一週間越しの再開
俺は草原を歩いていた。
改めて来てみるとここって風が気持ちいいんだよな。
だが、ここでダラダラしているわけにはいかんのだ。
さっさとコニヨの街に帰って目的を果たさなければ。
いやしかし、死者の森からここに来ると、本当に同じ世界か疑いたくなるな。
あっちは地獄だったからな。いやもうほんとこっちは平和で...
「きゃあああああああああああ!!!誰かぁぁあ!!!!」
平和で...
ああもうめんどくせぇえ!!
もう人間ではないし、殺人経験もあるけど!
だが、こっちでの数週間がいくら濃ゆかろうと、地球育ちの中学生が眼の前で行われている犯罪をみすみす見逃すことなどできないのだ!
「くそぉ。急いでるのに、こんな近くで悲鳴あげられたら見逃すなんて手はないじゃないか...」
チラリと悲鳴の方向に目をやる。
するとそこには、元クラスメイト、鈴木由紀が中年の男性達に襲われている光景があった。
?!いやいや、由紀!?なんでこんなところに...
とりあえずおっさんたちを鑑定してみる。
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名称:ロウエル・グイゴリー
Lv:54
HP:156
MP:89
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【〖鑑定〗のレベルが3から4へ上がりました】
おっ、鑑定のレベル上がった!
いやいや喜んでる場合じゃない。
このステータス戦うとなると、勝つことはできるだろうが、無傷という保証はできない。
加えて相手は複数人いるのだ。
まぁ戦わなくてもいいんならそうしたいし、一応交渉してみるか。
俺がおっさんに言う。
「その子、離してくれませんか?」
「あ゙あ゙?何だとガキ…っ?!」
「親方!こいつ人間じゃねえ!!」
由紀がこちらを見る
なんかめっちゃ驚いてるが無視だ無視。
「こう見えても中々腕が立つんですよ。できれば戦いたくないし、戦るとなると命の保証は…」
「引っ捕らえろ!!!」
あーーー!人の話を最後まで聞け!
すかさずファイアボールを打ち込もうとする。
…が、出ない
驚いていると、おっさんが一人こっちに来る。
「隙ありぃ!」
急いでフィジカルバリアを展開する。
「ぐああぁぁああああ!!!」
?
殴ってきたおっさんの手が損傷している。
どういうことだ?俺が展開したのはただのフィジカルバリアの筈だが…
もしかしたらモンスターに進化したことで、他の技に統合とかしたのかもしれない。
なら、さっきファイアボールが使えなかったのも納得がいく。
この予測が正しければ、ファイアボールも進化しているはずだが…
とりあえずやるか…
精神を統一し、心の中で炎をイメージする。
「【嫉妬の炎】」
なんか自然と技名が出た。
やっぱり他の技になっていたらしい。
ファイアボールが火球だったのに対して、こっちは火炎放射みたいな感じだ。
嫉妬の炎を連打し、おっさん達を燃やす。
魔法が使えない相手なら、これで完封できるかもな。
と、そこへ魔法が飛んでくる。
草属性のものらしい。
いやなんで炎魔法を使ってるとこに草魔法打ち込むかな?
それしか使えないのか、馬鹿なのか…
まぁ魔法を使うというアイデアは良かった。5点やろう。
俺は魔術師にお返しの嫉妬の炎を打ち込み、リーダーらしき男に近づく。
「へっ!魔物ごときが少しはやるじゃ…」
ゴッッッッッッ!!
男が吹き飛ばされる。フィジカルバリアモドキを使ったファイアナックルモドキだ。
リーダーが綺麗に回転しながら吹っ飛ぶ。
「お頭ぁ!」
「嘘だろ、何もできねぇなんて…」
周りのおっさんが散り散りになって逃げていく。
立ち向かってくるものもいたが、そいつ等は燃やしておく。
とりあえず一人も殺してない。
うっかり一人くらい殺ってしまうかもと思ったが、大幅にパワーアップしていたお陰で大丈夫だったな。
俺は倒れているおっさんを尻目に、固まっている由紀に向き直る。
「で?なんでこんなとこに居るんだ?」
由紀は呆然としていたが、なにかに怯えたように話し始めた。
「えっと、私、高橋くんを探しに来て…」
え?俺?
どうやら、俺が正気に戻ったときには、脱走してから一週間ほど経っていたらしい。
「クラスの皆は騎士団の人に任せてっていうんだけど、心配で…」
なるほど。
気弱な性格なのにクラスメイトの意見を押し切るなんて、俺がいなくなったのって結構響いてたのかな?
というか死んでるかもしれないのによく来てくれたな。
いやまぁ死んでるけども。
「由紀」
「はい?」
「ありがとな」
由紀が驚き、赤面する。
「いやいやどした?!」
「えっいやっ!ちゃうの!!」
なんかパニクっている。
お礼をいっただけなんだがな…
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「高橋くんだよね?」
由紀が聞く。
「ん?そうだが?」
いや見ればわかると思うんだが...
モンスターになってちょっと見た目が変わったのか?
「ところで、俺は今から街に行くけど、由紀はどうする?」
「えっ、行きますけど。その…渡辺くんはそのままの格好で行くの?」
「そうだが、まぁ少しボロっちい…」
「いやそういうことじゃなくて!その!渡辺くんの見た目ってどう見てもモンスターだし…」
んああ
そういや俺モンスターだったな。
「そんなに変か?人形だし、そこまで変わってないと…」
「変わってるよ!」
いやいやそんなわけ無いだろ…
ちょうど眼の前におっさん達が盗んだであろう鏡があったので、覗いてみる。
そして、絶句した…
な…なにこれ?
鏡の中には、化け物がいた。
「由紀!気をつけろ!この鏡、中に化け物が封印されてる!」
「いやそれ高橋くんだよ!!!!!」
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改めて鏡を覗き込む。
鏡の中には、顔の左側が透明な物質で構成されたゾンビがいた。
右の頬はえぐれており、歯が見えている。
アンデットは、あまりにも損傷が激しかったりすると、欠損した部分が霊体化するらしい。
俺の顔は、半分霊体で構成されているというわけだ。
よく見たら、右手や胴体など、様々なところが霊体化している。
どこも腐っていないのが唯一の救いか。
とりあえず、おっさんたちが溜め込んでいた盗品らしきものの中から変装に使えそうなものを探した。
結果、口にガスマスクをした全身黒ずくめの怪しい男が出来上がった。
ちなみにガスマスクは口のみを覆うタイプのものだ。
顔の左側に包帯を巻いているので、見ようによっては中二病にも見える。
「どうだ?」
「え?ああ、似合ってるよ?」
由紀が引きつった笑いを浮かべる。
...これ、街に行っても捕まったりしないよな?