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九龍城砦の君は笑う   作者: 北東太古
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中国全土をかけ巡れ!ドタバタ珍道中

「外観は金目のものがありそうだったんだけど…」

月の光に照らされた部屋の中を手当たり次第に物色していく、今日は風が強く、窓に吹き付ける風の音と、自分が物色する音以外何も聞こえない。


俺の名前は春という名前であり日本語読みでハルと言うらしい。

名前だけは華やかで気に入っている、苗字は知らない産まれた時から親もおらず天涯孤独の身である。

幸いな事に道に捨てられていた俺を孤児院のおばばが拾ってくれそこで育った。

まぁ、その孤児院も俺が12を過ぎる頃には

「働ける歳のお前の食い扶持などない!」との事で追い出されてしまったが…。

なんの学も縁も無い俺の生きる道は、こうして人が留守の民家に入り、盗みを働く事以外には無かった。

しかしこの家はまるで生活感がない、外観だけはそこそこ立派だったのでこれ良しと盗みに入ったはいいが、金目のもの一つ見当たらない。

普段であればこのような事はしないのだが、着物を三着ほど拝借するしかないな…

月明かりだけでは中など見える訳もなく手探りでタンスの中から上等な布を探す。

シルクの様なとても肌触りのいい布を見つける。これは高値で売れそうだそれをタンスの中から取り出した瞬間に

ガチャッと扉が開く音がしその後、パチッと電気が着く、闇夜に慣れていたため一瞬視界が真っ白になる。

目が慣れると目の前にいたのは、お団子2つ髪で拳法着を来た自分より歳は少し下程に見える少女であった。

その少女は固まってわなわなと震え、頬を赤く染めている、目線の先は自分の手であった。

まず真っ先に叫ばれるのが妥当と思うが、何を固まっているのだろうと思い、少女の目線の先へと視線を運ばせる。すると、自分が上等な布だと思い固く掴んでるそれは、女物の下着であった。


「あ…こ、これは!」


「こ、この、くそ変態がー!」


そうして少女の華麗な蹴りが顎に入り、俺は気を失った。



暫くして見知らぬ天井で目が覚めた、手足は紐で縛られていて身動きが取れない。視界の先には先程の少女がいた。


「あ、あの…この紐解いてもらってもいいですか…?大人しく出ていきますので…」


少女に対し情けない声で懇願をする。


「はぁ。盗人なら最悪見逃してあげても良かったんだけど、下着泥棒は流石に擁護できないわ。貴方は憲兵に引き渡す。」


まずいまずいまずい、刑務所行きだけは嫌だ、この時代に窃盗だとしても、刑期満了で出させてくれるわけが無い。そもそも俺は下着泥棒がしたかった訳でもない!


「ちょっと待ってくれ!俺は下着が欲しかったわけじゃ…」


「うるさい!あんな風に、ひ、人の下着を握り締めてた人が何を言うの!」


状況証拠から見るに本当にその通りとしか言えないのがどうしようもないな…。

幸い紐はあと少しで解けそうである、ここは時間稼ぎをして、少女の気が俺からそれた瞬間に逃げ出そう。

何か時間を稼げそうな話題を探すために少女をよく観察する。

よく使い込まれた功夫シューズ。

泥が着いたズボンの裾。

青色の拳法着から出ている小さくそれでいて少し傷が見える手。

顔立ちは可愛く整っており、人形の様である。

そして左耳には青の宝石が埋め込まれたピアス。

今はとりあえず少女を逆撫でしないよう時間を稼ぐしかない。


「ちょっといいか?」


「何よ。」


「なんでズボンの裾が泥だらけなんだ?」


「鍛錬と旅よ、一週間ぶりに家に着いたのに、貴方みたいな変態に出くわすとは思わなかった。」


やはり蹴りの威力や、手の傷、服装からして拳法家なのは当たり前に間違いないな…

力づくで逃げるのは難しそうだ。


「じゃあ、なぜ左耳だけにピアスを?女なら普通、右耳か両方だろ?」


「はぁ?ちゃんと両方に着けて…」


少女は自分の右耳を触るその瞬間


「あぁー!!」


「なんだよ!いきなり大声出すな!」


「無い!ピアスが無い!」


どうやら少女はピアスの片割れを無くしたか落としてしまったらしい。

あと少しで紐が解ける、この話題で時間を稼ごう。


「そんなに騒ぐって事は相当高いピアスだったのか?」


「高いとか安いとかそういう問題じゃないの!あれは師匠から貰った大事なピアスなの!無くしちゃったどうしよう…」


そう言って少女は年相応に泣き始めてしまった。

紐もちょうど解け、逃げる準備は出来た。あとは逃げる機会を見つけるだけ…そう思っていると。


「どうせ、紐解けてるんでしょ…もう出てっていいよ…」


力ないで声でそう言われる。


「何故だ?憲兵に引き渡すんじゃなかったのか?」


「私憲兵は嫌い。何でもかんでも取っていくから。それより早く出てってじゃなきゃ川に沈めるよ…。」


悪運が良くて助かったみたいだった、少女の横を恐る恐る通り過ぎ扉に手をかける。後ろからは少女の泣く声。

…いくら拳法家とはいえ、少女からしてみたら、知らない男が家の中にいて尚且つ自分の下着を握りしめていたら、それだけでトラウマ物であろう。

そんな事があったのに、大事なピアスもなくし意気消沈し泣くしかできないなんて…。

俺はここで自分の寝床に帰っても寝れる気がしなかった。


「ピアス探すの手伝ってやろうか?」


扉に手をかけたまま少女に問いかける。お咎めなしになった事と不憫な少女への気持ちから出た言葉だった。


「どこで落としたかわからないもん…見つかりっこないよ…」


先程の威勢の良さはなくしおらしい少女


「わかった俺がみつけてやる。だから、さっきの事を許すって形をとってくれ、そしたら、俺も気持ちよく帰って寝れる。」


「…わかった。」


交渉は成立だ、少女の前に居直る。泣きじゃくっている顔を上げさせ右耳を観察する。


「何よ…着いてないのくらい見て分からない…?」


「ピアスはまだ安定してないんだな。」


右耳から少しの出血と出来たてのカサブタがあるのがわかる。

落としたのがかなり前であれば、完全に出血は止まっているだろう。つまり、落としたのは1時間以内、ごく最近のことだ。


「多分お前のピアスは近くにある、来た道を教えてくれ。」


「わかった…」


萎れている少女と外に出て少女の辿った道を歩いていく。外の明かりは月しかなく目が慣れるまでに少しの時間を要した。

ひたすらに下だけを見て歩く、その間も少女は背後でぐすっぐすっと嗚咽を漏らしている。

幸いな事に少女は海沿いを歩いていた為、道自体は綺麗だった。


40分程歩いた後、地面から少し光った物を見つけた。手に取ってみると。少女の左耳に着いていたものと同じピアスがあった。


「あったぞ、ピアス。」


「え…!うそ、本当に!?」


少女が駆け寄り、ピアスごと俺の手を握りしめる。


「良かったぁ~!!もう見つからないかと思った~!!」


そう言って少女は手を握りながらまた泣いた。

やはり握力は強く少し手が痛い。

少し落ち着いた後少女は右耳にピアスをつけ、俺に居直る。両耳にピアスをつけ、月明かりに照らされる少女はとても華麗で可憐で神秘的であった。


「でもどうしてすぐ落としたってわかったの?」


「右耳に少しの出血と出来たてのかさぶたがあった。もしずっと前に落としていたなら、出血もカサブタもかわいていたと思う。だから…」


言ってる最中に少女が詰寄る。


「あなた見た目に反して割と頭はいいのね!」


少女の目は先程とは違い尊敬の眼差しと年相応の純粋さを持っていた。


「はいはい…そうだな…じゃあ、俺はこれで失礼するよ、もう無くさないようにな。」


踵を返し少女を背にする。


「ねぇ!ちょっと待って!なんで下着泥棒なんてしたの!」


「下着泥棒じゃなくて、普通に金目の物を盗みに入っただけだ。何も無くて着物を漁ってたらたまたま掴んだのが下着だっただけで…。」


「ふぅん…。ねぇ、あなた帰る家はあるの?」


あまりにも多く話しかけてくるので立ち止まり少女の方を向く。


「もし無いんだったらさ、私と一緒に師匠探すの手伝ってよ。そんなに頭いいんだったらさ!」


少女はとても純粋な笑顔を向けている。


「最後の修行がね、師匠を見つけることなんだけど、見つけられる気がしないの、だから…」


「だから、私はあなたに着いてきてもらって、一緒に探すのを手伝って欲しい。お願いっ!」


俺は今まで生きてきてこんな風に人からなにか頼まれたことは無いし、自分の出来る事を買われた経験もない。こんな俺でも誰かの役に立てるなら…。

少女の方へと近づきその可憐な顔と向き合う。


「俺の名前はハル。お前は?」


「私は雪に梅って書いてシュエメイだよ!貴方の名前は少し変わってるのね!よろしくねハル!」


そう言ってまた来た道を戻り少女の家へと二人で向かう。


こうして最悪の出会いから始まった俺達の、長い旅が始まったのだった。

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