から遠ざかると思うと恐ろしくて仕方がない。

 でも落ち着け、落ち着くのよ……。

 

 荷台には男が二人。

 私を攫った男ともうひとり図体のでかい男。あとは御者。

 隙を狙って飛び降りることができるかもしれない。

 怪我したって構わない。

 そう思っていた時、自分を攫った男がフードと口元を覆っていた布を外して、私は目を疑った。


「あなたは!」


 その男は奴隷棟の見張りの兵士だったのだ。


「どうしてこんなことを!?」

 

 男は何も言わず、図体のでかい男に私を押さえつけているよう命令すると、私の両手両足を縛って猿ぐつわを嵌めた。

 これでは飛び降りて逃げることはできず、もう絶望しかない。


「すげーいい女だな。こりゃあ高く売れるぜ。ちょっと味見していいか?」

「売り物だから傷をつけるなよ」

「わかってるって」


 図体のでかい男が舌なめずりをしながらねっとりと足を撫でまわす。

 全身に身の毛がよだった。

 

「! ん――っ!」


 その時、馬の嘶きと御者の悲鳴と共にガタガタガタッと馬車が大きく揺れて止まった。

 

(何? 誰かが助けに来てくれた?)


 そして図体のでかい男が確認してくると言って外に出た瞬間、「ギャー」っという声がした。

 私を攫った男はその声に不安になったのか、私を自分の方に寄せてナイフを喉元に突き付けた。

 どうやら私を人質にするようだ。

 

 幌が開き、暗い荷台に明るい日差しが差し込む。

 逆光でよく見えないが、私の心臓はドクンと跳ねた。

 

「く、来るな! 来たらこいつを殺す!」


 そう男が言ったのも束の間、短剣が男の額に投げつけられて男は絶命した。

 凄い命中率だ。一歩間違うと私に突き刺さっていた。

 思わず震えが走った。

 でも、そんなことより……。

 

「ソフィア!」


 私の名を呼ぶ聞き覚えのある声。

 ああ、やっぱりそうだ。

 

 差し伸べられた大きく武骨な手はまさに探していた人物の手。

 彼の顔を見たいのに溢れ出す涙で歪んではっきり見ることが出来ない。

 喜びの涙がとめどなく流れてくる。

 

「怪我はないか」


 彼は手足のロープと猿ぐつわを外すとズボンのポケットに手を突っ込んだ。

 そこから出てきたのは可愛らしい女物の靴。

 攫われた時に片方脱げてしまった私の靴だ。

 彼はそれを私に履かせてくれた。


 ただ彼を見つめたまま泣くことしかできない自分があまりにも子どもっぽくて情けない。

 早くありがとうって言わないといけないのに、嬉しくて、興奮して言葉が出てこない。

 

「ソーハン……うっ、うっ、ひっく……ひっく……ソーハン……」

「無事で良かった」


 もう逃がさないとばかりにソーハンに抱き着いた。

 そんな私の背中を彼は優しくポンポンと叩く。

 昔から変わっていない……。

 懐かしさに泣きやむタイミングすら訪れない。


(ああ、本当にソーハンなのね! やっと、やっと会えた!)


「落ち着け。もう大丈夫だ、安心しろ」


 彼の息は上がっていて額には大量の汗が流れている。

 この暑い中、必死に追いかけてきてくれたのが分かる。

 二年ぶりに会う彼は、柄の悪さは健在だが落ち着いた大人の雰囲気が漂っている。

 増々素敵になっていて、少し別人のような感じすらしてしまう。

 さっきの剣を投げたのだって、まるで使い慣れているかのように見事で、いったいどこでそんな技を磨いたのか不思議だ。

 ようやく涙も落ち着いてきた。


「どうしてわかったの……」

「お前の叫び声が聞こえたんだ。幻聴かと思ったが外に出てみると靴が落ちていた。俺が誕生日プレゼントに贈ったのと同じで……」

「よく私の声ってわかったわね」

「お前の声を忘れるわけないだろ」


 そう笑顔で言いながら彼は私の頬を両手で包んで、親指で涙を優しく拭ってくれた。

 その優しさに、せっかく止った涙が再び溢れてきた。


「なんでいなくなっちゃったのよぉ……探したんだから……うっ、うっ、私がどれだけ泣いたと思っているの! どれだけ絶望したと思っているの! どれだけ……!」

 

 ああ、どうして。こんなことを言うよりお礼が先だ!

 頭では分かっている。でもどうしても長年の恨み言が口を衝いて出てしまう。

 なんて子どもなんだろう。これじゃあ彼に釣りあわないと悲しくなった。


「お前こそなんでこんな所にいるんだ、ランシアに行けと言っただろう?」

「あなたを! あなたを探していたのよ、ずっと! 首都で見たって言う人がいたから探しに出てきたの!」


 ソーハンの胸をドンドンと叩いて怒りをぶつけた。

 そんな私を彼は「しょうもない子だな」と言って、強く抱きしめてくれた。

 

 

 

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