SAHRA' 砂漠 1
「ふう……」
砂漠の真ん中。アンジェリカはラクダに付けた鞍の上で、日除け布を少しだけめくった。
周囲の景色を見る。
眼下では、侍女としてつれてきた二人の死体の美女が手綱を引き両脇に随行している。
いつもボディーガードとしてつれて来ている労働用の大柄な死体は砂の中に潜りながらうしろをついて来ているはずだ。
ヤフヤー師のところに二体置いているので、いま手元にいる死体は三体ほどなのだが、まあ充分だろう。
ギラギラとつよく照らす太陽が、分かってはいたが非常にまぶしい。
もともと光によわい薄い色彩の瞳をしているため、新しい身体をつくるさいには、瞳に耐紫外線の生体フィルターを組み入れている。
メラニン色素を極力押さえつつ太陽光への耐性という仕組みを考えるのは苦労したが、死体の保存に適した砂漠に住むのもきれいな瞳の色もどちらも捨てがたい。
だが、苦労した甲斐はあった。
イハーブお師匠さまに三十年ぶりにお会いして、自分の美しさを改めて認識していただいて、その上でアルフルシュの王太子や大臣や良家の男性に何人も見初められて求婚しまくられたあと、丁重におことわりしつつお師匠さまをあの性格の悪い錬金術師から華麗に奪うためにこの苦労があったんだわ。そう思う。
「お師匠さま……あたしにだけ伝言くださらないなんて」
ラクダの鞍についた囲いをつよく握りしめる。
「くやしい。なんで? あの錬金術師より、あたしのほうが絶対かわいいのに」
アンジェリカは日除け布の裾を目元にそっと当ててしくしく泣いてみた。
こんなふうに泣いてるあたし、超絶かわいいはず。はやくお師匠さまに見せて差し上げたい。
「……もしかしたらお師匠さま、記憶が曖昧でいらっしゃるのかしら」
不意にそんなことを思いついた。
だからあたしのことは思いだせてないのかも。
「ねえ、そりゃそうよね。五次元から襲撃されてそのあとに土に埋もれあそばされて。仮死状態だった時期がありそうだものね」
アンジェリカは、左側を歩く凛とした黒髪の美女の死体に話しかけた。
「おおせのままでございます、アンジェリカお嬢さま」
死体の美女がそう返す。
「おおせのままでございます。お嬢さまは天才でございます」
右側をあるく金髪に褐色の肌の美少女が、きれいな声でそう続ける。
「そんな状態であんな性格が悪くて生意気な弟子だけ思い出すなんて、お気の毒なお師匠さま……きっと不安でいらっしゃるはずだわ」
「おおせのままでございます、お嬢さま」
二人の死体の美女が声をそろえる。
「早くお会いして、あたしが不安をとり除いて差し上げたい……」
お師匠さまの好感度は爆上がりするはず。
あんな気づかいもない死ぬほど口の悪い弟子より、なによりもお師匠さまに伝言をいただいてもお迎えに出発する気もない薄情な弟子より、あたしを選んでくださるはず。
「それにしても」
アンジェリカは周囲の砂の山の続く景色を見回し、溜め息をついた。
「ほんっとなにもなくて退屈な景色ね。さっきからイケメンひとり通らない」
アンジェリカはそうぼやいた。
「おおせのままでございます、お嬢さま」
二人の死体の美女がそうと返事をした。




