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幼女は夢を見る  作者: 夕月
1/1

森の中

初めての投稿です。


薄暗い森の中、小鳥の囀りよりも不気味な怪鳥ががぁがぁと鳴き喚く、人も住まない未開の地ー。


じっとしているのも暇だからわたしは日課として散歩する。

目的地もなくだだうろうろと歩くだけ。疲れたら適当に横になるだけ。だけどこの森から出ようとは思わない。ここはわたしには安全な場所だったから。



「そこの者!少し待つのだ!!」



突然の大きな声で散歩していたわたしはビックリして振り向いた。

反射的にその声のする方を見やると馬に乗った素敵な服を着た少年が居る。

なんかキラキラしてるなぁ~と一瞬見とれてしまったけど…


うわーーーわわわーー


わたしはずりずりと後退りし充分に距離を取ってから腰を90度曲げて頭を下げた。

どこからどう見てもエライ人ってのが分かるから。


なんでこんな場所に人が居るの?

迷子になった?


頭を下げたまま声も出せずじっとしていると、彼はどうも馬から降りたらしく草を踏む足音がこっちに向かってくるのが聞こえた。


勘弁してよ…


わたしはドキドキ早くなる心臓の脈動に恐怖を感じ冷や汗を吹き出した。



「お前…何者だ?」



彼の鈴を転がすような声が聞こえた。

何者とはどういうこと?

わたしは一瞬何を言われたのか分からなかった。



「わ、わたしはノイといいます…」



緊張のせいか声がちゃんと出ず掠れてしまった。

冷や汗は止まることなく流れ続けて体もわなわなと震え始める。



「……ふぅ…何者かと聞いたのだが答える気はないのか…」



えっ?

わたしはわたしなのに…ただのノイとしか言いようがないのに…もしかしてわたしは化け物か何かに見えてる?

どうしよう…もう人にも見えない姿になってしまったんだきっと…


もう終わったのね…


わたしはこのままこの薄暗い森の中に打ち捨てられると覚悟を決めたら涙がとめどなく流れてきた。

頭を下げたまま地面の草に雨の様にぽつりぽつりと雫が零れる。



「顔を上げよ」

「はい……」



彼は泣いているわたしに冷たくそう言った。

わたしは鼻声で返事をし、涙を拭うこともせずゆっくりと顔を上げる。

わたしの視線が徐々に彼の素敵な白地の洋服の足元から腰元へと上がり胸元で固定される。


汚れ元の色を失くし長い年月で風化し始めたわたしの服と違い綺麗な刺繍が施された洋服ー。

わたしには一生縁のない素敵な服を滲む目で見つめる。



「こちらを向け」

「……はい……」



不敬にならないようにと視線を胸元で固定したのに更に追い討ちをかけるように彼は言った。

わたしは恐る恐る返事をしてからゆっくりと目線を上げていく、彼の顔を視界に入れると本当に綺麗な人だった。

わたしの地味な黒髪と黒目とは違い、キラキラの金髪に澄んだ青い瞳。肌も日焼けしてなくてシミ一つもない。

わたしとは全く違うし、今まででこんなに綺麗な人は見たことがなかった。


彼はわたしと目線を合わせると無表情にその澄んだ青い瞳でわたしの黒い瞳の奥を見透かすように見つめる。

わたしの涙はもう止まっていた。



「ふぅん、そうか、なるほどな」



彼はわたしから視線を外すと優美な仕草で片手を顎にかけ、少し俯きながらふむふむと一人納得したように呟いた。

その姿も美しく絵になるなぁと見とれてしまってハッとする。



「ノイ、お前はどこに住んでいるんだ?この近くに村や町など何もないぞ」

「あ…この森に…」

「一人でか?」

「はい…」



わたしの言葉を聞いて、彼の綺麗な青い瞳は下から上へと品定めするように動く。

みすぼらしい姿を確認されてわたしは顔が急に熱くなり恥ずかしさのあまり俯いた。


靴は履いてないし、もともとワンピースだったスカートは破れたりシワくちゃになったりしているし、長袖だった袖も中途半端に破れてボロボロの半袖みたいな状態になっている。


恥ずかしいです…見ないで…


恥ずかしさと情けなさでまた涙が滲んでくる。



「…そうか、この森に…

ノイ、また明日のこの時間に会ってはくれぬか?」

「えっ?あ、はい…」



突然の彼の言葉にびっくりしてわたしは俯いていた顔を上げて彼の青い瞳を見て返事をしてしまった。

わたしの返事を聞いて彼は薄く笑みを浮かべてくれた。


目に眩しい彼の微笑みはわたしの脳裏に焼き付いた。



「そろそろ迎えが来る。来たらノイに迷惑がかかるから僕はそろそろ行くよ。また明日ここで。」

「はい」



彼はそう言うと身軽に馬に跨がり、木々が生い茂る間を器用な手捌きで馬を操り去って行った。

彼の姿が消えた後、わたしはその場に膝を抱えて座り込む。



「やくそくしちゃった」



ぽつりと呟いてみた。

呟きに呼応するように心の奥から喜びの感情がこみ上げてくる。顔がにやにやしてくるのをそのままにわたしはさっき脳裏に焼き付けた彼の微笑みを思い浮かべる。



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