死亡(2回目)
「おいいぃ!起きろよぉ〜」
俺の顔にパンチが入る。
「おい!モヤシぃ〜。俺がお前と遊んでやろうってのにさぁ〜?何のんきに寝てんだよ?」
俺が顔を上げると、優一がいた。
「でもそいつあの中から出られないんだぜ?中でしか遊べないなんて可愛そうだよなぁ?」
優一の周りのやつが言う
「あ?それなんだけどぉ、訓練とか決闘なら外に出てもいいらしいぜ?」
何なんだよ、急に殴りかかるな…
こっちの世界に来てから、如何せん皆の暴力に対する抵抗がなくなってきている気がする。
弱肉強食かつ暴力が許可されているような世界に来たのだから無理もないのかもしれないが。
たがクラスメイトをためらいなく痛めつけることができるのは、全国でも少数なのではないだろうか
「というわけでもやしぃ?やろうぜ、決闘」
なるほど、それで俺を痛めつけようって算段か。
たが優一はまだレベル1のはずだし、なんとか勝つことも…
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「では、決闘、はじめぇ!」
クラスの男子が言う。
眼の前には木刀を持った優一がいる
結論から言うと、勝利は絶望的だ。
この決闘は、お互いに武器を持ち、先に倒れたほうが負けというルールだ。
そして魔法が使えない。
もう一度いう。魔法が使えない。
優一はレベルこそ低いが、それでも十分な脅威だ。
なので俺は遠くから魔法を連打して勝とうとしたのだが、なんと魔法はルール違反だという。
この状況で魔法特化の俺と物理特化の優一を戦わせるのは、弓使いと剣士が剣を持って戦うようなものだ。
少し分かりにくかったかな?
まぁどうでもいい。
このまま戦っても負けは見えている。どうにか勝つ方法を、
ガゴッ、
優一が踏み出す。俺の顔が優一の拳に呑まれる。
そこからはもう連撃で終わった。
「ハハッ!!何もできずに死んだじゃんこいつ!」
「こんなやつがクラスメイトとかもう恥ずかし〜www」
「まぁしょうがねえだろクラス一番の雑魚勇者なんだから」
くそっ…
いいんだ。あと少し、あと少し耐えれば、
遠くに大輝が見える。
イケメン顔を歪めて俺を嘲笑っている。
きっとこいつが決闘なんて考えついたのだろう。
「あれれ〜?俺のイジメ見て見ぬ振りしてた偽善くんが負けてる〜?」
ふと、懐かしい声がした。
眼の前にいたのはいじめられっ子こと中津安志だった。
「安…」
「おいおい、雑魚勇者が俺様に話しかけてんじゃねぇよ?」
お前もかーい…
何だか元気のないツッコミが出たな…
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その後も俺は安志たちに嫌がらせを受け続けた。
もうホントなんで闇市らしき場所いったんだろう…
だが、時間とは過ぎ去っていくものだ。
とうとう、明日が最後の日となった。
ああ、こんな生活も明日で終わりだ。
そんな気持ちで布を敷いただけの布団に入る。
と、壁際から声がした。
「どうします?」
「どうしますも何も、廃棄勇者のことを知られたわけですから。殺すほかないでしょう」
「では、明日、衰弱死ということにして…」
?
ああ…まぁ俺を殺すわな。
別に俺にお偉いさんにとって大した利用価値があるわけでもないし
次の瞬間には体が反射的に動いていた。
鉄格子に背を向けていた番人の首を懐に忍ばせておいた解体用の短刀で斬る。
番人が声もあげずに息絶える
【経験値670を得ました】
次に炎弾を最大出力で発生させ、鉄格子をこじ開ける。
そしてそのまま外に駆け出す。
ああもう。人殺しちゃったよ
「!?脱走者だ!生きて捉え…いや、殺しても構わん!ここから出すな!」
兵が大量に出てくる。その隙間を縫うようにしてゴーストバリアで通り抜ける。
そのまま街まで出る。
なんとか正門にたどり着くと、声をかけられる。
「おい。今はもう門限…」
そこを俺がファイアナックルで殴る。
もう一人の門番が硬直したスキに、門の外へ逃げ出す。
「外へ出たぞ〜!!!!!」
大量の兵が門から出てくる。
そこまでして勇者の秘密を知られたくなのいか。
そんなことはもうどうでもいいんだ。
走って、走りまくる。
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どれだけ走っただろうか。俺は森の中にいた。
逃げている間に死者の森へ入り込んでしまったらしい。
ここから出なければ。
どこか安全なところに…
安全なところ?安全な場所なんてない。
国にいればどこでも追われるに決まっている。
これから俺はどうするんだ?
「うばぁぁぁああぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙」
特徴的なうめき声が響く。
慌てて声がしたほうを振り向くと、ゾンビがいた
【マーダーグール】
Lv:84
種族:魔物
【情報を正確に読み取ることができませんでした】
HP:??
MP:??
詳細はわからないが、明らかに格上だ。
戦っても勝つことは…
と、そこで俺は自身がゾンビに囲まれていることに気づいた。
俺は反応することもできずに集られる。
体中が食いちぎられる。
本当は、見ていた。
廃棄勇者たちがいた倉庫の端に。
人間の部位や血液が売っていたこと。
制服の子達の体中に、殴られたようなあざがあったこと。
地面に、まだ温かい人間の死体が残っていたこと。
本当は恐かったのだ。
鉄格子に入れられたときから。
倉庫の中のものを見たときから。
この世界に、召喚された時から。
左腕がひしゃげ、右目が見えなくなる。
もっとも、痛みも感じなくなってきているのだが。
今まではプラスに考えて、自分を誤魔化してきたが、
もう。終わりか…
その前に…
俺をこんな事にした奴らを……
――――ミナゴろシに
シナければ―――
ちょっと旅というコンセプトからずれてしまいましたが、まだまだ序盤です。次の次くらいに本当の一人(にするかは決めてませんが)旅が始まると思います。