宇宙探偵ハリス登場1
宇宙英雄ハリスシリーズ第1作目です。
あとがきに用語集ありますが、雰囲気でだいたい分かるかとは思います。
気になる方はそちらを確認しつつお読みください。
コンソールをちらりと見る。もう敵は、間近に迫っていた。
「もっとパワー上がんないのぉ!?」
操縦席についていたクレアが誰ともなくわめく。
しかし、エネルギージェネレータは限界にきていた。
「ミリナ! どっか、クリーンなとこない!?」
「う~んとぉ、3DR25なら比較的少ないけど、ちょっとましってくらいよ」
クレアの隣、航法席についていたミリナがどこかのんびりした声で答える。
まったくこの娘は、緊張感ってものがないのかしら。と、思いつつも操縦環をたおす。
すると、わずかずつだが、バリアジェネレータの負荷が下がっていく。
クレアは慎重に推力を上げていった。
しかしパワーに余裕のある敵は、星間物質の中をものともせず、最短距離で追ってくる。
この辺は新しい星ができかかっているらしく、星間物質の密度はすこぶる高い。
ほとんど水の中を飛んでいるような感じになり、エンジンよりもバリアにエネルギーをまわさなくてはいけない。だが、クレアの乗っている宇宙船は外洋クルーザーで、パワーよりも軽快な動作と乗り心地に、重点が置かれている。これでは、海賊船にはかないっこない。
しかも海賊船は、この宙域に合わせてカスタマイズしていた。このままでは、追い付かれるのは時間の問題だった。
「175DR140より飛行物体三。接触まで三分ちょっと。魚雷だと思うけど……」
きゃータイヘン! こんなとこで魚雷を食らったら、たまんないわ!!
ほぼ真空ならば、直撃を食らわない限りそんなにダメージはないが、こんなに密度が高いとこでは、もろに衝撃が伝わってくる。
「なんでもいいから、早く迎撃してよ!!」
「そんなこといったって、使える武器がなんにもないよぉ。レーザーは減衰が激しくて射程が短くなってるし、ミサイルは推力が大きすぎて、どっちへ飛んでくかわかんないよ」
「ミリナにいわれなくたって、わかってるわよ!! いってみただけ」
あたしだって百も承知だ。こんな手づまりの状態では、やつあたりしたくもなるわよ。
こんなことになるとは夢にも思わなかったから、星間物質の密度が高いところで使える武器は、何一つ積んでいなかった。
クレアは、魚雷の進行方向と一直線になるように方向を変えた。そして、重力推進システムを切ると同時に核融合バーナーを最高出力でぶちかます。
通常の船は、重力推進システムと核融合バーナーを備えている。重力推進システムは、およそ三百Gから七百Gくらいの加速度を出せるが、一G上げるのに一秒ほどかかる。重力コントローラーの反応速度が遅いためだ。それに対し、核融合バーナーは一気に十五G程度までたたき出せる。もちろん宇宙船のパワーと質量、船体の強度、慣性中和機構の性能などによって、多少の違いはあるが……
クレア達の船は、軽快な動作が売り物の外洋クルーザー。つまり、核融合バーナーや船体は、通常よりも強化してあった。そのため、船体としてはおよそ二十G。慣性中和機構が最大に働く操縦室内でも七Gもの加速がかかった。
後部ノズルからは、船体の百倍ほどもあるプラズマの炎が伸び、それに触発された星間物質の水素が、核融合反応を起こす。もちろん、連鎖反応を起こすほど密度は高くないので、プラズマに触れた部分が、発作的に反応を起こすだけである。
このプラズマ、あるいは、核融合反応を起こした火花に、魚雷が突っ込んだ。
「やった!」
後方スクリーンに派手な爆発が映し出される。
「いっこ逃げたみたい。170UL178、接触まで三十秒ってところかな?」
喜ぶクレアに水をさす。
「ミリナ! なんで人が喜んでいる時にそーゆー事ゆうわけ!?」
クレアは、万歳していた手をピタと止め、ミリナを睨んだ。
「あたしのせいじゃないもん! ミリナ、悪くない」
「あたしの腕が悪かったとでもいいたいわけ?」
「そうじゃないわ。きっと運が悪かったのよ!」
ミリナがにっこりと微笑んだ。クリクリの金髪で、抜けるように白い肌をしている十四才の少女は、まるで天使のように微笑む。女性でさえこの微笑みを見せられたら、思わず抱きしめたくなるという……。しかし、クレアも伊達に十四年も付き合っていない。さっと気持ちを切り替え、こういった。
「運が悪かったのは、あたし? それともミリナ?」
黒いロングストレートの髪と、黒い瞳。そして対照的な、白い肌。ミリナよりも二月ほど早く生まれたクレアは、悪魔のように微笑んだ。
説明なしにいろんな用語使っていますので、ここでざっと説明しておきます。
以降特に説明無しで使いますので、ご承知おきください。
新語については順次各後書きで説明していく予定です。
用語解説
※クリーン
星間物質がないあるいはごく少ないの意味。
※3DR25/175DR140/170UL178等
下方向3度、右方向25度の意味。D=Down、R=Right。
同様にU=UP、L=Left。
左の数字が上下どちらかの角度、右の数字が左右どちらかの角度。
真後ろの場合180DR180や180UL180等でも可。
基本的に操船等はこの方向指示と加速度で行う。
速度が記載されているところは基本的に相対速度を表します。
※魚雷
実質的にミサイルと変わらないが、星間物質の密度が高いところで使用するミサイルの別名。
※G
重力加速度。1G=9.80665 m/s2。
※重力コントローラー
重力制御システム。人工的に重力傾斜を作り、物体を加速させる装置。
加速度の変化率は1秒に1G程度であるが、数百G程度まで人工重力を生成可能。
※核融合バーナー
核融合炉の一方向を開放して推進力とする推進装置。
反応速度に優れ、出力や船体強度にもよるが数十G程度まで加速が可能。
補助推進装置や方向転換用として使われる。
※慣性中和機構
重力コントローラと衝撃吸収システム等を複合した急な加速を緩和する機構。
※ハイパーウェーブ
超空間を伝わる電磁波のこと。通常空間の光速と比べてものすごい速さで伝わる。あるいはそれを使った通信について略した言い方。
※超空間同調機
ハイパードライブ時に超空間の固有周波数と同調するための装置。
ハイパーウェーブの発信などにも使われる。
※ドッキングチューブ
宇宙船と宇宙船のエアロックをつなぐチューブ。
チューブの接続部は国際規格で決められていて、どの船同士でも基本的に接続可能。
双方のエアロックが正常な場合チューブ内に空気を入れて宇宙服無しで乗り入れることも可能。
今回は先方の人員が宇宙服を着ていない可能性もあったため、チューブ内には空気が入れられていた。
先方のエアロック開放時に向こうのホコリなどが混じった空気が入り込んでいたため、帰ってきた時、一旦エアロック内の空気を抜いています。
※レイガン
本文中でも記述があるが、強力なストロボと光学レンズを使用する光線銃のこと。
レーザーを用いるものはレーザーガンと呼ばれ本作品では区別される。
レイガンはレーザーガンに比べ構造が簡単なため小型である。
また集光率が悪いため射程は短いが、欠点というわけではない。
街中など標的以外の人間が多い場合誤射をしにくいという理由から護身用や警察組織などでよく使われる。