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ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
V 五次元世界の数式

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MUKHTABAR/Angelica アンジェリカの研究室 2

 ハーヴェルが書いた便箋(びんせん)を手に取り、アンジェリカが黙読する。

「なにこの祭祀さんが接触した人間って」

 便箋の一点を指差す。

「例のイハーブが書いた数式、どう考えても五次元側の誰かに向こうの数式か観測の情報をもらったとしか思えん」

「お師匠さま天才でいらっしゃるから、ご自分で割り出したんじゃないの?」

 アンジェリカが真顔で言う。

「ストーカーの見解は要らん。役にも立たねえ」

「どういう意味」

 アンジェリカは唇を尖らせた。

「追っかけてる相手を無駄に完璧な人間に仕立てるから、推測に使えねえ」

「なに自分だけがお師匠様を一番よく知ってるんですアピールしてんの」

 アンジェリカが詰めよる。

「いつした」

「ムカつく」

 そう吐き捨て、アンジェリカは再び便箋を眺める。

「前から思ってたんだけど」

「何だ」

「あんたの筆跡って、お師匠様のに似てない?」

「イハーブが書いたのをなぞって字を覚えたからだろ」

 バン、と大きめの音を立て、アンジェリカは便箋を机に叩きつけた。その上に突っ伏す。

「悔しいいいい!」

「さっさと全部読め! 何のためにこんな胸糞悪い所にわざわざ出向いて来たと思ってんだ」

 ハーヴェルは声を荒らげた。

 顔を上げ、アンジェリカが改めて便箋を手に取る。内容をもう一度眺め、目を眇めた。

「で? あたしが質問事項を見てどうしろって」

「ユーセフがここに任務外の時に現れたら、お前が代わりにこれ聞け」

「はああ?」

 アンジェリカは甲高い声を上げた。

「あっちと接触なんて怖いから嫌に決まってんでしょ」

「俺がここで待機する方とで選択して、お前が選んだんだろうが」

「あんたが可愛らしいあたしのお部屋に居座るなんて、絶対イヤ!」

「だから帰ってやるからお前が聞け」

 じゃあなと言って手を振り、ハーヴェルは踵を返した。すたすたと玄関口に向かう。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 小走りで追って来ると、アンジェリカはハーヴェルの腕を両手でつかみ強く引いた。

「鍵なら、簡単にしか分解してない。すぐ組み立てられるだろ」

「死体と違うからちょっと苦手って言ったでしょ」

「死ね」

 ハーヴェルはアンジェリカの手を振り払い、玄関のノブに手を掛けた。

 アンジェリカが腕にしがみつき引き留める。

「何であたしが、あんたの伝言係みたいなことしなきゃなんないのよ」

 歯噛みして、そうと食い下がる。

 ハーヴェルはチッと舌打ちした。考える間を与えず丸め込むつもりだったが、失敗か。

 やはり年月を経てる(ばばあ)は難しいなと眉をよせる。

「俺は別の接触可能な場所を張る。俺の方が先に任務外のユーセフに会うかもしれん」

「そうして欲しいわ」

 アンジェリカが目を眇める。

「ユーセフと会ったら言っといてよ。か弱い女の子を狙うのはもう止めるよう上に進言しろって」

「何で俺がお前の伝言係をやらなきゃならねえんだ」

 ハーヴェルは眉をきつく寄せた。

「じゃあな」

 玄関扉を開けながら、ハーヴェルは片手を振る。

「イハーブの埋まってる場所を先に聞き出せたら、イハーブと始めに喋る機会くらいは譲ろうかと思ったが」

「ちょっと待ちなさい!」

 背後からアンジェリカががっちりとしがみ付く。ハーヴェルの肩と首とを固定し、羽交い締めにした。

 何かしら反応は有るだろうと思っていたが、いきなり全力で固定され、ハーヴェルは(のど)の奥をグッと鳴らした。

「何すんだ、てめえ!」

 (もが)いて振り払う。

「久々に力一杯動いたわ。明日、筋肉痛になったらどうしてくれんの」

 アンジェリカが自身の細い腕をさする。

「てめえの運動不足の習慣なんか知ったことか」

「それより今言ったこと、マジでしょうね」

「つか言い忘れてた。勝手に作ったうちの合鍵よこせ」

 ノブに手を掛けたまま、ハーヴェルは魔女の方に手を差し出した。

「しつこいわね」

「何なら、お前が生きてる限り永久に言ってやる」

「お師匠様の居場所について有力な推察を提供したげるわ。鍵の件はそれで手打ちってどう?」

 アンジェリカは緩く腕を組み、勝ち誇るような笑みを浮かべた。

「先に言え。内容次第だ」

「鍵を持っててもいいって確約してからよ」

 微かな(いら)つきを覚え、ハーヴェルは目を眇めた。とりあえず感情を抑える。 

「許可はするが、イハーブが戻ったら改めて判断を委ねる」

 ハーヴェルは言った。

「えっ……」

 アンジェリカが慌てた表情で口に手の甲を当てる。

「ちょ、ちょっと! 普通お師匠様にバラす?」

「普通だろうが」

「お師匠様のあたしに対する好感度が下がるじゃない!」

「好感度が元々あったような言い方するんじゃねえ」

 互いに目を眇め、至近距離で睨み合う。

「……推察とやらを言ってみろ」

 しばらく間を置いてから、ハーヴェルは低音の声で促した。

「しょうがないわね」

 アンジェリカがじっと睨みつけたまま言う。

「思ったんだけど、あんたのそのピアスってさ」

「却下」

「なにそれ」

「うるさい」

 ハーヴェルはそう返し、改めてノブを回した。

「あんたがそういうお洒落するって、前々から違和感あったのよね。お師匠様の趣味かと思ってたんだけど」

 アンジェリカが詰めより、耳朶のあたりを見上げる。

「いちいち怪しげな言い回しすんな」

「位置情報装置か何かの類いじゃないの?」

 ハーヴェルは無言で魔女の顔を見た。無駄にやべえ勘してんな、こいつと思う。

 その……

 割って入って

 すまんが、 

 女性同士で

 そういうことは。

 アンジェリカの後方、部屋の中央の辺りから男性の声がした。二人そろって弾かれたように後退り、そちらを見やる。

 アンジェリカのスペアの身体がある部屋の入り口前。ユーセフが困惑した表情で立っていた。

「やだ、ちょっと。うわ」

 咄嗟にアンジェリカはハーヴェルを盾にしようとした。ハーヴェルと玄関扉との間に割り込もうと身体を無理やりに押し込む。

 扉に背中をぴったりとつけて、ハーヴェルは後ろに回れないようにした。

 上目遣いで見上げたアンジェリカと、しばらく無言で睨み合う。

 君達は、

 仲が良いのか

 悪いのか、

 よく分からんな。

「悪いに決まってんだろ」

 接吻を

 しようと

 していたのでは。

「こいつとそんなことするくらいなら、クマムシとした方がマシだ」

 ハーヴェルは眉をきつくよせた。

「あたしだって、お師匠様の方がいいに決まってるわ」

「他人の師匠に死体の匂いつける気になんじゃねえ」

「なんですってえ!」

 アンジェリカはハーヴェルの服の(えり)を両手でつかんだ。

 身長差があるので、つかみにくそうな体勢になる。

「あんたちょっと屈みなさいよ! つかみにくいじゃない!」

「つかむんじゃねえ!」

 ハーヴェルは声を張り上げた。



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