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それぞれの思い

ソーハンとソフィアそれぞれの目線になります。

 ***ソーハン

 

 泣きながら自分の部屋に走って行くソフィアを見て言いようのないイライラが込み上げてくる。

 

 ソフィアは本来なら俺みたいな男と一緒にいていい身分の女じゃない。自分でも分かっているはずだ。

 これまで甘やかしていたのがいけなかったのか。

 大金を持って安全な所に行けるというのに俺に執着するのは愚の骨頂だ。


 今日はもう話にならないだろうから、金はしまって寝ることにした。


 

 夜、寝ていると部屋の扉がキーッと開く音がした。

 嵐の日以外で一緒に寝たことはないからソフィアが何かを言いに来たのだ。


「今日はごめんなさい。話があるの」

「なんだ」

「今まで働きもせず厄介になっていたんだから、私働くわ」

「……」

「でもここから通いたいの。村で仕事を探せば街で働くより安心でしょ。だから許して」


 そうじゃないんだ、ソフィア……。

 心細げにしょぼくれた顔をして言われると言う通りにしてあげたくなる。

 だがここから出て行けと言ったのは別の理由だ。


 段々女性らしく美しく成長するソフィアに、これ以上一緒にいてはいけないと本能が警鐘を鳴らしているのだ。

 好意を寄せられているのは分かっているが、それはただの愛着なんだ。

 だから勘違いするな、図々しいにもほどがあると、自分に言い聞かせてきた。

 

 自分が盗賊の頭だと言えば恐れをなして出て行くだろうかとも考えた。

 しかしそれだけはこんな時でさえ言う勇気が無い。


 俺が子どもだった頃のマクガイア王国は特に戦乱が激しかった。

 そのせいで孤児が劇的に増えた。

 今でこそ長きに渡るティリティアとの戦争に勝利し経済的に潤いが戻ってきているが、恩恵に預かっているのは貴族など裕福な者のみで、貧困層は苦しい生活のまま。

 だから俺は仕事にありつけなかった孤児院の仲間を集めて盗賊団を結成したのだ。

 狙うは貴族のみ。殺しは本業ではないが流れでそうなることもある。


 出て行けと言う癖に、盗賊だと告白して軽蔑されるのは嫌だなんて、自分も覚悟が足りてないと思う。

 

「ソーハン?」

「……もう遅いから寝ろ」


 そう言うと、ソフィアは諦めて自分の部屋に戻って行った。


 翌日の昼間、仕事仲間が家にやって来た。もちろん盗賊だ。

 ソフィアに話しを聞かれたらまずいので外に出て話をすることにした。


 話が終わると早速ソフィアが聞いてきた。


「ねぇ何を話していたの?」

「なんでもない。仕事の話だ」

「ふーん」


 ソフィアは今まで一度も仕事は何をしているのかと聞いて来たことが無い。

 ついに聞かれるか? と身構えたがそれ以上話は広がらずひとまず安心した。



 ***ソフィア

 

 その後、私は近所のおばさんの雑貨屋でお手伝いさせてもらえることになった。

 商品の埃を払ったり、見栄え良く配置したり。

 鞄や燭台、食器や布巾など色々置いてあって見ているだけで楽しい。

 

 ソーハンは何も言わず、出て行けと言うこともない。

 きっと働き始めたから許してくれたんだろう。

 喜んでいると、ある日ソーハンが家に見知らぬ女を連れて来るようになった。

 毎回違う女だから恋人ではない。しかし必ず胸が大きい。

「部屋に入って来るなよ」と言って二人で閉じこもる。

 何をしているのかいつも不思議だけど、私が邪魔みたいで女に睨まれる。

 そしてなんとなく同じ屋根の下にいていい雰囲気じゃないのを感じてその時は家から出るようにしていた。


(ソーハンは胸の大きな女が好きなのね……)


 自分の胸を見下ろすとため息しか出てこない。

 でも彼の好みがわかった。

 私は雑貨屋のおばさんに教えてもらった胸を大きくする体操を試してみることにした。

 胸の前に両手のひらを合せて力を込めて押し合うのだ。

 いつでもどこでも一生懸命に手を押し合っている私をソーハンは笑いながら見ている。

 なんか馬鹿にされているようで悔しいけど今に見てろよと俄然やる気が増す。

 即効性は無いけどこういうのは継続してこそ効果がでるものだ。

 希望は捨てない。

 


 いつも通りのある日の夜、寝ていると部屋の扉が開いた。

 うとうとし始めだったのですぐに気付いた。

 起きようかと思ったけど、ソーハンが何か言うのを待ってからにしようと思ってそのまま寝たふりを続けていると、彼はベッドの端に静かに座った。

 

 でもいつまでたっても何も言わないで、仕舞いには私の頭を撫でて部屋から出て行ってしまった。

 なにしにきたのか起きて聞きに行こうと思ったけど眠気には勝てなかった。


 そして翌朝目覚めたらソーハンは消えていた。

 テーブルの上にはずだ袋に入った大量のお金と、少し早い十六歳のプレゼントの洋服と靴を残して。

 

 


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