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地下大迷宮3

 その頃ハリス達は、膨大な土と岩でできた壁の前で呆然としていた。


「行き止まりみたいね」

「いわれんでも見ればわかる。海賊たちが攻撃してきた時に崩れたんだろう」


 上からのセンシングは完全なわけではない。ごく表面にある大きな通路だけしかチェックできない。後はクレアの記憶にあるマップと照らし合わせて、今回のルートを決めたのだ。クレアが補完した部分は古い物であり、ついこの間崩れた様な部分までわかるはずもない。


「岩の隙間から、地上まで空気が洩れているんだろう。風向きが逆になるわけだ」

「あの時反響チェックでもしとけばよかったね。そうすれば時間を無駄にしなくても済んだかも」

「そうだな。でも、そうしなかったんだから仕方がない。もどって脇道を行こう」


 しかしこれからは、アナライザのマップは当てにできない。


「やっぱりあたしが来てよかったでしょ。あんまりこまいのは自信ないけど、人が通れるくらいのなら、全部覚えているから」

「頼りにしてます。お嬢様」


 いきなり下手に出るハリスだった。

 地下洞窟は自然にできた大迷宮といってもいいくらいで、駆逐艦が通れそうな物から、ねずみですらつっかえそうな通路まで数えると、数億本以上あるという。それが上下左右、複雑に絡まっているのだ。そのため、アナライザによる反響チェックもあまり遠くまでは無理だ。反響が複雑過ぎると、解析しきれなくなるからだ。

 そんなところにマップもなしで放り込まれたら、たとえアナライザがあっても、外へ出られるとは限らない。しかも、今は宇宙服を捨ててきており、外に出て歩くわけにもいかない。


    ☆


 辺境の航路を八隻の二千メートル級貨物船が、一直線に並び十五Gで加速航行をしている。よくある独立型コンテナを運ぶスケルトンタイプだ。このクラスだと最高でも三十Gがいいところだ。骨組みしかないため、重力推進システムの推力バランスをとるのが難しいのだ。

 そしてその周りには、六百メートル級巡洋艦と二百五十メートル級駆逐艦二隻が護衛として付いていた。

 三隻の戦闘艦は白と黒のツートンカラーでまとめられ、王国宇宙警察の船だということが一目でわかる。

 普通、戦艦などは目立たない黒やブルー系にするのだが、宇宙警察だけは自分の姿を誇示する白がベースカラーだ。自分が警察だということを知らせ、海賊等の行為を未然に防ごうというのが狙いだ。

 しかしこの三隻は、普通のとは違ってさらに、どくろのマークが描かれている。

これは王国宇宙警察特別機動課のシンボルだ。俗に海賊課、あるいはパイレーツポリスといわれている凶悪海賊専門の警察組織だ。優秀だが気の荒い連中やちょっと毛色の変わったのが集められている。

 ――海賊課だけには行きたくない――

 配属前の新卒警官は、口を揃えてこういう。

 死亡率No.1。おまけに一度海賊課に配属されたら死ぬまで海賊課だといわれている。もちろんそんなことはないのだが、完全にエリートコースから外れていることは間違いない。本当のエリートは、そんな危険な職場に配属されるはずはないのだ。

 宇宙警察は通常、一チーム二百メートル級駆逐艦と、百メートル級宇宙戦闘艇二隻が普通であり、特別機動課はだいぶ強化してある。といっても、普通は四百メートル級軽巡洋艦と二百メートル級駆逐艦二隻であり、このチームはかなり優遇されているといえるだろう。

 その優遇されているはずの巡洋艦のブリッジでは、険悪な空気が漂っていた。


「だいたいなんで、あたしたちがこんなとろくさい貨物船の護衛なんかしなくちゃいけないのよ!」


 このチームの主任警部ソニア・レイトンだ。彼女はまだ二十二才であるが、すでに一チームの責任者である。銀河王国宇宙警察警視総監の一人娘であり、父の威光の御陰もあるだろうが、いまではそんなことは誰も気にしない。実際に彼女は優秀であり、特別機動課でもトップクラスの成績なのだ。優秀さと父の威光で、常に最新型で強力な船を貰えるのだ。――すこしは親馬鹿のせいかもしれないが。


 彼女が苛々しているのは、貨物船が遅いせいだけではない。普通、海賊課は貨物船の護衛などしない。この手の大型貨物船は大量ではあるが、単価のそんなに高くない物を運ぶのだ。そのため、海賊がまるごと奪って他に売り払おうにも、物が大量な為、すぐに足がつく。かといって、バラで売ったのでは手間がかかりすぎ、採算が合わない。船主もその配分をよく考えて船を手配しているため、今まで海賊に襲われるということはほとんどなかった。しかも各分岐点には警察の船が配備され、たとえ襲われても、最小限の被害で済んだ。


 しかし、ここへきて辺境の大型貨物船の被害が相次いできた。有事に備え宇宙軍が中央や国境付近へ集結し、宇宙警察も中央の警備を強化した為、辺境の警備が手薄になったせいだ。これであおりを食ったのは、中央を縄張とする海賊達だった。

 恒星系内どころか、主要航路のターミナルには、軍や警察の船があふれそうなくらいうろうろしており、とても海賊行為を行う所ではない。食い詰めた海賊達が、辺境へ流れてきて手当たり次第に襲い、余計に治安が悪くなっている。


 そこで槍玉に上がったのが海賊課だった。海賊がいない中央に海賊課がいてもしょうがないだろうと、誰かがいい出したのだ。かくして海賊課の大部分が辺境へと任地を移すこととなった。

 現在一般的な旧式のハイパードライブでは、安定度が低いためハイパー空間内で大きな方向転換ができず、いったんターミナルと呼ばれる通常空間に戻ってから方向を変えるのだ。よって航路も直線的に設定される。辺境は直線で取れる航路が短く、ターミナルは中央のそれより多い。逆にそのために辺境になっているともいえる。ハイパー空間から出たり入ったりするには、時間と手間がかかるのだ。〈テラ〉などから一万五千光年以上離れていても、栄えている星があると思えば、わずか数百光年しか離れていなくても、辺境といわれる所もあるのはこのためだ。

 辺境では、ターミナル数の割に、そこを航行する船は極めて少なく、ターミナルをパトロールするより直接護衛についた方が効率がよかった。


「次のハイパードライブまでどのくらいかかるの?」

「あと五時間三十二分です」


 航法士が答える。


「まだ五時間もあるのぉ!?」


 ソニアはいっそのこと海賊でもでないかしら? と思ったが、口にはださなかった。


「今度のハイパードライブは何光年だっけ?」

「十二.五光年です」


 ――まだ百光年以上あるのにこの調子では、一体何時になったら着くのかしら?

 実際、ソニアだけでなく、他の乗員もうんざりしていた。すでに出発してから六日もたつのに、何一つ変わったことはおきないのだから……


「主任、ちょっと変な信号が入っているんですが……」


 通信士がヘッドホンを外しながらいった。


「何だ! 海賊か?」


 ソニアの声に歓喜の響きが感じられたのは、あながち気のせいではあるまい。


「いえ、S.O.Sの様なんですが、信号が弱くて間違いなくそうだとはいい切れません」

「副長、罠の可能性は?」

「罠であるならば、もっとはっきりとした信号を送ってくるでしょう。しかもこの船は新型艦であり、通信探知能力もアップしています。それでぎりぎりキャッチできる信号では、普通の艦では気付きもしないでしょう」

「そうかもしれないな。――距離と方向はわかるか?」


 通信士がコンソールを操作する。


「およそ四光年、銀河中心方向です」

「航法士、航路はあるのか?」


 航法士は航路マップと通信士からのデータをつきあわせる。


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script?guid=onはじめてのぼうけんはおにいちゃんと~JSハーレムキングと呼ばれても冒険者はやめません~
を連載中です。こちらもよろしくお願い致します。
異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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