小早川唯のある一日
こちらは連載中のシリーズ『「なろう系嫌い」による破茶滅茶異世界生活』の閑話になります。
私には最近気になる人がいる。うちの担任の先生、佐久間天のことである。一部の生徒にペコちゃんと言われているこの先生のことが最近気になって仕方がないのである。
「ねぇ先生、先生ってなんでペコちゃんって呼ばれているんですか?」
「さぁ…名前が天だからじゃないか?」
「でもサクマってドロップですよね?」
「でもドロップってなんか嫌じゃん?ドロップアウトみたいでさ。そう考えるとまだペコちゃんの方が可愛かろ?」
以前先生にあだ名について聞いた事がある。するとこう言って先生は笑った。この先生は普段生徒の前で笑うことが少ないからか、その私に向けられた一瞬の笑顔に私は撃ち抜かれてしまった。
「ペコちゃん、トイレ行ってもいい?」
「いいけど…、授業中は先生って呼んでくれないか?」
「はーい(笑)」
そんな簡単な会話ができるクラスの一部の生徒たちが私は羨ましい。私だって本当はペコちゃんと呼びたいのだ。でもそれはキャラじゃないだけで呼ばないだけで。
なので私は勉強を頑張ることにした。テストでいい点を取れば先生に褒めてもらえるかもしれない。たったそれだけの理由だが、私にとっては大きな理由だった。
「今日も残って勉強をしているのか?偉いな」
放課後、教室に一人残っていると忘れ物を取りに来た先生に話しかけられた。
「はい、塾の時間までまだ少し暇なので」
「いつも偉いよな、小早川は」
「テストも近いので」
私にとってはただの暇つぶしのつもりだったのだが、先生に褒められた。それだけで私は嬉しかった。今日はラッキーな日かもしれない。
「わからない所があったら聞けよ、教えてやるから」
「ありがとうございます」
そんな会話一つ交わして先生は教室を出て行った。その後も私は勉強を続けた。しかし勉強の途中で寝てしまい、起きた時には時計の針は五時をさそうとしていた。
「やばい、塾に行かなきゃ」
そう独り言を言って帰りの支度をした。塾までは電車に乗らねばいけないので、授業に遅れないように私は急いで普段走ることのない廊下を走っていった。
一階の渡り廊下へ行くため階段を降りていると、目の前に佐久間先生が見えた。
「先生、また明日‼︎」
そう挨拶をして先生を追い越し階段を走っていると、私は不注意で足を滑らせてしまった。
「───っ‼︎」
その瞬間、先生が私の手を引っ張り、落ちるのを阻止してくれた。しかしその勢いで先生が私の代わりに階段の下へ落ちていった。落ちた後先生はしばらく動かなかった。罪悪感に塗れた私は他の先生を呼びに職員室へと走った。
「先生こっちです‼︎」
偶然近くにいた体育教師の曽根崎先生を連れて佐久間先生が落ちた場所に行くと、先生の姿は見えなかった。「職員室に戻ったのかな…?」なんて思いながら曽根崎先生に礼を告げ、私は塾へと向かった。その時はまだ、佐久間先生が消息不明になった事など全く知らなかったのだった。
また読んでいただけると嬉しいです。ブックマークやコメントなどもして頂けると嬉しいです。