宇宙探偵ハリス登場6
「ハリス。この船って、そんなすごかったんだ。射程とか普通より長かったから、武器を強化してあるのはわかったんだけど……」
クレアが、目を輝かせていった。彼女は、重火器や、兵器、高性能機械の類には、目がないのであった。
「はったりさ。常識で考えてみろよ。たかだか三百メートルの船が十キロの要塞どころか一千メートルの戦艦にだって、勝てると思うか? だいたいおれは、やりあえるとはいったが、勝てるとはいわなかったぞ。確かに兵器関係は強化してあるが、勝てるとしても、いいとこ四百メートルか五百メートルの巡洋艦程度だ」
「なんだ……。つまんなぁい」
「でもこの船すごいね。普通なら、十人以上で、操船するとこなのに四人で足りちゃうなんて……」
ケーキをおなかいっぱい食べて、満足したらしいミリナがいった。
「そうね。副操縦席がないし航法と通信、探知系が一緒になってる。機関士も一人でいいみたいだし、砲撃手もいない。このクラスの軍艦なら、搭載機のパイロットとか、白兵戦要員とかいて、三十人は乗っててもおかしくないもんね」
民間機ならともかく、軍用でこれほど小人数化した船はないだろう。少ない人員でコントロールするということは、決め細かい操作がしにくくなるわけで、それが戦力の差に顕著に現れるのだ。
「ほとんどの機能は、自動化してあるからね。人が多くなるとそれだけ生活空間に取られるから、乗員を最低限にして、その分武器や防御を強化すれば、小さくて強力な戦艦ができるはず……だったんだけど。そのぶんコンピュータや、自動装置がでかくなって、結局乗員が少なくて、同じクラスの船に比べれば、多少強力だって程度になったわけ。でなきゃ、女王様を助けたってだけの民間人が、王室情報局の新型艦を手に入れられるはずないだろ」
「失敗作の払い下げってことね?」
クレアが、あからさまに落胆した声でいった。
「まあ、そんなもんだ。情報局の場合、秘密が洩れないように小人数で活動するんだけど、敵地から脱出する時なんか、確実に逃げられるように、武器と機動性を強化し、さらに、一人でも操縦や戦闘ができるようにって、設計されたんだ。でも、予定どおりの性能にならないし、軍や警察で使うにしても、定員が六人じゃ戦闘要員も乗せられない。貨物船にするには、ペイロードが小さい。全体的には失敗作とはいえ、個々の部品は新技術の固まりだから、機密漏洩防止のため、民間に流す事もできない。しかし、膨大な予算をかけて作ったのだから、少しでも資金を回収したい。……って、わけで、おれが安く買いたたいたんだ」
「でも、ハリスだって民間人でしょ。それなのになんで……」
「この船の設計者の一人だからね。機密漏洩の心配がない。何しろ隅々まで知っている」
「ハリスって、情報局の人なの?」
「ちがうよ。今のコンピュータのほとんどは、おれの作ったやつがベースになっているのは知っているだろ?」
「ハイレベルコンピュータ、アーノルドマークIIね」
アーノルドマークIはハリスが十才の時、マークIIは十二才の時に作りアーノルド・セイヤーの名前で発表している。
「この船を自動化するには、マークIIだと船の容積の半分以上も必要になる。なにしろ、人間がやっていたことをコンピュータにやらせるわけだから、膨大なパワーが必要だってのはわかるだろ? でも、これじゃぁどーしようもないんで、おれにおよびがかかったってわけ」
「じゃあ、この船のコンピュータって、アーノルドマークIIIなんだ……」
「今年こそ出るって噂が流れては、やっぱり出ないやつね?」
ミリナの言葉にハリスがこける。
「おいおい。おれが噂を流しているわけじゃないぞ。六年も放っておいたのは確かだけど……。しかも、マークIIIというよりマークII改っていった方が正確だし。小型で少し高速ってだけで、人格も入ってない……」
ハリスが頭をかきながらいった。
「なんだ……まだ完成していないんだ……。せっかくコンピュータとお喋りできると思ったのに……」
S.D.二百五十九年に人間の脳組織をクローニングして作る、バイオコンピュータの製造及び使用が禁止されてから十八年間、人格を認められたコンピュータはない。当然、十四才のクレアは、人格のあるコンピュータを使えようはずもなかった。アーノルドマークIIIには、人格が導入されると数年前に発表されていて、メカフェチのクレアはずっと使いたいと思っていたのだ。
「有機体の持つ不安定性を取り除き、さらに拡張性を持った物にしなくちゃいけないから、そう簡単にはできないよ。少しでも不安定性があるとバイオコンピュータみたいに製造禁止になっちゃうし、不安定性を取り除くと、人格が機械的になってしまう。……今のマークIIがこの状態だ」
S.D.二百五十五年に勃発した第一次銀河大戦は、老朽化したバイオコンピュータが間違った指令を出したことが発端だ。その当時、銀河連合は弱体化し、治安は乱れに乱れており、まさに一触即発の状態だったため、戦火は瞬く間に全銀河に広まった。
「でも、この船のおかげでずいぶん研究が進んだよ。予算は使い放題だし……」
「ミリナ思うんだけど、この船つくって一番得したのって、ハリスじゃない? だって、研究はできるし、船は手にはいるし、……この船が実用にならなかったのって、コンピュータとかが大きすぎたからってことだから、ようはハリスのせいなのに……」
大ぼけのミリナにしては鋭い指摘だ。
「おいおい、それはないだろう……。おれのせいじゃないぞ。まだできてもいないマークIIIを乗せようと考えるやつがいけない。こういったでかいプロジェクトでは、設計当時の実用化された技術だけを使って設計するものなんだ。実用化されるかどうかもわかからない未来の技術を当て込んで設計するなんて、普通のとこじゃできないね。ま、常に最新の装備が必要な情報局ぐらいだろうね。こんな事をするのは……」
大型の兵器は、行きつくとこまでいっており、開発の主流は小型で使い安く、的確に攻撃できる物になっている。大型兵器は政治的にはともかく、実際には使い物にならないからだ。使ったら最後、同じ兵器で報復されるのは目に見えている。
それに、王国と現在明確な戦争状態にある国はない。国境周辺で、にらみ合いや、小競合いがある程度である。そんな中に大型兵器を積んだ戦艦を派遣しようものなら、たちまちのうちに戦争状態に突入してしまうだろう。よって、情報戦が現在の主力になっている。
「おっ、回収が終わったかな?」
海賊船が戦闘のあった地区から離れ、一箇所に集結していた。
「クレア、ミリナ。各機器のチェックとハイパードライブの準備をしといてくれ」
二人は揃ってコンソールを操作しだした。
〈クイーンマリア〉がハイパードライブに入ったのはそれから十分後だった。
用語解説
※1.S.D.
space derivationの略。
人類がワープ装置を開発し、外宇宙へ進出可能となった年を紀元とする年の数え方。
※2.ハイパードライブ
超光速航法の一種。
初期の超光速航法は全く制御が効かず、一旦決めた入出地点や速度を変更することができなかった為ワープと呼ばれていたが、その後ある程度操縦することができる装置が開発されたため、ハイパードライブと区別されるようになった。