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番 凱亜《ばん がいあ》・吸血鬼

チーン。

「はーい、弁当あたため、オッケーでーす。あっしたー」

「コーヒーラージと」

「ッス、少々お待ちを~」

初めまして。ぼくの名前は番凱亜(バン ガイア)

歌舞伎町のしがないコンビニ店員で───


ちょっと軽めのイケメン吸血鬼バンパイアだ。


ここには、

ちなみに本名は、アレクサンドル・ヨハネス・ギザ - ワラキア公兼モルダヴィア…忘れた。


主食は伝説どおり、清らかな処女おとめの生き血なんだけど…

昔はヨーロッパはルーマニアの、大きな城に住んでいたのが、どうにも過疎高齢化が進んでしまって、血をくれてた女の子達が、みんなおばあちゃんになっちゃった。

そこで、うら若き処女の美味しいしょくじを求めるうちに、流れ流れて海を渡り、とうとう日本ここまできてしまった。



吸血鬼バンパイアだから番凱亜(バン ガイア)なんてあまりにも安直すぎるかなとは思ったけど、ルーマニアでの僕の本名だと、あまりに長ったらしすぎて、誰も覚えてくれないからさ。


ところで、冒頭でいったとおり、僕は今、コンビニでバイトをしている。

え、何で吸血鬼がそんなことやってるのかって?


古く昔から僕らの一族はね、常に獲物である人間の身近に存在し、その時代の社会に溶け込んで生きてきたんだよ。

だって、人と交わらなけりゃ、美味しい食事になんてありつけないでしょ。

ぼくはこう見えて、グルメだからね。


しかし…

なんとまあ、便利な世の中になったものだ。

今僕が働いているこの、『コンビニ』。


僕はもともと夜型なので (太陽キライ。灰になっちゃうから)、深夜オールで毎日入れる最強のバイトとして、オーナーの一橋源次郎氏(齢75歳)からとても重宝がられている。


それにここ、新宿歌舞伎町一丁目には、僕みたいな金髪パツキン青目ブルーアイがウジャウジャいるから、全く目立たないんだ。


こないだなんか、

『うっわー、兄ちゃん。そのカラコン、めちゃイイ色。どこ売ってんのー』

なんて感心されちゃった。

全く意味は分からないけど、誰だって褒められて悪い気はしないだろ?


ただ…

惜しむらくは、昔みたいに簡単に、僕好みの処女(生き血)が見つからないこと。


確かに、美食家グルメな僕の条件はかなり厳しいが、それでも昔は現代日本ここよりずっと人口の少ないルーマニア(ふるさと)の田舎にだって、ゴロゴロいたのに。


件の処女(生き血)を探すため、人の集まるところを探した結果、歌舞伎町ここに居着いたんだけれど。


もしかして僕は、何かとんでもない間違いを犯しているのだろうか。



そんなある日_____


僕が前シフトの眞下ましたさん(オバチャン・非処女)から引き継ぎを受け、21時にレジに入った直後のことだった。


フィン。


サラリと黒髪を靡かせ、自動ドアをくぐった彼女。


その姿をみるなり、僕の脳髄に電流が走った。



キターーーーーーー!

ついに、

ついに僕の求めていた、理想の処女(生き血)がやって来た。


この界隈で見かける女の子には珍しく、肌の露出の少ない格好に、スラリと整った美しい肢体、透き通るように白い肌。

頬はバラのように赤く染まり、彼女が健康であることを示している。


「しゃっせー」

嬉しさのあまり僕は、声までかけてしまった。


前にご馳走になって以来、もう3ヶ月は経っている。


もう、代替食の、濃度を調整したプロテイン(トマトジュースじゃないよ。野菜は栄養にならないんだ)にはウンザリだ。


そこへきて、何百年に一度お目にかかれるかどうかの飛びっきりの上玉を目にしたものだから…


じゅるっ。


入ってきた瞬間に、彼女から漂ってくる芳香に、つい涎が溢れてくる。それほどに、その時のぼくはかつえていた。


フッ、ダメだな。貴族たるものがみっともない。


僕は慌ててそれを腕で拭うと、他に客がいないことを確認した。

それから、彼女を物陰に引き寄せようと瞳を紅く光らせる。


オ イ デ…


(ちなみに、この時の僕の顔はかなり怖いらしい)



と。


「た、助けてっ」

何と彼女は、自ら走り寄り、レジの方に飛び込んできた。

そうして、ボクの背中にさっと身を隠した。


「え、え?」


一体何が起こったんだ?

ボク、まだ眼力使ってないんすけど。



予想外の出来事に狼狽えながらも、とりあえず赤目を止めて、背中の彼女に問いかけた。


「ね、どうしたの、何かあったの?」

「あ、あそこ…」


震える指で彼女は、エロ雑誌コーナーの辺りを指差した。


「え、あーアレ?

確かにあんまりいい読み物じゃないけど、別に怖い類のものじゃないよ。寧ろ、少年が大人の階段を登るために必要不可欠な読み物で」


どっちかっていうと、今君がすがってるぼくのほうが、人類にとってよっぽど怖い存在なんだが。


心の中で独り言を言っていると、彼女はブルブル首を振った。

よくみると、ATMの影に隠れるようにして、怪しげな黒ずくめの男が写っている。


「あのひと…こないだからずっと私の後を着けてきていて…」

「へえ、そうなんだ」


何と、声まで僕好みだ!

彼女の怯えよりも、新たな幸運の発見に気を取られていた時だ。


フィン。

自動ドアが開き、男が店内に入ってきた。


(お願い、助けてっ)

きゅっ。

彼女が、ぼくの背を強く掴んだ。



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