宇宙探偵ハリス登場4
「おれの仕事は、惑星開発基地が音信不通になった理由を調べてくることだ。海賊とやり合うんなら別手当もらわんといけないな」
「この包囲網を抜け出せるんなら、いくらでも出すわよ」
「本当だな? ありったけの武器使うぞ。あとで請求書見て、ひっくりかえるなよ」
「しつれいね! これでもあたしは、ミドル財閥の令嬢よ。パパが払ってくれなかったら、あたしのお年玉から払ってあげるわよ」
クレアは令嬢の所に力を入れていった。しかしそうでもしないとまったく令嬢に見えない。誰が見たって乳姉妹のミリナの方が令嬢っぽい。同じように育てられたのにこうも違うのは遺伝のせいか?
「それなら先手必勝だ。ミリナ! 攻撃モード、迎撃モードともAクラスだ」
ミリナがコンソールを操作する。それと同時に、連動したハイパーレーダーに、予想射程距離が映し出された。吹き溜りを抜けたとはいえ、まだ星間物質の量はかなり多い。レーザーは、射程が短くなっているし、メガ粒子砲にいたっては、完全に使用不可能だ。
「射程距離内に十隻確認。すべて宇宙戦闘艇です」
「長距離レーザーとミサイル使えるけど、どっちにする?」
「どっちもだ。手薄になったところを突破する」
ミリナがコンソールを操作すると、スクリーンが青く染まった。星間物質が多いため、レーザーの軌跡がはっきりと見える。
「三隻大破、五隻小破を確認。続けて、七隻が射程に入ります。その内駆逐艦が三隻」
クレアがハイパーレーダーを見ていった。
「第二段いくよ」
「ぶちかませ!」
再びレーザーが暗闇を切り裂き、ミサイルが敵を襲う。
「あわせて、七隻大破、四隻小破、駆逐艦二隻小破。敵反撃してきます。ミサイル百発以上確認」
「バリアフィールドは、今のところ三パーセントの負荷だよ」
これは機関制御席のデータだが、今は人がいないので、ミリナのところに表示される。
「ミリナ、ミサイルで迎撃しろ。弾幕の中に突っ込んで、一気に距離を縮める」
「そんな、無茶よ! 百発以上のミサイルが爆発しているとこに突っ込むなんて……真空ならまだしも、こんな所じゃもろに爆風を食らうわよ」
クレアが隣で抗議の声を上げた。
「バリアフィールドジェネレータのエネルギーをすべて前方に集めれば耐えられる。
それにこっちは囲まれていてかなり不利だ。これぐらいしないと勝ち目はない」
迎撃ミサイルを追うように、〈クイーンマリア〉が方向を変える。
「迎撃ミサイルが敵ミサイルと接触。十三秒で衝撃波が到達します」
ミリナがコンソールを操作する。
「バリアは前に集めたよぉ。横と後ろは丸裸だから、ちゃんと真っすぐ突っ込んでね」
「だいじょうぶだ。これぐらい何でもない」
ハリスは軽くいうが、A級パイロットの免許を持つクレアには、そんなに簡単にできることではないことがわかっていた。一発のミサイルなら、中心点は一つだが百発以上のミサイルが形成した爆発雲だ。相当複雑になっているに違いない。
さすがに爆発雲に突っ込んだ途端、ハリスは黙り込み操縦に専念している。
「バリアフィールド九十パーセント負荷。さらに上昇。この分だと十秒で限界かな?」
「スピード落としたほうがいいんじゃない?」
「いや、拡がる速度が予想以上に速い。スピードを上げなければ、爆発雲が気薄になりすぎる」
ハリスは、徐々にスロットルレバーを引いていく。
「負荷、九十五、九十七……きゃー、ちょっと待って、まだケーキ全部食べてないのに」
「ハリス、はやまらないで! ケーキはともかく、まだ死にたくない」
ハリスは、二人の哀願に耳もかさず、さらにスピードを上げた。
「…九十九、百五、百十五、百二十……もう、いつバリアが消滅するかわかんないよぉ」
「もうすぐ中心点に達する。そしたら、バリアを通常モードに戻せ」
「それまで持ったらね……百三十五、百四十パーセント突破。あれぇ、なんでバリア消滅しないのぉ。普通こんなとこまでいかないよねぇ?」
通常、安全係数が十パーセントから二十パーセントぐらいは見込まれているので、多少オーバーしても大丈夫だが、ここまでオーバーしても平気なのはあまりないだろう。
「この船、できたばっかでしかも設計後の第一号なんで、計器の調整がかなり甘いからあまりあてにしない方がいいよ。特に機械の限界性能なんかはテストする暇なかったから、適当もいいとこだし……」
「早くいってよ! 辞世の句をよんじゃうとこだったわ」
「このケーキより甘いね。もう百八十パーセント超えちゃったよ」
ミリナは隣に置いてあるケーキを手でちぎって口に放り込む。
「ほとんどの機器が新設計の、いわゆるテスト品で占められている。この船は、それらの実験船ってわけだ」
「それって凄く危なくない? もしかしたら、五十パーセントくらいでふっとんじゃうかもしれないじゃない」
「だいじょうぶだ。予想される安全係数より、さらに余裕を持っている。しかもテストデータを収集するために、あちこちにセンサーが仕掛けられているんだ。やばくなったらコンピュータが止めてくれるさ。それよりバリアの切り換え準備。中心点に突入するぞ」
ミリナが慌ててスクリーンに向きなおる。
「バリアフィールドの負荷、下がったよ。ピークはすぎたみたい」
ミサイルの爆発の中心点に達した時、〈クイーンマリア〉は、バリアを通常モードにし、更に加速した。
「弾幕の効果、薄れてきています。射程内に軽巡洋艦二隻入りました」
「撃ちまくれ! ど真ん中をつっきる」
〈クイーンマリア〉は複雑な軌跡を描き、二隻に接近する。これだけの相対速度で、つっこまれた方はたまらない。よたよたと方向転換し始める。
どちらも近距離用レーザーを撃ちまくり、赤い光がシャワーのように降りそそいだ。しかし相対速度が高すぎ、まぐれで数発づつ当たった程度だ。
「二隻の相対距離およそ五十キロ。ぶつけないでね」
地上で五十キロメートルといえばけっこうあるように思えるが、宇宙で、しかもこの相対速度では、まさしく針の穴を通すぐらいの精密な操船が必要である。
「まかしとけ。メインスクリーンを拡大モードへ。真正面に固定!」
スクリーンに二つの光点が現れる。その光点は、スクリーンから飛びださんほどに揺れ動いていた。拡大率が高いために、ちょっとした動きでも大きくゆれ動くのだ。しかも星間物質が多いため、何もしなくても密度の薄い方へと流れ出す。
三人は、口も聞かず、じっとスクリーンを見つめた。次第に揺れは少なくなってくるが、すれちがうまで安心できない。しんと静まり返ったコックピットにハリスが操船する音だけが、異様に大きく響く。
これは、海賊船の方でも同じだった。ブリッジにいる者は、息をつめてスクリーンを見ていた。この速度で衝突したら、バリアなどひとたまりもない。もちろん、船体など跡形もなくなってしまうだろう。
「抜けるぞ」
ハリスが沈黙を破っていった。スクリーン脇の距離計が一瞬零を示し、そしてマイナスに変わる。
「やったぜ! ど真ん中だ。これで、やつらも追ってこれない」
海賊船が方向転換し、追撃にかかった時には、相当距離が開いているはずだ。
用語解説
※1.予想射程距離
砲弾など違って、ビーム兵器は途中に障害物がない限り無限遠に届くが、実際には星間物質の密度、ビームの拡散率などから目標に対して何らかのダメージを与えられる距離が決まる。
なお、ここからさらに目標のバリア強度、装甲の強度や厚さなどから有効射程距離が算出される。
ここでは射程距離とは言っているが実際には有効射程距離の意。
有効ではない射程距離には意味がないので、省略されています。