新たな出会い?
「荷物は持ったか?シュエメイ」
「うん!多分忘れ物は無いはずだよ!」
「じゃあ行こうか。」
あの夜から数日後俺とシュエメイは本格的にシュエメイの師匠を探す為に、色んなものを買い足し、長期の旅に出ることに決めた。何故かシュエメイは金には余裕があり、そこら辺は困らなかった。
しかし、師匠というのが中々の曲者らしく、見つけるヒントが、生きている城にて待つ。だけらしい。城が生きているなんて意味がわからない。どうしたものか…。
「とりあえずどこを目指すの?」
「そうだなまずは…北京を目指そう。」
「北京!?ここどこだっと思ってるの!?雲南だよ!?!?」
今俺とシュエメイがいるのが、雲南省という海に隣している場所であり北京は大体ここから3000キロほど離れている。
「なんで北京なの!?何か宛があるの?」
「孤児院での知り合いが北京で新しく事業を起こしたらしい。北京なら人も多いし何か情報もあるだろう。」
「ふぅん…まぁ師匠が見つかるならなんでもいいけどさぁ…。」
「ぶつくさ言ってないで早く行くぞ」
「わぁ~待って~!北京を目指すのはいいとして、どこによって行くの?」
「まずは四川を目指そう。」
「はいはーい」
最悪の出会いから数日、すっかり年相応の対応をする様になったシュエメイは何か小動物感が増している気がする。
さて、最初に向かう四川だが、産業都市で、色々と近代的な街だ。まぁその分影もあるんだろうが…。
シュエメイと下らない話をしながら歩いていると。
いきなりみすぼらしい身なりの少女が駆け寄ってくる。
「あ、あの、お母さんが倒れてしまって、か、様子を見てくれませんか、?」
率直な感想は怪しいなと思った。
なぜこんな昼間に明らかに旅人の風貌をした俺たちに声をかけるのかも分からなかった。それほど切羽が詰まっているのかもしれないが…。
「それは大変だね…お姉さん達が力になってあげよう!ね、ハル?」
「あぁ…でも、その分北京に向かう時間が伸びてくぞ。」
「困ってる人がいたら助けるのは当然でしょ?師匠もよく助けられる人は全員助けるべきって話してたし。」
「はぁ…まぁいい案内してくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
「私達におまかせあれ~!」
子供の先導で道を歩き出す。
「ところでシュエメイは医学の知識があるのか?そんなに自信満々ってことは。」
「?無いよ?でも師匠がツボ押したら大体治るって!」
「はぁ…。」
屈託のない笑顔を向けてくる。拳法家はこれだから嫌だ、何もかもを人だけの力で何とか出来ると思ってるこの感じが。
そんなに重病じゃないといいんだが…。
生憎俺も医学は乏しい。
まぁこの子の言ってる事が本当だったらの懸念だ。
そうしてしばらく歩いたあと一つの民家の前に辿り着いた。
「こ、ここです。」
明らかに金目の物がないような…いや、お世辞にも立派とは言えない民家だった。
「お邪魔します!」
シュエメイは意気揚々と扉を開け中に入る。
後に続こうと歩き出した時、少し子供が後ろめたそうな顔をしたのが見えた。
その直ぐにドンッという音と共にシュエメイが自分に吹っ飛んでくる。
「いてぇな…なんだよ!」
視線を前に向けると、怯えてる女と棍棒を構えた男が居た、男は薄汚い笑みを浮かべている。
「よくやったな童!これでお前の母ちゃんも助かるなぁ!」
そう言って男は棍棒を俺とシュエメイ目掛けて突いてくる。
その瞬間すごい力で横に突き飛ばされ、男の棍棒は土を抉る。
「危ないからどいてて。」
シュエメイが横に飛ばしてくれたみたいだった。
ポンポンと土煙を叩き落とし、背負っていた荷物を降ろしシュエメイは正面の男に構える。
「おぉ、嬢ちゃん見てくれだけじゃなくて、少しはやるみたいだな!」
「そう?あなたの技術が無さすぎるだけだと思うけど?」
普段とは打って変わってシュエメイの目はとても冷たく相手を見据えている。
構えは無駄がなく威圧感がある。
だけど、棍棒のリーチはとても長く。
拳法だけでは圧倒的に不利だ。
「言うねぇ嬢ちゃん、それに顔立ちもいい。物品を売っぱらった後は娼館にでも売っちまおう!」
「御託はいいから早くかかってきなよ。」
「そうかよ…!」
その瞬間男がシュエメイの腹を目掛けて強烈な突きを穿つ、シュエメイはそれを半身で躱し棍棒を掴む。
「どうした?ほら、もう一回。」
棍棒をぱっと離し、男に対し手でこいこいと挑発する。
「大人を舐めたらダメだ嬢ちゃん。娼館に売れないのは残念だがしょうがない。ぶっ倒してやるよ!」
もう一度男はシュエメイに向けて突きをする。
今度は顔に目掛けて。
シュエメイは冷静にそれを避ける、しかし男の突きは止まらない。
「どうした嬢ちゃん!!」
突きを避け続けられた苛立ちからか棍棒を横なぎにする、点ではなく面の攻撃だ。
「馬鹿が。」
シュエメイはそう呟き蹴りでいなすと、一気に間合いを詰め、無防備な男の横隔膜目掛けて掌底を打ち込む。
「破ッ!」
男の手から棍棒が落ち、蹲る。
呼吸もままならずヒューヒューと言っている。
「師匠の方が二千倍痛いし速いぞ素人が。」
そう言うとシュエメイは棒を放り投げ男の首を絞めて気絶させ紐で捕縛した。
騒ぎを聞き付けやってきた憲兵へと身柄を引き継ぎ、無事に終えた。
その後は子供が女に抱きつき泣きじゃくり親から事の顛末を聞かされた。
「先日あの男が来て、足を悪くしている私を人質に、母を助けたかったら、旅人を連れてこいとこの子に…。」
「ごめんなさい…」
子供は泣きながら謝り、母も頭を下げる。
まぁそんな感じはしていた。
最初から俺達に声をかけてくる時点でおかしいからだ。
「なるほど…とても辛く大変だったと思います。よく頑張ったね。」
そう言って子供の頭を撫でる。
こんな子供でも辛く苦しい思いをするのが、今のこの国なのだ。
「旦那さんは?」
「旦那はいません…。流行病で亡くしました。」
「それはお気の毒に…。」
母親の足は纏足と呼ばれる足をしていて、足が小さい女ほど美しいと言う風潮で。
幼少期から足に布を巻き強制的に成長を阻害するというものであった。
あれでは、ろくに動く事もできまい…。
「呼ばれたのが、私達で良かったです。もし他の方だったら本当に男の言った通りになっていたと思いますから…。」
そうシュエメイが言う。
「あの…お礼と言ってはなんですが、うちの家には食物が沢山あります。どうか少しでも食べてってください。」
「え!いいんですか!それじゃお言葉に甘えて!」
一気に明るくなるシュエメイ。
戦っている時はあれだけ冷酷な目をしているのに、すっかり普段通りの年相応な少女に戻っている。
「シャオラン、泣いてないでこの方々達に最高のもてなしをしてあげて。」
「わかりました!」
シャオランと呼ばれたその子供はテキパキと手際よく調理をしていく。
「おねーさんも手伝ってあげよう!」
そう言ってシュエメイも調理場へと立つ。
残された俺に母親が尋ねてくる。
「妹さんですか?とてもお強いんですね。」
「いえ、成り行きで一緒に旅をしている者です。」
「まぁ!それはいいですね…。旅っていいものですよね、きっと。」
そう言って母親は自分の足を物憂げな顔をして撫でる。
「あの方の動き1度見た事ある気がするんです。私の実家の方で。」
「実家と言いますと?」
「広東が実家なんです。まぁそこそこの豪族です。そこで行われた演武で同じ動きを見た事ある気がします。」
「なるほど…同じ流派とかなんですかね…。」
「武術の事はあまり明るくなく分からないですね…。そんな事より旅人さん。一個頼みがあるんですが、宜しいですか?」
「と、言いますと?」
「私は見ての通り旅もできませんし、日常生活もままなりません。旦那が逝ってしまった後は、あの子が私の世話をしてくれています…。」
「ですが、今回を機に私は実家に帰ろうと思うのです。でも、あの子は連れて行けない。私と同じ運命を辿って欲しくないから。」
「なるほど…。」
「だからですね、旅人さんあの子をシャオランを旅に加えてあげてくれませんか?」
「なんでそうなるんですか!?」
「あのお方は強いし、あなたは洞察力もあるとお見受けしました。この後のあの子の人生を私の介護に費やしたくはないんです。」
「なるほど…。」
母親は実家に帰ると自分の娘まで自分と同じく不自由な体にさせてしまう。
しかし、このままここにいても埒が明かない。
そう思って毎日を過ごしていたらしかった。
「一回後でシュエメイに聞いてみます。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
そんな会話をしていると目の前に大量の食事が運ばれてきた。
「出来ました!お食べ下さい!」
色鮮やかな海鮮物や、青々とした野菜で出来ているそれは今まで自分とは縁遠いと思っていたご馳走であった。
が、しかし、その端に真っ黒焦げの何かがあった。
なんだこれは…炭…?
「こっちの黒いのは…シュエメイさんが作ったやつです…。」
「えっと~…ごめんね…。」
どうやらシュエメイは相当に料理が下手なようだった。
「まぁまぁ気にせずに…存分に頂いてください!」
そう母親が言い皆で食卓を囲んだ。
孤児院以来の皆で食べる食事はとても美味しくとても幸せだった。
その後夜になり母親はシャオランと俺は外でシュエメイと件のことについて話すことになった。
相手の事情と、頼まれた事を話した。
少し思案した後シュエメイは快く
「いいよ!旅は人数が多い方がいいしね!それに私妹欲しかったし!」
と二つ返事で返してくれた。一方中では泣きじゃくる子供の声が聞こえた。
「いやだ!お母さんと離れたくない!」
「お願いシャオラン言うことを聞いて。」
母親は真っ直ぐな瞳でシャオランを見つめる。
「だって、お母さん私がいないと…。」
「シャオラン?お母さんの事は心配しないで。お母さんは大丈夫だから。」
「でも…!」
「でもじゃないの、シャオラン。毎月文を送るから。」
「私はねシャオラン。自由に生きて欲しいの。お母さんからのおねがい。聞いて欲しい。」
「……」
そう言うと母親はしっかりとシャオランを抱きしめ頭を撫でた。
少しばかり母親という存在を羨ましく感じていた。
シュエメイは横でうるうると泣いていた。
その後母親は実家に文を出し、二泊ほど泊まった後に迎えが来た。
「お迎えに参りました。ファリン様。」
「うん。ありがとう。ちょっと待って。」
迎えの者にそう言い母親はシャオランを呼んだ。
「私の可愛い子。あなたは色んな事を経験するでしょう。私は一緒には行けないけど。あなたからの文をとても楽しみにしています。だからどうか、泣かないで、強く、逞しく生きて。」
「はい…はい…!お母さん…!」
シャオランは目に涙を浮かべながら、泣かぬまいとしていた。
「ハルさん、シュエメイさん。シャオランをよろしく頼みますね。お願いします。」
そう言い残しシャオランを強く抱き締め母親は馬車に乗せられ実家へと向かっていく。
「私…!私ちゃんと強くしっかり、生きるから…!ちゃんと頑張るから!」
そう馬車に向かってシャオランは叫んだ。
母親の馬車が見えなくなってもシャオランは泣かなかった。
少し立ったあと自分の頬を叩き居直って俺達にぺこりと頭を下げると
「行きましょう、お二方。母の文が届く前に次の街へと!」
シュエメイと俺は顔を合わせ笑い
三人の旅が進んでいく。