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ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
V 五次元世界の数式

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MUKHTABAR HAYTH LILIQA'/Angelica アンジェリカの研究室 遭遇の場 2

「まあいいわ。質問ひとつ目」

 アンジェリカは人差し指を立てた。

「あんたたちの言う「暦」ってなに?」

 何とは。

 ユーセフがそう言い、僅かに首を傾げる。

 暦は暦だが。

「こちらで言う暦ってのは、基本的に日付を見るだけのものよ。惑星の動きから気候の変化や昼夜の長さを計算したもの」

 ……分からない。

 そう言い、ユーセフは再び首を傾げた。

 日付を

 示すのと、

 気候の変化や昼夜の長さが

 どう繋がる。

「ああ、そこから」

 アンジェリカは額に指先を当てた。どこから説明すれば通じるかと思案する。

「まずそちらも宇宙空間に惑星が浮かんでいて、その惑星の上で生活しているという認識は間違いない?」

 宇宙空間は

 アルファダアルファルジウ、

 惑星は

 アルコラアルアルデヤ。

 こちらでは

 そう言う。

OK(ヴァ・ベーネ)。月があるという時点でそういう仕組みの世界なのは分かる。ここまでは前にも確認済みだわ」

 アンジェリカは言った。

「ある程度の物質が漂う空間と重力子があるなら、物質の集まる場所と何もない場所が作られて銀河が出来る。銀河として物質が集まれば、惑星が出来て更に新しい物質が出来る。そちらにも重力子が行っていて何らかの物質があるなら、この辺の仕組みは同じでもおかしくはないわ」

 アンジェリカは腕を緩く組んだ。

「こちらは一年の中で、太陽との位置が少しずつずれるのよ」

 太陽。

「恒星のひとつ。自ら光と熱を発しているガス天体」

 恒星は、

 アルナジムアセイビタ。

 そうユーセフが言う。長めの単語をさらっと口にするところをみると、基礎的な知識なのだろうかとアンジェリカは思った。

「そちらにもある? 太陽」

 アンジェリカはそう問うた。

「恒星を表す単語が存在してるってことはあると思うけど」

 ある。

 ユーセフは短く答えた。

「その太陽との位置によって、こちらは季節の違いがある。季節が違うと、昼夜の長さも違う。こちらの暦は、主にその時期を知るためのものよ」

 何のために。

「元々は、作物の採れる時期を知るためかしらね。そのサイクルを予測するため」

 アンジェリカは言った。

「あんたたちの暦ってなに?」

 暦の

 役割と

 言いたいのか?

「そ。何に使うもの?」

 何に。

 ユーセフは腕を組み、壁のようなものに寄りかかった。考えを巡らせているのか一点を凝視する。

 君達と

 概念が違うらしいのは

 分かったが、

 どう

 違うかが分からない。

「あたしも今のところは、さっぱり分からないわ」

 アンジェリカは肩を竦めた。

 そうだな。

 分かりやすいであろう

 言い方をすると、

 社会を

 全て動かしているものというか。

「社会全部?」

 アンジェリカは目を見開いた。

「こっちだって、暦が無くちゃ何もかも立ち居かないのは同じだけど」

 我々は、

 暦の

 無かった時代に戻ることは、

 出来ないだろうな。

 そう言い、ユーセフは唇の端を上げて苦笑した。

「こっちも同じよ。日付が分からないなんて無理」

 最悪の場合、

 何の

 技術も無かった時代に

 戻る。

「なにそれ。文明以前にって意味?」

 アンジェリカは眉を(ひそ)める。

「それは大袈裟じゃないの? こちらで言えば日の出と日の入りは見れば分かるし、季節の変化も気温とか……」

 ユーセフがゆっくりとこちらに向き直ったので、アンジェリカは慌てて合金鋼の壁にぴったりと貼り付き身を隠した。

 最悪の

 場合は。

 そうユーセフが言う。

「……ちょっと待って。まさかと思うんだけど」

 アンジェリカは目を眇めた。私も、とユーセフが言う。

 何となく

 概念の違いが、

 分かって

 きたような。

「だからエネルギーが必要なの? それも巨大なエネルギー」

 合金鋼の壁からつい顔を出し、アンジェリカはそちらを見た。ユーセフと目が合い慌てて隠れる。

「そんな文明ってあるの?」

 ひとつ

 聞くが。

 横を向き、傍らの何かを伺いつつユーセフが言う。

 あの黒髪の

 美しい御方は、

 君と

 同じ所まで

 気付いているのか?

「え」

 アンジェリカは目を丸くした。合金鋼の壁を見詰める。

「御方って……誰」

 君と

 一緒にいた

 黒髪の御方だ。

「……多分、確証までは得てないと思うけど?」

 では、

 あの御方には

 何も教えないでくれ。

「御方? 何で御方」

 アンジェリカは眉を寄せた。

 王族の

 愛妾ともなれば、

 ひとかどの

 貴婦人だろう。

 それなりの呼び方を

 しなければ。

「……えと」

 ハーヴェルのことかと思い至る。

 暫くぽかんとした後、アンジェリカはニヤニヤと口元を弛ませた。話がまた面白い方向にややこしくなってる。 

「教えないでくれって何で」

 決まっている。

 危険だからだ。

 ユーセフはちらりと横を向き、何かを気にする仕草をした。

 代わりのシステムの当てでも出来たのか。

 そのまま、

 王族の

 寵愛を受けていれば、

 安泰な

 立場だろう。

 わざわざ

 こちらに目を付けられることを

 探っていることはない。

 拳をぐぐっと口に当て、アンジェリカは笑いを(こら)えた。



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