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ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
X 五次元文明社会の投射技術

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ALQASR ALMALAKIU 王甥の屋敷 2

「いちおう懸念してることがあるのでお伝えしておきますが」

 酒を口にしつつハーヴェルは切りだした。

「通信衛星の故障がイハーブのしわざにしろそうでないにしろ、他国から操作できるなら故意に全機を故障させるのは可能だと思います」

 カリルはわずかに目線を上げた。

 酒を注いでいる途中で手を止めて、またふたたび注ぎはじめる。

「そうか」

 そうカリルが返す。

「いざそうとなったら、考えうる危機は?」

「戦のさいの有利な条件は減りますね」

 ハーヴェルは答えた。

「百年前の王家と錬金術師たちの取引で、戦のさいは二ヵ月以内に武器に転用できる準備をしておくことというのがあったが……」

 カリルが言う。

 トクトクトクと音を立てて酒を注いだ。

「全機故障なら、それがすべて不可能か遅れることになります。少なくとも抑止力はなくなるかなと」

「そうとなったら、基本的には錬金術師たちに頑張ってもらうしかないな。王家(うち)にできるのは修理の資金調達と、その間に兵を持たせることくらいだ」

 カリルが答える。

 こういった話をしてもまったく慌てず対処を考えてくれる相手はありがたい。

 カリルとよく話すのは、そのあたりの話しやすさもある。

「質問いいですか」

 テーブルまえに立ったままナバートが口を挟む。そういえば面倒くさいのが一人いたとハーヴェルは思った。

「座れ。これ飲んでからだ」

 カリルが先ほど注いだ果実汁の飲みものを差しだす。

「結構です」

「んじゃいい。ハーヴェル、先話せ」

 カリルがそう促す。

「なぜ国防の話に飲みものが関係あるんですか!」

「深刻な話をしてるときほど(なご)みたいだろう」

 カリルが答える。酒の(びん)を手に持ち、自身の酒器にそそいだ。

 ナバートが、しばらくカリルの顔を見つめた。

 テーブル下にある背もたれのない椅子を自身のほうに引くと、無言で座る。

「……いただきます」

 置かれた器の飲みものを、クッと飲む。

 半分ほど飲むと、親指で行儀よく口元を拭いた。

「質問よろしいでしょうか」

「許可する」

 カリルは答えた。

「結論として、イハーブ師匠とやらは全機故障させるということをやる可能性があるのでしょうか」

 ナバートが問う。

 カリルが(ひじ)かけに頬杖をついた。

「どうかなあ……」

 とたんに呑気な口調で言う。

「どうかなって。今のところいちばん警戒すべき人物ではないですか。当の人物をよく知るあなたがいまだ結論も出せないんですか?!」

「いちばんの危険人物が、いちばん不可解な人物だからな」

 カリルが眉をよせる。

「何か、ご迷惑おかけします」

 酒を口にしながら、とりあえずハーヴェルはそう言ってみた。

先生(ウスターズ)! そうですよ、あなたの問題がまだです」

 ナバートが食ってかかる。

「あなたがひそかにお師匠の側についているかもしれないという嫌疑はいまだ晴れていませんからね!」

「今のところ疑ってるのは、いちおうおまえだけなんだが」

 カリルが酒を口にする。

「お師匠の件について知っている人間が、まだごく少数だからでしょう? 周知されれば絶対にそうはいきません」

 ふう、とハーヴェルは溜め息をついた。

 そんなに疑わしいならいくらでも家捜しすればいいのに、一向にしないのはなぜなんだ。

 これが軍人とはいえ良家のお坊ちゃまということなんだろうか。

 意気ごみはいいが、根回しや手順の段階でモタモタするタイプなのか。

 ハーヴェルは上着のポケットをさぐった。

 銅製の鍵を取りだす。それをナバートのほうに放った。

「何ですか?」

 (ひざ)の上で跳ねた鍵をナバートが両手でキャッチする。

「うちの鍵だ。好きなだけ家捜ししろ」

「ああ、それが手っ取り早いか」

 カリルが酒を口にする。

「機材とか精密機械とかは壊すな。書庫はあとが面倒くせえから、さぐったら元通り片づけろ。あと薬物の(びん)は開けてもいいが、不用意に匂いを嗅いだりするな。注意事項はそれくらいだ」

 酒を飲みつつハーヴェルはそうと告げた。

 カリルが大皿に盛られた葡萄(ぶどう)を一房とって放ってよこす。

 両手で受けとって一粒つまんだ。

「……匂いを嗅ぐとどうなるんですか」

「薬物によっては吸いこんだだけで危険なのもある」

 ナバートが眉をよせる。

「……罠ですか?」

「わざわざ引っかかるなと注意する罠とかあるか」

 ハーヴェルは眉根をよせた。

「以前、死体を一瞬でアンジェリカさんのもとへ送っていましたよね」

 ナバートが問う。

「ああ」

 あの酒場でのことか。

「……玄関を開けたとたんにべつの場所に飛ばされる仕掛けがしてあるのでは」

「転送装置はさわるな。本当にそうなる可能性がある」

 ハーヴェルは言った。

「通信衛星が故障中だと、時間もズレるんだったか」

 カリルが平然と補足する。

「ズレるのが時間くらいならまだ幸いですが、最悪べつの時間軸とかべつの次元とか」

「そんな可能性もあるのか」

 カリルが応じる。

「理論的にはあり得ないことじゃないというレベルの話ですが」

「なるほど」





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