ポルート・ミミック・ウーズ
ガシュッ
俺の身体が切られる。
あれからしばらく戦っていたが、完全にジリ貧だった。
まず【聖母の息吹】が厄介すぎる。
長い詠唱を必要とし、尚且つ詠唱中は移動できないという大きなデメリット。
しかしそれを上回る、味方全員完全回復というメリット。
これがあまりにも辛い。
正直、あれさえなかったら大輝は5回くらい死んでいるだろう。
いくらでも復活できるお陰で、騎士以外の勇者の動きが単調になっているのが唯一の救いか。
「【聖弾】!!」
「ぐぇっ」
大輝の放った攻撃が俺の肩に当たる。
いや、あのさ?単調な攻撃とは言ったけどさ、やっぱり避け続けるってかなり難しいじゃん?
要するに、疲労が溜まってきているということだ。
体力的なものではなく精神的な。
「【騙し討ち】!!」
チンピラに後ろから剣で貫かれる。
俺は振り返って攻撃しようとする。
「ていっ!」
「やぁ!」
しかし、間髪入れずにモブ二人組が俺に武器を突き刺す。
「ぐっ…」
俺は半ば強引に武器を体から抜き、水谷の方へ向かう。
なんか結構血が出たが無視だ無視。
が、大輝と騎士に阻まれる。
さっきからずっとこんな調子だ。
すると、背後にいた騎士に腹を貫かれる。
そして…
「【聖結界】!!!」
「えっ…」
直後、腹に焼けるような痛みが走る。
俺の腹の中で結界を発動させたのだろう。
直ぐに痛みはなくなったが、それでもかなりのダメージだ。
つい膝をつく。
その時、
「【聖剣】!!!」
後ろで大輝が剣を振りかぶる。
あいつのれじぇんどそーどとやらはかなり大ぶりなので、余程油断していないと当たらないが、今は別だ。
俺に躱す余力はない。
必死に上体を逸らす。
ズドオォォォォォオオオン!!
再び半身が吹き飛ばされる。
【〖聖耐性〗のレベルが1から2に上がりました】
「ゴポッ!ゲホッ!」
「どうだ!これが絆の力だ!!」
キザなセリフを吐いているが、そっちが悪いんだよなぁ…
すると、俺の胸に剣が刺さる。
「これでお前は詰みだ」
騎士が厳格な顔でそう言う。
…ここは異世界だが、漫画やアニメの世界ではない。
何か強力なスキルでも使わない限りは、格上に勝つこともできない。
土壇場で逆転するなんてこともなければ、急激にパワーアップするなんてこともない。
「だから6対1じゃどうやっても勝てない」
騎士が怪訝そうな顔をする。
「どうした。命乞い…」
「でもさ」
最初に保護したものから途中で孤児院に預けたのを引き、保護した奴隷を足して、更に魔獣たちを足してざっと…
「40対6なら勝てるよね!!!!」
「ぐあっ!!!」
その時、騎士の背中に爪痕ができる。
見てみると、量子猫…ミケが騎士を切りつけているのが見えた。
このままでは勝てないが、廃棄勇者たちや奴隷が居れば勝てる。
俺がここまで粘っていたのは、廃棄勇者たちに武器や防具を取りに行く時間を稼いでいたというわけだ。
「助太刀しろ!!!恩人だぞ!!」
「猫に続け!!!」
廃棄勇者らが突っ込んでいく。
「あの…マスクさん…」
美枝も来てくれたようだ。
「加勢に行ってきます!!!!」
……仲直りは少し先かな…
いやしっかりしろ自分!!
そんなことで落ち込むな!!
「よしっ!お前たち!!!」
気をとりなおして俺は叫び、大輝達勇者を指差して言う。
「突撃ーーー!!!!!!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」
俺は未だにうんうん唸っている騎士に嫉妬の炎を打ち込む。
もともとミケ(村を単体で滅ぼすレベルの魔物)の攻撃をモロに受けていたからか、あっさりと気を失った。
「くっ…君たちは騙されてる!!!そいつは悪魔なんだ!!!」
大輝が叫びながら廃棄勇者たちに呑まれていく。
「母なる大地の化身よ…今ここに在る正義の使者にっ…きゃあああ!!!!」
水谷も取り押さえられる。
俺はさっさと勇者たちを気絶させようと歩みを進める。
「高橋!!!人の心を利用するなんて…お前w…」
「ええっと…そn…」
手刀で勇者たちの意識を落としていく。
まぁただぶん殴っているだけだから、手刀なんてかっこいいものではないが。
そして、残るはチンピラだけとなった。
正直そこまで強い相手ではないので、廃棄勇者たちだけでどうにかなると思うが。
ズゥゥン…
その時、後ろから魔力の高まりを感じた。
「高橋!!教えてやる!!!正義はかならず勝つってことをなぁ!!!」
見てみると、大輝が奴隷たちを蹴散らしているのが見えた。
手には空の瓶が握られている。
おそらく薬でも飲んでドーピングを行ったのだろう。
なんかふざけたことをほざいているが、チートステータスが強化されてはあまりに危険だ。
「しょうがねえな…俺が相手するから皆は下がって…」
その時………
ズトオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォンン
重苦しいような。
それでいて軽やかな音が響いた。
砂嵐が巻き起こり、思わず目を閉じる。
しばらくして、目をあけると、真っ黒な龍がいた。
あまりに突然の出来事に、大輝や廃棄勇者も呆然としている。
すると、しわがれた声響く。
「龍神様!!!龍神様が来てくださった!!!」
村長っぽいおじいちゃんが言う。
どこに隠れていたのか、次々と平民がやってきて龍神様龍神様と言い出す。
「なっ!!伝説の聖竜が降りてきただと?!?!?!」
騎士が言う。
なんか急に起き上がったし、気絶したふりをしていたのだろう。
「どういうことだ?」
「ふっ、冥土の土産に教えてやろう。この街は聖竜の加護があってな、街が危機に陥ったときに現れると代々言われているのだ。いやはやしかし実在するとは…」
騎士が何故か誇らしげに言う。
でもあれほんとに聖竜なのか?
なんかどす黒い、石油みたいな色してるけど。
とりあえず鑑定してみる。
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【ポルート・ミミック・ウーズ】
Lv:79/100
状態:擬態・聖竜
危険度:B+
HP:459
MP:367
ステータス:
攻撃力:423
防御力:342
魔法力:367
素早さ:449
固有スキル:
【擬態】Lv6、【腐食毒】Lv4、【スライムボディ】Lv5、【分体創造】lv2、【分体爆破】lv4、【聖骸】lv3、【猛毒爪】lv5、【侵食】lv4、【汚染】lv6、【闇玉】lv8、【ダークスフィア】lv4
通常スキル:
【突進】lv4、【爪撃】lv4、【飛行】lv2、【吸着】lv3
称号:
【守護者喰らい】、【粘液質の呪い】
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【触れたものを汚染する、不純なアンデッド】
【その特性故に人間から忌み嫌われているため、森の奥やダンジョンに出現することが多い】
【倒した生物に擬態する能力がある】
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「おい!!!こいつは龍神様なんかじゃ…」
俺がそう言うのと、平民たちが偽龍神様のブレスで蹴散らされるのは同時だった。