表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
X 五次元文明社会の投射技術

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/193

QASR MUKHTABAR/’īhāb イハーブの王宮内研究室 2

 もともと素がのんびりしている上に不老不死なので、あまり時間を急いたりはしないほうだ。

 このままダラダラとした会話を楽しんでいてもいいのだが、ユーセフとのあいだにはいくつも複雑な事情が存在する。

 

「フェリヤールのことかい?」


 イハーブは切り出した。

「三十年まえ、こちらに呼び出した始末をするまえに攻撃を受けたからね。意識をとりもどしたときに、そんなに時間が経ってたと知って焦った」

 イハーブは壁に背をあずけてクスクスと笑った。

「どうなったかと思ってたら、うちの子と思いっきり関わってたとか」

 あなたが

 弟子どのに

 その後の

 指示をしたわけ

 ではなかったのか。

 ユーセフが通信装置の設置された場所で問う。空中に投影された姿がときどきブレるが、三十年まえよりはなかなか進歩したなと思う。

 時間の流れがこちらと同じというわけではないらしいが。

「偶然だよ。まさかあの子と会っているとは思わなかった。五次元のことは個人的な趣味の研究で、まるっきり内緒にしてたからね」

 イハーブは肩をすくめた。

 弟子どのは

 あのとき、

 事情も

 知らなかったのか。

 ユーセフが、眉をよせて雑な表情をする。

 だとしたら、

 やはり

 向こう見ずな方だ。

 われわれの側が

 強引に

 あれを

 とり戻そうと

 しているところに

 飛びこんできた。

「あーあ」

 イハーブは、肩をゆすって笑った。

「相変わらずでかわいいなあ、うちのハーヴェル」

 いまだそんな感じなのかと思う。実年齢はそれなりになったろうに。

 あの性格は永久に直らないのか。


 人工転生と

 いうものの

 構想を、

 説明されたのだが。


 イハーブは軽く目を見開いた。

「ほう?」

 あなたが

 案を出して

 指示していた

 ものかと。

「いや?」

 イハーブは答えた。聞きなれない単語だが、造語だろう。言わんとしていることはつかめる。

「どういうのかな。フェリヤールをカルツァ=クライン粒子と同じに見立てるのかな。三次元の肉体にたいして同じふるまいをする可能性があるのか……。しかし案としてはおもしろいな。あの子が?」

 技術協力を

 しているらしい御仁と

 いちど話したな。

 なんという

 名だったか。

「だれかな。わたしの知っている人かな。男性? 女性?」

 三次元の

 人間は

 分かりにくいが、

 男性なのだろうな。

 あれは。

「へえ。カディーザあたりかと思った。まあ、彼女はあまり斬新な案を考えるタイプではないけど」

 イハーブは、宙を見上げて少し考えこんだ。

「きみが接触したなかにカディーザという女性はいたかい? 不死になってないなら、今ごろお婆さんだと思うけど」

 ユーセフが「いや」と答える。

「目の大きい、気の強い女性だけど。ハーヴェルといっしょにいたりしたことはないかな」

 ユーセフが再度「いや」と答える。

 過去の

 景色に

 いたような気は

 するが。

 どなただ。

 弟子どのの

 お母上か? 

「ああ、なるほどお母上……」

 イハーブは宙を見上げた。つい吹きだす。

「たしかに気の強いところがよく似てる。彼女も上背のある男性を平気で張り飛ばす人だ。親子でも通用するかな、あの二人は」

 イハーブは肩をゆすり笑った。

「わたしがいなくなったあとにハーヴェルがいちばん頼ったんじゃないかと思ってたけど、いまはあまり会っていないのかな」

 やはり三十年も離れていたら、彼の周囲の人間関係も変化しているか。

 実際のところ錬金術師をしているのかどうかすら分からんと思っていたのだ。

 研究所の入口近くで、誰かが鉄骨につまずいた音がする。

 チッと舌打ちする声が聞こえた。

 あの声は、ラシッド王子か。

 もうすぐ陽が暮れる時間帯だ。会議が終わって私室にもどる途中で立ちよったか。


「ああすまん。今日はわたしのほうが人に来られた。接触を中断してもらっていいかい?」


 イハーブはそう告げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ