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ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
IV 神の体を構成している物質は

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KHMST 'ABEAD 五次元の文明社会 4

「あんたらのいる所は、月が三つ出るとフェリヤールから聞いたが」

 そうハーヴェルは言った。

「引力はどう変化している」

 ユーセフはゆっくりとこちらを見た。質問の意図を考えているのか、僅かに目を眇める。

「規則的に変化してるのか?」

 そうだな。

 そうとユーセフは答える。

「体感で分かる程か」

 それは無いな。

「それぞれの月に月齢があると思うんだが」

「ああ、そうなるといろいろ複雑そう」

 アンジェリカが声を上げる。興味津々という感じでハーヴェルの肩越しにユーセフを見ていた。

 さほど複雑ではない。

 一つ目の月が

 満月になると、二つ目の月が出る。

 二つ目の月が

 満月になると、

 三つ目の月が出る。

 そういう具合だ。

 アンジェリカが目を合わせて来た。これで有効な答えになるかという意味だろうか。

 もう少し特徴的な変化を聞き出せれば、なお場所の特定が楽なんだがとハーヴェルは思案した。

「月があって月齢があるということは、こちらと同じように宇宙空間があって、惑星のような所にいると思っていいんだと思うが……」

 思考を(まと)めようと、ハーヴェルは取りあえず思い浮かんだことを早口で口走った。

「三次元がぽっかり浮かぶ宇宙空間ね」

「膜宇宙理論の前提ならな」

 ハーヴェルは腕を組み、玄関扉に背を預けた。ユーセフが僅かに顔を動かし、こちらを見る。

 今のは質問とは受け取らなかったのか、何も言わなかった。

 質問は以上かな。

 微かに笑みユーセフはそう言った。

「あー、ちょっと待って」

 アンジェリカが右手を挙げ声を張り上げる。

 君の

 抹殺命令が出ているんだ。

 上から急かされているので、

 すまんが。

「質問に全部答えてからにして!」

 アンジェリカは声を張り上げた。質問に全て答えて貰い満足するまでは嫌、という様子を懸命に造る。

 身を守ろうと必死だな、とハーヴェルは思い切り他人事として思った。今、脳内ではどうでもいい質問内容を量産しているところなのだろう。

 では、質問を。 

 紳士然とした態度でユーセフは言った。

「待って。今考えてるとこ」

 アンジェリカは苦笑いした。やっぱりと思いハーヴェルは魔女から顔を逸らす。

 それだと

 困るんだが。

 ユーセフは、我儘な子供か女をなだめるような口調でそうと返した。

「とりあえずそいつは質問途中でもぶっ殺していい。その後で俺の質問に答えろ」

 きっぱりとハーヴェルはそう言った。

「あんた誰の味方よ!」

 アンジェリカが喚く。

「少なくともてめえじゃねえ」

 いいだろう。

 質問は?

 ユーセフは微笑みそう言った。

「あんたがこちらと接触してから、そちらでは何日経ってる。フェリヤールは、七日後に生贄だったとか言ってたが」

「あ、確かに」

 アンジェリカが言う。

「もしかして随分経ってない?」

 アンジェリカは頬に指を付け宙を眺めた。これまでの経緯を辿っているのか。

「え、じゃあ、あたしの抹殺命令とやらも無しじゃない?」

「何でだ」

 いや、

 それはない。

 ハーヴェルとユーセフ、二人同時にそうと答える。

「何なのよ! 男二人揃って、か弱い女の子をそんなに抹殺したい訳?!」

 盾にしていたハーヴェルからも離れ、アンジェリカはエプロンドレスのスカートをひらひらさせて後退った。

「お前が女のうちに入るか」

「あんたそれ、何(べん)言ってんのよ」

 この方は、

 男性ではないだろう。

 ユーセフが怪訝そうな表情でハーヴェルの方を視線で示す。

 それとも、

 三次元の風習に基づく

 言い方なのか?

「お前もいい加減にしろ」

 ハーヴェルは眉を(きつ)く寄せた。

「そこは言及しなくていいわ、ユーセフさん」

 ニヤニヤしながらアンジェリカが言う。

 ハーヴェルはユーセフの方に向き直ると、魔女を指差した。

「さっさと殺れ」

「ちょっとおおお!」

 アンジェリカは喚いた。本当に(やかま)しい奴だとハーヴェルは更に眉を寄せる。

 確かに、

 生贄の期日は

 とっくに過ぎている。

 そうユーセフは言った。傍らの壁のようなものに寄りかかったようだった。

「だろうな。こちらですらフェリヤールが来てから三十年経ってる。同じように時間が流れてる訳じゃないだろうが」

 生贄が無いまま

 暦を使っているよ。

 狂いが大きくなって行くのを

 懸念している。

「ヨシュアとやらはどうなった」

 ハーヴェルはそう尋ねた。

 死んだ。

 ユーセフはそう短く言った。

 おもむろにハーヴェルは周囲を見回し、フェリヤールの姿を探した。

 フェリヤールの姿はどこにもない。ユーセフが来ていれば当然か。

「糞魔女、フェリヤールには今の話黙ってろ」

 ハーヴェルは言った。

「隠してどうすんのよ」

 淡々とアンジェリカが言う。

「わざわざ言う理由もないだろ」

「あるわよ。さっさと吹っ切って次の好い人を探せるじゃない」

「お前の価値観で話すな」

 こいつのこういうところが嫌いだ。ハーヴェルは嫌悪感に顔を歪ませた。

「あたし思うんだけど、あれって恋人ってほど恋人じゃないと思うのよね」

「恋人とはっきり決め付けて突っ込んでたのは、お前だけだ」

 それでも、とハーヴェルは続けようとした。アンジェリカがにっこりと笑ってユーセフを見る。

「良かったじゃない、ユーセフさん。チャンスじゃな……」

 そう言いかけ、アンジェリカは「ええと」と呟き首を傾げた。

 ハーヴェルは魔女と同じ方向を見た。

 いつの間にやらユーセフの姿は消えていた。

 やや年季の入った建物の薄暗い屋内。

 玄関から真っ直ぐに見える作業スペース、この位置からは道具棚の陰に半分ほど隠れて見える書き物机。

 どこを見渡しても、白い軍服姿の痕跡すら無い。

「……は? 照れて逃げた? それともコンタクトが途切れただけ?」

「後者だろ」

 ハーヴェルは言った。つかつかと元いた小部屋に戻り、途中だった作業を再開する準備を始める。

「あとは帰れ」

「うちにまた来てたらどうすんのよ」

 アンジェリカは唇を尖らせた。

「今までのパターンだと、そう連続しては来ないだろ」

「あっちの技術の進歩って何か早くない? その後、連続して来れるようになってないでしょうね」

 アンジェリカは自身を抱き締めるような仕草をした。

「お前も探求者の端くれなら、奴が来る場所か時間の予測くらい命懸けでやるんだな」

「まじムカつく……」

 アンジェリカは玄関口で呟いた。

「見てなさい。三日で予測方法を見つけてやるわ」

 そうか、とハーヴェルは返す。

「見つけた暁にはお師匠さまのお側に寄る人間は、あんたよりあたしの方がふさわしいって主張するわ!」

「意味の分かんねえ宣言すんな」

 ハーヴェルは眉を寄せた。

「お師匠さまの居所も、あたしが見つけるからね!」

 ハーヴェルは横目でアンジェリカを見た。

 糞な魔女の手を借りようが、イハーブが見つかるのは嬉しいが。

「どうする気だ」

「何か逆探できるようなものは持ってないの、お師匠さま」

 ハーヴェルは作業机に向かい、聞こえないふりをした。

 左耳に付けられた真鍮のピアス。

 本当に位置情報装置だとしたら、少なくとも受信装置の位置を探ることは出来るかもしれないが。

 この魔女に、そういったものを付けられていたと知られるのは物凄く不愉快だ。

「きちんとした装置じゃなくても、何らかの波を反射するものなら」

「持っていたものは不明だ」

 アンジェリカの言葉を遮りハーヴェルは言った。

「身に付けてたものとか」

「知らん」

 そういえば。このピアスが位置情報装置だとして、受信していた装置はどれだったんだとハーヴェルは思った。

 それらしきものを見た覚えがない。一緒に住んでいて有り得るのだろうか。

 何かにカモフラージュしてたとか。ハーヴェルは手元の小さな道具棚を眺めた。

「お師匠さまの身につけてたものが分からないとか、あんたそれでも弟子?!」

 アンジェリカは床に書いた線を踏み、こちらに詰めよろうとした。

「うるさい。越えるな」

「弟子って普通、お師匠さまの身につけるものの用意から、夜のお相手までやるもんじゃないの?!」

「さり気に妙なイメージぶっ込むな」

 ハーヴェルはくるりとアンジェリカの方を向くと、不快な表情を向けた。


「帰れ」





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