モブ転生 2
本日2回目の投稿です。
俺が入れ込んでいるこのゲームはフルダイブ系と呼ばれており、意識をゲーム内へ集中させるこの没入感が受けている今流行りのタイプだ。
えっ? そんな仕様だと何かあった時に危ないんじゃないかって?
俺も最初はそう思った。いきなり部屋に強盗が押し入ってきたりしたらどうすんねん? ってね。
だが外部の干渉があった段階で強制的にログアウトされる仕組みとなっており、そういう不安もほぼ無いように出来ていた。ホント上手く出来ているよ。他にも外部から音声が一定以上感知するとゲーム内で合成されまるでシステム音声のように介入してくるそうだ。
クククッ。
こんな話をしていると「それフラグやん?」って思うかもだがこんな貧乏なボロアパートに強盗へ来ることはまずないだろう。盗るもんないやん?
そんな詰まらないことを考えながらそろそろログアウトしようかな、そう思った時だった。
「ん…? なんか…煙いな」
まさか…俺のこの拠点…攻められてる?
そう、このゲームは拠点へ攻め入ることが出来るのだ。
この拠点はプレイヤーが余分な資材、武器防具などを保管できることが出来るのだが一部のブラックプレイヤーが徒党を組んで襲ってくることがあるのだ。
それ正に俺が描いていた旅団の姿やん…なんて思いつつもすぐさま周囲を確認するも…人っ子一人見当たらない。
「おかしいな…誰もレーダーに反応しない」
ターゲットレーダーは敵を示すシンボルサインは無い。
てっきり火系魔法で焼き討ちを仕掛けられたとばかり思っていたがそんな様子も無く。
「……でもなんか煙いんだよなぁ。それになんか蒸してきた。暖房強めにし過ぎたかな」
そんなことをダラダラ考えていた俺だが、次第に思考に重さを感じ始める。
「なんか…頭が重い? それに息苦しさ感じるな…」
何かおかしい。
そう思った俺は一旦ログアウトしようとシステムコンソールを呼び出し、ログアウトボタンを押した。
目の前はすぐにブラックアウトし、現実感が急速に戻ってくる。
俺はバイザーを取り外して一息、深呼吸した。
「すぅ…んっ! ゴホッゴホッ!!」
急に煙を吸ったかのようにむせた俺は周囲を見渡した。
そして愕然とするまでそう時間はかからなかった。
「わぁお…リアル焼き討ちだぁ…」
俺の周囲は既に火に巻かれており、周囲は煙と熱が迫っていた。
「あーちーちーあーちー…ってそんなこと言ってる場合じゃねぇっ!! 早く逃げない…とぉ…?」
俺は勢いよく立ち上がり、そう言いながらすぐのこの場から脱出を試みようとした。だが急に意識がクラっとしたかと思うとその場に倒れてしまう。
(な…なんだこれは…意識がどんどん…薄れていく…)
そう、俺は気付くのが遅すぎた。
すでに周囲を火に囲まれ、煙が蔓延していたのだ。
俗に言う、一酸化炭素中毒を起こしかかっていた俺は何とか、何とかその場から離れようとした。
そして、意識が落ちた。
「はっ!!!」
俺は身を起こして荒い息を吐いた。
「 な、なんだ…ゆ、夢かぁ…なんつー夢見てんだ俺は」
そう言うと俺は机に置いてあった煙草を取ろうと手を伸ばした。
「……どこだ…ここ…」
手を伸ばした先には何も無かった。
何もないどころか一面が白、白、白。
白しかない、上下も、よくわからない方向感覚すらハッキリとしない世界に俺はいた。
< お前は死んだのだ >
遠くから、いや距離感が曖昧な、どこから聞こえて来るのかわからない。
俺の心の奥底に響く声に俺は戸惑いを覚える。
「なななな…何言ってんだ…俺は…死んでねぇ…っ! はずだ…」
< お前は死んだのだ >
「………っ!」
俺は慈悲のない、真実をいきなり突き付けられた。
この白い空間に来た、そう認知した時から死んだ、そう自覚していたのだ。
< 大事なことだから二回言った >
「………」
コイツ何言ってんだ? と思った時、俺の最後の死に様がフラッシュバックのように記憶が蘇った。
「くっっ…!!!」
頭を抱え、悶える俺を無視するかのように声がまた語り掛けてくる。
< お前には選択肢がある >
選択肢…?
< そうだ。このまま輪廻の輪へと戻る >
輪廻の輪…本当にそんな物があるのか。
< すべての生命は輪廻の輪に戻り、魂の漂白を経て、そして現世へと還る >
そうか…てことは俺は還るんだな。
悟ってしまった。
俺という、モブの人生の終焉を。
すると不思議なことに俺の身体が透けて、そして光の粒になって消えた。
光の粒子となり、白い世界から抜けて輪廻の輪へと還る。
なんて心地良いのだろうか。全ての罪が洗い流され、そして還るのだ。最初の場所へと。
< だがお前にはもう一つの選択肢がある…………ってオイッ!! なんで勝手に輪廻の輪へと帰ってるんですかぁぁぁ?!! >
何かあいつが叫んでいるようだが…この心地良い今を邪魔するんじゃねぇよ。
< ちょ、ちょっと!! まだ最後まで話してないですよねぇ?!! ってお前最後まで神の話聞けよっ!! >
はぁ? 神?? 髪の間違いじゃね?? あぁ髪はまだ間に合ってます。どうも。
< 髪じゃねぇよっ! てかこっちが間に合ってねぇんだよ!! >
狼狽するシステム音、もとい、髪の声は何か喚いている…がもう遅い。
そしてどうやらこのシステム音、いや神の髪は間に合っていないようだ。
来世また神になったら…その時は髪を大事にした方が良いだろう。
これは俺の最後のアドバイス…そして俺は…輪廻の輪へと還る。
こぬさんの次回作に乞うご期待ください…
< 我の髪はまだフサフサだよっ! 何なら触ってみます? って勝手に連載終わらせるんじゃねぇよっ!! あぁ…ま、間に合わねぇ…こうなったら非常手段っ!! >
ぽちっとな。
何かそんな声がしたような気がした。
それからどれだけの時間が経ったのか分からない。
時間の感覚が朧げなのだ。
秒の感覚が虚ろ、そう言い換えてもいいだろう。
俺はいつの間にか石畳の部屋に体育座りでお座りしていた。
そして目の前にはあのゲームでお馴染みの黒いウィンドウが宙に浮かんでいた。
< コンティニューしますか? YES/YES >
………YESしかねーじゃねぇかっ!!!
何という雑仕様…ていうかコンティニューってなんだよ?
あ、もしかして…輪廻の輪から魂の漂白? ってやつが終了したからここにいるのか?
そしてすぐその考えを己で否定する。
いやいやいや。
魂の漂白が終わったら俺の記憶も漂白されていないとおかしいだろ。
記憶の持越しって…あるの?
そんなことを考えていたが埒が明かない、そう思った俺はしょうがなくYESボタンを押した。
< ここは魂と降誕の部屋 >
魂と降誕の部屋?
それ一歩ワードを間違えたらやべぇやつじゃん。
< あなたの次の生を創生出来る大切な瞬間です >
次の生…? どういうことだ??
< 髪…じゃなかった神の要請に従い、あなたは輪廻の輪に戻らず前世とは違った世界へと転生します >
………転生??
< あなたが向かう次の生は ガイアギア と呼ばれる魔法と魔物が蔓延る世界です >
魔法と魔物が蔓延る世界っ?
それってまんまゲームやんっ!!
< ゲームではありません。そこは確実に存在する過酷な世界 >
そりゃゲームの世界が現実にあれば…過酷だよな…
< だがあなたは自らの意!思! で選びました >
えっ? なんでそこだけ強調してるの?
ちょっと待って。あの神が勝手に…
< そんな過酷な世界に転生する貴方に神はギフトを授けましょう。そして私はハゲではない >
お前…あの時の神やん…最初違う神みたいな感じだったけど何してくれてんの?
< そして我は貴方に祝福を授けましょう。さぁ選ぶのです。創生の間で進むのですっ! >
ちょっと勝手に俺にルビ振るのやめてくれません?
ってか勝手にハゲさせるんじゃねーよっ!
すると目の前にはまたあの白い世界へと戻ったがあの時とは違ってちゃんと部屋になっていた。
「……また戻ってきたのか?」
俺は椅子に座っていた。
机の上には一冊の白い本が置かれている。
そこには【 創生の書 】と書かれており、俺は手に取ってページをパラパラと捲る。
「何々…これは何かの説明書…か?」
どうもこれは俺が次の世界へと旅立つ前の祝福を決める儀式のようだ。
読み進めていくと突如白いこぶし大の光が目の前に現れた。
『どうもどうもどうも! 貴方が次の転生者ですね!!』
「き、急に現れてんじゃねーよっ!」
『まぁまぁまぁ! そんなことはさておき、さっさと祝福を決めて行きましょう!』
そう言うと創生の書が勝手にページが捲れて行くと、とあるページで止まった。
『はいはいはい! これは貴方の今の転生ポイントです!! これを消費して貴方は祝福を決めて行きましょう!!』
「転生…ポイント??」
『えぇえぇえぇ! これは貴方が前の人生において獲得したカルマ、即ち徳のことを指します!』
「 徳って…俺絶対徳少ないやん…」
創生の書に目を落とすとそこには数字が書いてあった。
「23…2…3…2323?」
そこにはぼんやりとした記憶からあの神を思い出してしまう。
「あの野郎…語呂合わせかいっ!!」
『ほぅほぅほぅ!! これまた凄い徳の積み方ですね!! 前世はさぞ人類のために貢献したのでしょう!』
「えっ? これって凄い数字なのか?」
『はいはいはい! その通りです!! 普通はこの十分の一くらいですね!』
なんと…あのハゲからそんなに貰うとは…あのハゲいいやつじゃん。
そんなことを思いながらページを捲ると取得できるギフトが書かれていた。
「ふぅん…健康体が60ポイント…魔の英知…150ポイント…確かにこのポイントから換算すると凄いポイント数だな」
『そうですそうですそうです! だけど取得出来るギフトは一つだけですけどね!』
「お前三回同じことを最初に言わないと死んじゃう系か? しかしギフトは一つだけか…」
思いもよらぬ転生ポイント数ではあったが、一度に使いきるにはあまりに多すぎるポイント数に悩む俺。余り過ぎるポイント数に勿体なさを感じる小市民っぷりを発揮してしまった俺はギフト選びに大いに悩んでしまう。
「取得できるギフトは一つか…今探した中で最大の消費ポイント数は【 閻魔 】の500か。これ何か意味的にやべぇギフトだよな…」
ギフトが必ずしも本人にとって為になるとは限らない。
パラパラと捲って確認してみるも、表裏一体ありそうなギフトの群に俺は更に悩んでしまう。
どれだけ悩んだのだろうか。
あの白い球体の舌打ちを無視する程に悩んだ俺はとあるページのギフトを見つける。
「創生……必要ポイント数が2000!」
読んで字のごとく、何かを生み出すことが出来るギフトの様な気がする。
「なあこれってどんなギフトなんだ?」
『ほうほうほう!! そのギフトを選ぶとは…チッ…それは本人が願う効果を持ったギフトを一つだけ創生できるギフトです!!」
「お前…今舌打ちしたよな…」
だが効果を聞いた俺は迷う事無く【 創生 】ギフトを選択する。
「俺はこの【 創生 】を選ぶっ!! さぁどこでも飛ばしやがれっ!!!」
『チッチッチッ! 貴方は【 創生 】のギフトを選択しました! 道は選択されました!! 貴方に良き転生があらんことをっ!!! チッ!』
最後にイラつき気味の白い球体はそう告げると部屋の扉が勢いよく開かれた。
そして俺はその扉を進んだのだった。
チチチ…鳥のさえずりが耳に入ってくる。
頬を撫でる風が心地良い。
そして俺は草原の真っ只中に突っ立っていた。
「これが…転生先、か」
見渡す限り広大な草原が視界を捉える。
周囲を見渡してもその先は地平まで草原が続いている。
俺は深呼吸する。そして――
「俺はっ!! 戻ってきたぞぉぉぉぉぉ!!!!」
大声で、天に届けとばかりに叫んだのだった。
【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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