MUKHTABAR/Harwerth ハーヴェルの研究室 3
「とろうとしたら、耳ざわりな警報鳴らしやがる。くだんねえ仕掛けまでつけやがって」
ハーヴェルは耳たぶをつまんで顔をしかめた。
「まあ、いまはこんなふうだけど親子仲はいちおう良いんだよ」
イハーブが横を向いて言う。ナバートに向けて言ったらしい。
「しょうがないじゃないか。おまえ、気づいたらぜったい取るだろ」
イハーブが肩をすくめる。
「せっかくおまえの身の安全のためにつけてあげたのに」
「つまり、いまだお二人の仲は良好でつながりがあるというわけですね」
ナバートがこちらを睨む。
「行間読め、クソガキ」
ハーヴェルは声音を落とした。
「カリルの部下がお泊りに来てるってことは、いまだにカリルとは仲がいいんだ。そこ確認できてよかった」
イハーブが微笑する。
「仲良しのお泊まりに見えんのか」
「だっておまえ寝てたみたいだし」
イハーブが答える。ふいに宙をながめた。
「……ああ、タイムアウトだ。ごめんねハーヴェル、またこんど」
イハーブの姿がおおきくブレはじめる。
「あ、待て!」
ハーヴェルは声を上げて引き止めた。
「カディーザ……てめイハーブ! ちょっと待て!」
言い終わらないうちにイハーブの姿はかき消えた。
タキオン動力で煌々と照らされた室内に、下着姿のハーヴェルと目を丸くしたナバートだけが残される。
「……何ですかけっきょく、いまの」
ナバートが床をながめる。
「いまいちばんあやしい動きしてる張本人だって言ってんだろうが。何で尋問しなかった」
ハーヴェルはナイフをベットに放りだして詰った。
「あの方が先生の黒幕だというのは分かっています。姿が現れたり消えたりするカラクリをお聞きしているんです」
「黒幕じゃねえ」
ハーヴェルは眉をよせた。
「いまだつながっているということは、カラクリもご説明いただけますよね? 先生」
「つながってねえ」
どこまで天然なんだこいつ。ハーヴェルは顔をしかめた。
あんなリアルな映像を投影したしくみとか、こちらが知りたい。
こちらの様子もすっかり見えているようだった。
ユーセフが接触してくるときの技術にそっくりだが、たまたまか。
「さきほど口にしていた女性の名前らしきものは?」
ナバートが問う。
ハーヴェルはため息をついてベットに座った。
「……師匠のもと恋人だ。少し前に死去した。カリルもいちおう知ってる人だから、あと聞きたかったらカリルに聞け」
はー、ともういちどため息をつく。
カディーザがすでに亡くなっているのが、さいわいだ。
イハーブの無事確認からのこの裏切りと思われる流れ。
心配をかけることがなかったのは良かった。
彼女がもし健在だったら、剣をたずさえてアルフルシュまでイハーブ討伐に行くと言いかねない。
「寝る。あと起こすな。起こしたら殺す」
ハーヴェルは、あらためて横になり毛布をかぶった。
「起こすまでもないです、先生。いまのできごとで、あなたへの疑惑はますます深まりました」
ナバートがベッドの横で言う。
めんどくせえやつが来ているときに、めんどくせえことを。
イハーブのやつわざとじゃねえだろうなとハーヴェルは思った。
「朝にしろ」
「もちろん朝になったらカリル様に報告いたします。事情の聴取などの呼び出しがあったさいには、神妙に従うようお願いいたします」
「分かった。あと帰れ」
ハーヴェルは背中を向けたままそう返した。
「いえ。あなたが逃亡をはからないよう、朝まで見張らせていただきます」
ナバートがきっぱりと言う。
カリルがこいつの思いこみに同調するほど間抜けだとは思えないが、冤罪をかけられたところで、どこへ逃げても自由な庶民の身だ。
しかも処刑されたところで死にはしない。
まったく危機感がないなとハーヴェルは思った。
仮にこの国から逃亡したとしたら、心残りはフェリヤールの人工転生の件くらいか。
あれもヤフヤーたちが続行してくれるだろう。
部屋の一角で、トンと壁に何かをよせた音がする。
壁に背中をあずけたのか。
立ったままで見張る気か。
ごくろうだなとハーヴェルは思った。




